春畑道哉、オーディエンスの想像力を広げるギタリスト 35周年の軌跡が濃縮された鮮やかなサウンドを解説

春畑道哉、35周年が濃縮されたサウンド

 国民性か、カラオケ発祥国だからか、日本はインストゥルメンタルミュージック(インスト)の市場が狭い。しかし、インストは想像力を解放し、別世界へ飛び立つ窓である。

 歌詞があると、情景や心情がわかりやすい分、たとえば失恋の歌を聴き、心を躍らせるなんてことはない。山の情景が出てくれば、大海原を思い描く人はいない。ところが、インストは自由。さらに奔放。季節も情景も、心情も時代も、すべてリスナーの思うまま。

 多くの日本人が「知っている」と答えるインスト、なかでも日本人アーティストによるそれは、残念ながら非常に限られている。ただし「情熱大陸」(葉加瀬太郎)と「J'S THEME(Jのテーマ)」(春畑道哉)は例外。好感度と認知度、どちらも高い。

 そんな後者の『Jリーグ』オフィシャルテーマソングを作曲し、演奏している春畑道哉は、ご存知のとおりTUBEのギタリストだ。もちろんバンドの代表曲のほとんどを手がけている作曲家でもある。ただ、ソロギタリストとして1987年にデビューアルバム『DRIVIN'』を発表し、これまでにインスト中心で10枚のソロアルバムをリリースしていることは、「あー夏休み」しか知らない方には、驚きのキャリアかもしれない。

 ソロデビューから35周年となる今年、4月27日に11作目のオリジナルアルバム『SPRING HAS COME』がリリースされた。これまさにThis is Him! 彼そのものである。彼の懐の深さや音楽性の幅広さ、あるいは人柄やテクニックが、誇張も衒いもなく、ここにある。

 アルバム表題曲「Spring has come」が始まり、開始3秒あたりで彼のエレクトリックギターがリズムを刻む。カッティング。ピックが弦にヒットした瞬間、クランチのもっともおいしいビリつきが響く。クランチとは、普通に弾けばクリーンサウンドだが、強く弾いたときだけ微妙に歪む、エレクトリックギター特有の音色。真空管アンプなどのツマミや右手の力加減でコントロールするしかない。センスとテクニックの結晶。そんなお宝を早々に惜しげもなく披露してしまうのが春畑道哉なのである。おおらかだ。ちなみに曲名に出てくるSpringは、春畑のニックネーム“ハル”にかけているのかも……。

 「I feel free (feat. Char)」にも触れておこう。日本のロックギターのパイオニア Charとのコラボレーション。レコーディングの模様は、TUBE Official YouTube Channelにアップされているので、是非そちらも観てもらいたい。憧れの人との共演を心から楽しんでいる春畑。この無邪気さもまた彼そのものだ。

春畑 道哉 / Michiya Haruhata / I feel free (feat. Char)

 アルバムを締めくくるのは「Period.」。今年1月22日の、春畑のTwitterにこうある。「今日録音した新しいバラードに『Period.』と命名♫ タイトルが決まったその瞬間 曲に力強く生命が宿った気がする」(※1)。確かに。歌詞はない、ボーカルもないが、力強い生命力が伝わってくる。チェロを加えたアレンジも新鮮だ。人間の声にもっとも近い音域を持つと言われるチェロと春畑のエレクトリックギターが、生きる喜びを歌い上げている。

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