supercellからwowaka&ハチ、DECO*27、じん、バルーン、稲葉曇まで VOCAROCKの変遷と再興するボカロシーンでの存在感
今でこそ大衆的になりつつある初音ミクを中心としたVOCALOID楽曲。一般的な邦楽・洋楽と同じくボカロシーンに関しても、当然以前から様々なジャンルの音楽が入り乱れていた。その中のひとつが、いわゆる「VOCAROCK」である。
元は読んで字の如く、ボカロによるバンドサウンドを主としたロックミュージックに対して、ニコニコ動画上でつけられるタグだったVOCAROCK。とはいえそもそも音楽シーンにおいて、ロックというラベリングはそれ自体がひどく包括的なものである。ボカロでもこれは同じで、一概にVOCAROCKと言えど時代によって様々な傾向がある。そこで今回は現在に至るまで、VOCAROCKと呼ばれる音楽がどのような変遷を辿ってきたのか紐解いていこう。
VOCALOIDの始まりを2007年8月の初音ミク登場時とした時、最初期のVOCAROCK代表曲はやはり2008年のsupercell「恋は戦争」だろう。ロックミュージックの範疇としては遅めのBPMながら重厚感のあるギターサウンド。同年のdoriko「モノクロアクト」、164「shiningray」などもこの特徴に該当する曲だ。
しかし2009~2010年頃はシーンの拡大に応じ、多彩なVOCAROCKが登場し始める。「アルビノ」を始めストレートなサウンドが特徴的なbuzzG、「君の体温」などの軽やかなピアノを乗せたポップロックが人気のクワガタP、オルタナ色の強い音にダウナーな歌詞が印象的な「くたばれPTA」などを手がけた梨本P(梨本うい)。またスクリーモ、メタルが専門のゆよゆっぺや鬱P、幅広い作風を持つゆうゆPの存在も当時のシーンには欠かせない。この面々は2010年からリリースのコンピレーション『VOCAROCK collection feat.初音ミク』シリーズにも幾度となく名を連ねている。ここまで多彩な曲がVOCAROCKという一ジャンルに括られたことが同シリーズ誕生の理由のひとつでもあり、結果このコンピが計5枚のアルバムを出す人気作となった要因でもあるのかもしれない。
そんなバラエティに富んだVOCAROCKだったが、同時期に頭角を現したwowaka・ハチ(米津玄師)の二大巨頭により、これ以降徐々にいわゆる「ボカロっぽい」と言われる画一的な曲が増え始める。転調するサビや音色・音数の多さ、高BPMでの四つ打ち。2010年のヒット曲「マトリョシカ」(ハチ)、「ワールズエンド・ダンスホール」(wowaka)に見られる傾向が、2011~2013年のVOCAROCKにはより顕著な形で表れている。じん(自然の敵P)による『カゲロウプロジェクト』シリーズや、2011年の164「天ノ弱」、2012年のNeru「ロストワンの号哭」、kemu(堀江晶太)「六兆年と一夜物語」がその代表例だ。
また同じ頃、初音ミク以外を使ったVOCAROCKも目立ち始める。Megpoid(GUMI)によるDECO*27「モザイクロール」を筆頭に、同じくGUMI歌唱のLast Note.「セツナトリップ」。また2012~2013年はじん(自然の敵P)の影響かIA楽曲も多く、その潮流が2013年7月の『VOCAROCK collection loves IA』リリースにも繋がっているのだろう。
その後2014年頃からボカロは一度衰退期へ突入する。だが活動を続けるボカロPもおり、ここでVOCAROCKの傾向も一度大きく変化している。この時期を支えたOrangestarやn-buna(ヨルシカ)、40mPらによるポップロックサウンドが主流となり始めるのだ。「アスノヨゾラ哨戒班」(Orangestar)、「ウミユリ海底譚」(n-buna)、「恋愛裁判」(40mP)のような軽やかなギターやシンセ、ホーンを多用したアレンジがこの時期のVOCAROCKの特徴とも言えるだろう。