新連載「lit!」第1回:The Linda Lindas、Rosalía……バンド名や楽曲などにも 日本と接点のある海外ポップミュージック
みなさん初めまして、もこみと申します。リアルサウンドで今回よりスタートした連載「lit!」の第1回を担当することになりました。様々なシーンやジャンルの作品を週替りでレコメンドしていく連載となりますが、本記事では最近リリースされた海外のポップミュージックの中から「特に注目したい曲」を数曲選び、それぞれ丁寧に紹介していきます。
さっそくですが、今年最初のビッグリリースとなったザ・ウィークエンド『Dawn FM』収録曲「Out Of Time」では、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」(1983年)が大胆にサンプリングされていたり、ザ・ウィークエンドも参加するスペインのポップスター、Rosalíaの最新アルバム『MOTOMAMI』では日本語が散りばめられていたりと、最近の海外のリリース作で日本のカルチャーや言語を目にすることが増えていると感じる方も多いのではないでしょうか。
また、名作ゲーム「星のカービィ」サウンドトラックのアレンジ曲(The 8-Bit Big Bandによる「Meta Knight’s Revenge – Fusion Big Band version ft. Button Masher」)が『第64回グラミー賞』最優秀インストゥルメンタル/アカペラ編曲賞を受賞したり、日本にゆかりのあるアーティストが世界最大級の音楽フェス『Coachella Valley Music and Arts Festival』(以下、『コーチェラ』)で注目を集めていたりと喜ばしいニュースも相次いでいます。
そこで今回は「日本と接点のある海外ポップミュージックの新曲」という観点から5曲を選びました。
The Linda Lindas「Growing Up」
まず紹介するのは、The Linda LindasというLAのガールズパンクバンドによる1stアルバムのタイトルソング。オリヴィア・ロドリゴ「good 4 u」の大ヒットに見られるように、近年再流行の兆しのある軽快なポップパンクです。
The Linda Lindasは11歳から17歳までのアジア系・ラテン系アメリカ人の4人からなる新人バンド。彼女たちの存在を世に知らしめたのは、昨年5月に公開されたLA中央図書館からのオンラインライブ映像でした。当時10歳のミラ(Dr/Vo)が学校で同級生から受けた人種差別が基となった「Racist, Sexist Boy」の力強いメッセージと演奏は瞬く間に世界中を魅了。Paramoreのヘイリー・ウィリアムスやRed Hot Chili Peppersのフリーなど、多くのロックスターたちも彼女たちのパフォーマンスを激賞しています。
バンド名は、THE BLUE HEARTSの代表曲「リンダ リンダ」が由来で、4人の女子高生バンドが主役の青春映画『リンダ リンダ リンダ』を通じて知ったそうです。THE BLUE HEARTSが時代も国境も超え、少女たちを奮い立たせているとは、とても素敵な話です。
“大人になるのは思い通りになるってことじゃない”という歌詞から始まる「Growing Up」は、そのメッセージ性にドキッとするのはもちろん、サウンドも大人顔負けの骨太さで、今後もかなり期待できる注目すべきバンドだと思います。また、『SUMMER SONIC 2022』での来日も決定しているので、ぜひ今のうちに生のライブを観ておきたいですね。
Denzel Curry「Zatoichi」
続いてはアメリカ・マイアミを拠点に活動するラッパー、デンゼル・カリーの新作アルバム『Melt My Eyez See Your Future』からのシングル曲「Zatoichi」を紹介します。カリーの他の新曲でも、ジャケット写真に「あるく 目が溶ける 未来を目指せ」という日本語が大きく載っていることが話題になりました。
「Zatoichi」はカリーのパワフルなラップの後、客演に迎えた英国のラッパー、スロウタイのコーラスで曲調が急にドラムンベースへとギアチェンジする展開がユニークな楽曲です。
印象的なタイトルは日本のアクション時代劇『座頭市』から取ったもの。カリーは日本のカルチャーへの愛を公言しており、同アルバムのシングル「Troubles」MVでは『NARUTO -ナルト- 』のうずまきナルトを思わせる髪型とヘッドバンド姿で登場しています。
『キル・ビル』や侍映画を参考にしたという「Zatoichi」のMVがなぜかカンフー映画っぽいという点はツッコミたくなりますが、厳しい武術の修行に打ち込む姿と攻撃的なトラック、そしてパワフルでスキルフルなラップが三位一体となって強烈な印象を与える作品となっています。
Omar Apollo「Tamagotchi」
次はタイトルに「たまごっち」を冠するこちらの曲。メキシコ系アメリカ人シンガーソングライター、オマー・アポロのデビューアルバム『Ivory』からの一曲です。この曲はファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴからなるプロデュースユニット、The Neptunesが手掛けたラテン風のトラップビートに、アポロがスペイン語と英語でのラップを乗せていくスタイルです。アルバム自体はラップ以外にもそのセクシーで耽美な声で歌い上げるR&Bやロック、そして弾き語りまで、その音楽性は多岐にわたります。
実は本楽曲に限らず「たまごっち(Tamagotchi)」は海外のラッパーの間で使われることがあり、世界最大の歌詞サイト・Geniusで検索してみると大量に実例が出てきます。主に恋愛関係についての比喩表現として使われていることが多いように見受けられます。韻を踏みやすい単語であることもポイントでしょう。
また、アポロは先日行われた『コーチェラ』でも堂々としたパフォーマンスを披露しました。ギターが弾けてラップもできて歌も上手い。余裕綽々な雰囲気もカッコよく、スーパースターになる未来も近いような気がします。