“25時、ナイトコードで。”が歌うボカロアンセム 初音ミクと声優陣の歌声が織り成す、絶妙なバランス感とは
4月7日、“25時、ナイトコードで。”(以下、ニーゴ)のアルバム『25時、ナイトコードで。 SEKAI ALBUM vol.1』が発売された。
ニーゴは、スマホゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』内のユニット。東雲絵名(CV:鈴木みのり)、朝比奈まふゆ(CV:田辺留依)、宵崎奏(CV:楠木ともり)、暁山瑞希(CV:佐藤日向)からなる音楽サークルで、各々心の傷を抱えた4人がボイスチャット“ナイトコード”で居場所を見つけながら音楽を作る。
そんな彼女たちがこれまでゲーム内で歌ってきたボカロ曲が一堂に会したのがこのアルバム。ストーリーを知っている『プロセカ』ファンにとって聴きごたえがあるのは言うまでもないが、声優と初音ミクがボカロアンセムを歌うという豪華さは、『プロセカ』をプレイしていないボカロファンにとっても喜ばしいものだろう。
『プロセカ』に存在する5つのユニットの中でも、よりパーソナルな問題にフィーチャーするストーリーが多いニーゴらしく、内省的な楽曲が多く収録された本作。1曲目に収録される「自傷無色」を筆頭に、「とても痛い痛がりたい」など、ストレートな苦しさを表現した楽曲も多い。「自傷無色」は楠木と田辺による息成分の多い呟くような歌声が奏とまふゆ、2人のキャラクターの表情の乏しさを思い起こさせ、寂しさや孤独を彷彿とさせる。「ハロ/ハワユ」は、弱さと向き合う歌詞と穏やかな曲調に乗せて、静かだが力のある田辺と憂いを感じさせる鈴木のキュートな歌声の対比が特徴的。佐藤と田辺が歌う「乙女解剖」の歌詞はゲーム内容とも関連があり、瑞希の可愛いもの好きの趣味と本人を苦しめるストーリーが〈この好きから逃げたいな〉と繋がる。さらに〈本当の名前でほら呼び合って〉の部分は、まさにハンドルネームで呼び合うニーゴを象徴するかのようだ。グループの性質を表す選曲と、ストーリーと関連する歌詞で『プロセカ』の世界に引き込みながら、声優陣による悲しみややるせなさの巧みな表現でカバーとしても魅力ある作品となっている。
そして初音ミクと声優陣の掛け合いも、このアルバムにおけるポイントだろう。楠木とミクが担当する「命に嫌われている。」は、2人のみで歌うことで楠木の囁くような歌声とミクの声質の違いがより強調される。楠木による奏の歌声は常にクールで感情をたかぶらせることはないが、ミクと歌うことで歌唱の細やかなニュアンスが目立ち、他にはない説得力を生みだしている。特に〈寂しいなんて言葉でこの傷が表せていいものか〉と歌う声には苦しさややりきれない思いが滲んでおり、短いフレーズながら圧巻だ。
「カトラリー」では、Aメロでミクと田辺、楠木が順に歌うことで、アンニュイなまふゆと奏の歌声に平然とミクが寄り添うような雰囲気を感じ取ることができる。残響の少ないピアノの音色とともに紡がれる、静かで語るような抑揚のある詞が自然体で心地よく、ニーゴの中でも透明感のある歌声を持つ2人が歌う高音のサビも儚げだ。