ハリー・スタイルズが“ロックスター”へと覚醒したコーチェラフェス あらゆるイメージを塗り替えた大舞台の全貌

ハリー・スタイルズ、コーチェラの全貌

 2年の休止期間を経て、世界最大級の音楽フェスである『コーチェラ・フェスティバル』(以下『コーチェラ』)が遂に復活を果たした。『コーチェラ』は現地の観客に限らず、YouTubeの生配信を通して世界中の音楽ファンが体験を共有できる巨大イベントであり、だからこそ、同フェスへの出演は多くのアーティストにとって極めて重要な意味を持っている。期待通りのパフォーマンスを楽しめるのももちろん素晴らしいが、それ以上に重要なのは「これまでのイメージを世界規模でひっくり返すことができる」可能性がここにはある、ということだ。

 今回のラインナップで特に大きな注目を集めたのは、初日のヘッドライナーを務めたハリー・スタイルズだろう。2010年にイギリスのオーディション番組『Xファクター』から生まれたボーイバンド、One Directionのメンバーとして世界中で絶大な人気を獲得し、2016年の活動休止以降もソロアーティスト/俳優として精力的に活動を続け、今なおポップシーンのフロントランナーとして多くの人々を魅了している存在だ。

 このヘッドライナー出演を巡っては、必ずしも歓迎ムード一色だったというわけではない。ボーイバンドの一員であった経歴は批評面において極めて冷遇されやすい存在であり、圧倒的なアイドル的人気も相まって、一部の音楽ファンからは「アイドルはヘッドライナーに相応しくないのではないか」という指摘があったのも実情である。だが、昨年の大ヒット曲「ウォーターメロン・シュガー」で自身初のグラミー賞を獲得するなど、そういった冷笑の声を自らの実力によって裏返してきたのがハリーという人物であり、それは今回の『コーチェラ』のステージにおいても同様である。

 
 
 
 
 
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 ハリーの今回のステージへの向き合い方を何よりも象徴していたのは、そのファッションだろう。全身をレインボーのスパンコールが覆い尽くすGUCCI製のジャンプスーツは、まるでディスコという概念をそのままファッションへ落とし込んだかのようであり、反射する光にも負けないくらい美しく大胆なVラインも相まって、これまでに歴史を彩ってきた様々なロックスター(筆者個人としては、特にデヴィッド・ボウイやフレディ・マーキュリー)の姿を彷彿とさせる。異質にも感じたが、自信に満ちた表情と堂々たる立ち振る舞い、そして圧倒的なスター性がそのファッションに強靭な説得力を与えている。

 ステージセットに目を向けてみても、明らかに他の主要アクトと比べてシンプルなものであった。ド派手な演出や配信を前提とした凝ったカメラワークはなく、左右の螺旋階段がアクセントとなっているステージ上に、バンドメンバーがそれぞれ固定のポジションを構え、パーライトとストロボがパフォーマンスを盛り上げていく。これもまた数十年前のロックコンサートを彷彿とさせるものである。

 
 
 
 
 
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 そのような目を引く状況の中で1曲目を飾ったのは、4月1日にリリースされたばかりの最新シングル「アズ・イット・ワズ」だ。1980年代のポップソングを象徴する存在・a-haの「テイク・オン・ミー」を彷彿とさせるサウンドが印象的な同楽曲は、まさにこのステージセットと衣装で披露することにより、これ以上ないほどの輝きを放つ。冒頭のスネアドラムの音を合図に、会場中にハリーのオーラが虹色の輝きと共に炸裂する。立地的に風が強いことで知られる『コーチェラ』のステージを全く気にすることなく、ライブによって重厚感を増幅させたバンドの演奏と絡み合いながら美しい歌声を響かせていく。観客の熱量も圧倒的で、時折黄色い歓声も織り交ぜながら大合唱で迎え入れる。この時点ですでにハリーは勝利を確信したのか、最後のコーラスでは全身で喜びと興奮を爆発させ、言葉にならない叫び声をあげた。

Harry Styles - As It Was - Live at Coachella 2022

 その勢いのまま、一気に自身の代表曲である「アドア・ユー」が放たれる。本来は70~80年代のファンクポップを基軸としながら、音像をクリアかつソリッドに磨き上げて現代的な手触りのポップソングとして仕上げられた楽曲だ。だが、今回のパフォーマンスではテンポをグッと落とし、随所でギターソロを響かせじっくりとムードを作っていくという濃密な仕上がりとなっていた。それは「ゴールデン」や「ライツ・アップ」といった他の楽曲においても同様であり、ただ楽曲を音源通り再現するのではなく、その影響源にまで遡ったかのようなパフォーマンスとなっていたのだ。原曲の時点でロック色の強い「キウイ」に至っては、もはやヘヴィロックの領域へと足を踏み込んでおり、タガが外れたかのように本能的なヘヴィネスを叩き込むバンドメンバーを従えながら、荒々しくキレのあるシャウトを決め、全身からエネルギーを放出させるハリーの姿はもはや“ロックスター”という言葉以外では形容ができないほどだ。よりルーツへと近づくことによって、明らかにハリーが覚醒しているのである。

Harry Styles - Kiwi - Live at Coachella 2022

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