櫻坂46「五月雨よ」MVがファンの心を掴んだ理由 3つのポイントから探る

 先日公開された櫻坂46の4枚目のシングル『五月雨よ』の表題曲のMVが好評だ。監督はこれまでにCHAIやBAD HOP、kZmといった気鋭のアーティストの作品を手掛けてきた映像作家の堀田英仁。櫻坂46とは初タッグである。映像は大自然を舞台にメンバーたちが物憂げな表情や柔らかなパフォーマンスを見せる前半から、静岡のグランシップ(静岡県コンベンションアーツセンター)内にある最大約4,600人が収容可能な巨大な空間(”海”と呼ばれる大ホール)を存分に使ったダンスシーンの後半まで、ゆるやかに映し出していくというもの。公開されるとコメント欄には海外からの反響であふれ、日本からも「櫻坂46を好きでよかった」「なんか泣けてくる」といった投稿が寄せられていた。再生数は3日後に100万回を突破。そんな今作の好評の理由を、いくつかのポイントから探ってみたい。

映像から伝わる温かい安心感

 一つは、温かみを感じる映像である点が挙げられるだろう。今作は16ミリフィルムを使用して撮影したという。それによって画面に独特のザラついた質感が生まれ、全体的に温もりやノスタルジックな雰囲気が感じられるものになっている。例えば、水面をバックにメンバーがこちらを見ているシーンがあるが、通常ならばこれは水からの冷たさが視覚的に伝わる場面だ。それが16ミリフィルムを使ったことで、逆に自然の温もりを感じられるカットになっている。

 映像の温かみには、他の多くの要素も一役買っている。地面いっぱいに生い茂るすすき野原で太陽の光を目一杯に受ける仕草や、メンバーが大自然に溶け込むような撮り方、あるいはメンバー同士が密接に触れ合うシーンの多用など、総じて草木や人肌の温もりがじんわりと伝わる映像表現が展開されている。とりわけ全員で踊っている後半の大ホールは、上から自然光が差し込む設計になっているため、屋内にいながらも屋外かのような開放的な空気感を演出しており、衣装の生地の肌触りまでこちらに伝わってくるようだ。

 こうしたいくつもの表現が重なることで、映像全体からどことなく温かい安心感に包まれるような感覚が受け取れるのだ。

これまでのスタイルを一新した振り付けや撮り方

 シンプルな振り付けも新鮮さがあってよい。櫻坂46と言えば、フォーメーション移動や動きの激しいダンスが特徴の一つ。しかし今作は、一転して柔らかく穏やかな振り付けが印象深い。最も印象的なのはサビで胸に手を当てて優しくなだめるような所作である。握った両手を胸のあたりで回す振りもハートウォーミングな魅力がある。どちらも覚えやすく、誰でも真似しやすいダンスだ。

 メンバーの表情がよく見えるビデオなのもポイントである。前述した通り激しいパフォーマンスで一貫してきたため、顔をじっくりと映す作品はあまりなかった。対して今作は、メンバーがこちらを向きながら大自然を背に浮遊しているかのような、妙に目に焼き付く撮り方をしている。そもそも顔のどアップからスタートするのも大胆だ。いずれも表情をよく認識できる映し方で、彼女たちのナチュラルな魅力を引き出している。

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