君島大空、ポップしなないで、Nulbarichら手掛ける映像ディレクター 平牧和彦 MVで追求する実験的な表現

映像ディレクター平牧和彦インタビュー

 Webムービー、CM、ミュージックビデオを数多く手がけながら、東京五輪開閉会式の映像ディレクションも担当するなど、幅広い映像作品を次々と生み出す映像ディレクター / モーションデザイナー、平牧和彦。MVでは昨年12月に公開されたNulbarich「It’s All For Us」が記憶に新しいが、自身の音楽への造詣の深さから、アーティストにとって新規軸となる表現が盛り込まれた作品には、音楽業界からも注目が集まっている。

 彼が表現する、新しい映像技術や仕掛けのあるストーリーで構成された斬新な映像は、どのような思考のもと創られているのか。また、彼が注目する昨今の映像とは何か。ユニークな制作工程のエピソードを織り交ぜながら語ってもらった。(編集部)

君島大空のライブに感銘を受けたことから制作に至った「笑止」MV

ーー2月末にギークピクチュアズを退職され、フリーになられたばかりですね。

平牧和彦(以下、平牧):そうですね、クリエイティブアソシエーションである『CEKAI』にマネジメントをしていただいています。CEKAIにはMVを手がける映像ディレクターも多いですね。アートにも精通しているバンドの快速東京・福田哲丸(Vo)さんも所属していたりと幅広いです。

ーー新しい門出のタイミングにこうしてインタビューできることを嬉しく思います。それでは、まずは平牧さんが制作されたMVについてお話を聞かせてください。2019年に公開された蓮沼執太「CHANCE feat. 中村佳穂」は、東京の風景を縦型に撮った映像が印象的でした。

平牧:この作品は通常のMVとはまた違ったアプローチで、”動画写真集”というテーマで編集しました。ディレクターというよりはエディターとしての意味合いが強い仕事になると思います。

蓮沼執太 Shuta Hasunuma - CHANCE feat. 中村佳穂 Kaho Nakamura (Official Music Video)

ーー2020年公開の君島大空「笑止」は、アングルや撮影方法なども独特で、これまでにない君島さんの映像としてとても印象的でした。

平牧:この作品は、僕が君島さんのファンで、ライブを観に行ってすごく感動して、その晩中に企画書を作ってインスタにDMしたんです。まだ全然曲も決まってないのに、「君島さんに合う映像のプランはこちらです!」って連絡しました(笑)。

ーーとても熱いですね!

平牧:ただ、返信をいただいたのが半年後くらいなんですけど……そこから2カ月くらいで一気に作り上げました。楽曲が今までにない感じの君島さんのイメージだったので、さらに気合が入りましたね。

君島大空 「笑止」Official Music Video

ーー情熱が実を結んだMVだったんですね。続いて、バンド・ポップしなないでのMVも何作か制作されていますが、ポップしなないでとは、どのようなきっかけでお仕事が始まったのでしょうか?

平牧:以前に、韓国出身で東京を拠点に活動しているエレクトロニックミュージシャン・machìnaのMVを手がけたことがあり、そのプロデューサーの方からご連絡をいただいたことがきっかけですね。最初はまず、ライブに行かせてもらいましたが、とても良くて。音源の再現度の高さに驚きました。その後、メンバーの皆さんとのやりとりを重ねながら、「救われ升」を作りました。

machìna - Namu Amitabul
【MV】ポップしなないで「救われ升」

「ビートごとにカットが変わっていくところを “支離滅裂感”として表現したかった」

ーー最新作の「支離滅裂に愛し愛されようじゃないか」は設定がとてもコミカルに感じます。このストーリーもご本人とのやりとりの中で決まっていったのですか?

平牧:ポップしなないでのお二人には、基本的に全てこちらに任せていただくことが多いです。なので、いつも僕が一からアイデアを出していくんですけど、この曲については、最初にJoji「Gimme Love」のMVをリファレンスしました。このMVの、ビートごとにカットが変わっていくところを “支離滅裂感”として表現したいなと思ったのですが……Excelに音節を全部書き出して、何カット必要か算出したところ、2000カットほどという結果になって、それは流石に難しいなと。そこからは、ストーリー自体をどう作るかにシフトしていきました。ポイントとしては、僕にはボーカルのかめがいさんの歌うサビの雰囲気が、どこか誘拐犯に攫われて“助けを求めている叫び”のように聴こえたので、それを起点に先の展開を考えていきました。

Joji - Gimme Love (Official Video)
【MV】ポップしなないで「支離滅裂に愛し愛されようじゃないか」

ーーそれは、なかなか斬新な視点ですね。悲鳴に聴こえたのは、〈コネクト!超伝導脳を繋ぐ〜〉の部分ですか?

平牧:そうです。そのアイデアが出てからは、ストーリーがどんどんまとまって、オチも思いつきました。なのでこのMVは、バックグラウンドとしてストーリーがありつつ、「Gimme Love」のようなギミックも盛り込んでいったことで、今の完成形に着地したという形です。

ーーなるほど。ストーリー自体にインパクトがありながら、細かいカット割が音楽に連動しているところが印象的でしたが、そういった工程で作られていたのですね。

平牧:また、かめがいさんは元々演劇もやられているので、演出にも積極的に応えてくれたこともあり、表情なども印象的になっていますね。

ーーでは、直近のMV、Nulbarich「It’s All For Us」についての制作エピソードを聞かせてください。これまで平牧さんが作られたMVにはあまりない、ストーリー仕立てが新鮮でした。

平牧:あまりストーリー仕立てのMVは作ったことがなかったのですが、せっかくなのでしっかりやってみたいなと。でも単純なストーリーだとあまり自分が作る意味がないと思っていて。これまでも新しい技法を取り入れるなど、“映像としての面白さ”にはこだわって作ってきたところがあるので、それらの要素を抱き合わせて作った作品です。制作工程としては、先にストーリーを考えました。

ーー楽曲の持つ明るい印象からは、少し意外性のあるストーリーに感じましたが、テーマはどのように決めていったのでしょうか?

平牧:NulbarichのJQ(Vo)さんから、楽曲の持つ意味を教えていただいて。世の中の情勢も不安定な中で、先は見えなくてもあなたがいるから一歩でも少しでも前に進めるーーといったメッセージをいただき、自分なりに咀嚼しました。そこから、“一つのものを完成させようとすると、他のものがズレていって、最終的に全部壊れてしまう”という大きなテーマを設定して、映像的に見ても面白いギミックがありつつ、テーマのメッセージが伝わるものになればいいなと。結果的に、YouTubeのコメントでも、意図を感じ取ってくれた人が多くて嬉しかったですね。あと、出演いただいたマツモトクラブさんの人気もすごかったです。

Nulbarich - It’s All For Us (Official Music Video)

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