マハラージャン、“心の傷三部作”完結を機に3曲を徹底解説 本格的なダンスに挑戦したMVの魅力も

マハラージャン、“心の傷三部作”レビュー

 「先に言って欲しかった」「比べてもしょうがない」「持たざる者」という楽曲を3カ月連続リリースする旨を本人の口から聞いたのはKroiとの2マンライブ『Dig the Deep』だったのだが、オーディエンスの“御意”とばかりに起こった笑いは記憶に新しい。それぐらい、マハラージャンに抱かれているパブリックイメージはすでに強固で、具体的な楽曲を期待させるパンチラインを持つタイトルは彼の専売特許のようなものなのだ。

 社会人経験を背景にした“心の傷三部作”と称して、1月から3カ月連続リリースされてきた3曲だが、つくづくこの人は音楽が好きなんだなという感想を抱いた。むしろ、カッコいい曲なら、どれだけジャンルの振り幅があろうとも突き通せる芯を歌詞やキャラクターが担保しているとも言えるのだが、前出のライブで初披露された「先に言って欲しかった」が音源になった際の驚きといったら、ちょっと感動的ですらあった。

先に言って欲しかった

 The Libertinesや初期のArctic Monkeys的なR&R(ロックンロール)リバイバルももちろん引き合いに出せるのだが、このメリハリというか古典的な「いっちょ言わせてもらおうか」っといった口上となだれ込む演奏の緩急はJETやThe Jon Spencer Blues Explosionや、日本ならドミコのシンプルながら破壊力抜群なR&Rを想起させる。沸点に達した狼狽と怒りは一見、大人しそうな人ほど決壊した時が怖いーーそれを表現できるのはこの曲のような展開しかないのでは? というハマり具合を見せる。しかも前置きである歌詞の〈俺はあまり怒らない〉は中森明菜が歌う「飾りじゃないのよ涙は」(1984年)のように、その後の展開を期待させる。何を“先に言って欲しかった”のかはラストサビの〈御曹司なら〉〈派閥あるなら〉あたりが仕事上ゾッとするリアリティを醸すが、〈家出してるなら〉は「おいおい、そっちか?」とツッコミたくなるハズしのポイントだ。しかもマハラージャンのギタープレイがホワイトブルースを基調にしたロックのカッコよさを煎じ詰めたリフとフレーズであることも、彼の音楽的な振り幅を示唆している。

マハラージャン - 先に言って欲しかった [Official Live Video (2022.1.15 YouTube Live)]

美しいメロディゆえに笑いというマジックも

 第二弾の「比べてもしょうがない」は一転、J-POPマナーな素直な展開とリズムを持ちつつ、過剰なまでのシンセサイザーが現実逃避感を否応なく加速させる。だいたい〈パラリラルララ〉ってなんだ? とここもツッコミたくなるのだが、音の響きの良さと、もう人と比べるのなんてうんざりだ、“僕らはほとんど一等星じゃなくて流星群なんだし”という諦めと、十二分に大人な年齢に達しつつ〈僕らがくだらない大人になれたら〉と歌うある種、青臭いとも言える厭世観を響きのいいメロディで聴かせてしまう力技。なんといっても美しいメロディラインに乗る第一声が〈比べてもしょうがない〉であり、マハラージャンのちょっと甘めのボイスで歌われると、そうだね、今までしんどかったね、と共感しつつ、その美しいメロディゆえに笑いというマジックも起こる。しかも〈知らなかっただけの世界へ行けたなら〉という締めは逃避ではなく、退路を断って音楽の道を選ぶ直前の彼自身にも思えるし、優秀な人の苦悩にも想像が及んでいるのでは? と思わせるところが冴えている。

比べてもしょうがない
マハラージャン -比べてもしょうがない [Official Live Video]

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