Apes、WurtS、MMNC、mabuta……活況呈する新世代バンドシーンから読み解く、”オルタナティヴロック”の新解釈

”オルタナティヴロック”の新解釈

 今、ここ日本で新世代のオルタナティヴロックが勃興している――という趣旨の本稿なのだが、その「オルタナティヴ」という言葉は厄介なものだと常々感じている。ジャンルとしての「オルタナ」は、必ずしもその時代において「オルタナティヴ」=「反主流」「型にはまらない」と感じさせる音楽と一致しないからだ。もちろん、重要なのは後者、マインドにおいてオルタナティヴかどうかである。NIRVANAも、ベックも、日本のくるりもNUMBER GIRLもアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)も、今でこそクラシックな「オルタナ」になりつつあるが、登場したときは「それ以前」への明快なカウンターであり批評であり、語弊を恐れずにいえば「ヘン」なものだった。つまり、その音楽が、そのバンドが「オルタナティヴ」であるかどうかは、次の一点にかかっているのだ。「既存の価値観を転覆し、新たな価値観を創造するものであるかどうか」。カウンターカルチャーとしてのエネルギーと、批評としての強度をもっているもの、要するに現状にクソ喰らえとばかりにハンマーを振り下ろして壁をぶっ壊し、周りを「これアリなんだ!」と驚かせ、最終的には「いや、やっぱ最高じゃん!」と唸らせる、そういうものこそ「オルタナティヴ」と呼ばれるべきだ。

マインドとして新たな“オルタナティヴ”ロックが生まれている新世代

 前置きが長くなったが、そういう意味でも、今の新世代バンドシーンはとてもおもしろい。ジャンルとしてではなく、マインドとして新たな”オルタナティヴ”ロックが生まれてきている、その流れを強く感じるからだ。音楽性はバラバラ、それぞれがそれぞれの方向を向いて好き勝手に音楽を喰って吐き出している、そんな感じでありながら、じつはとても理知的に時代との距離を図りながらそれぞれのスタイルを選び取り、確信をもって音を鳴らしている。オルタナティヴなマインドを持ちつつ、そのマインドを保ったままどう勝負を仕掛けるかというところまで考えて音楽を生み出している。だから個々で見るとそれぞれの個性が際立つのに、引いた視点で見るとすべての点がつながってひとつの大きな地図を描き出しているような気がするのだ。ロックが冬の時代を迎えたと評されて久しいが、そんな時代だからこそ、彼らはロックを批評し、強烈なカウンターパンチを繰り出す瞬間を虎視眈々と狙っている。

 ジャンルとしての「オルタナ」という言葉を今のシーンに照らしたときに、その絶妙なる立ち位置とユニークな在り方でまず目につくのはWurtSだろう。音楽家であると同時に「研究者」でもある彼は、まさに批評的な目を持ってロックミュージックを鳴らしている表現者のひとりだ。90年代ロックを意識した「分かってないよ」のような曲もあるが、同時に彼はヒップホップもやるしダンスポップもやるし、「サンタガール feat.にしな」のようなベタなクリスマスソングも作ったりする。壮大なフィールドワークの記録ともいえるアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』が証明しているのは、膨大なアーカイブを参照し、そのエッセンスを自由に混ぜ合わせることで、より戦略的かつ効果的にカウンターを繰り出すことが可能になった今のロックのタフさだ。

WurtS - 分かってないよ (Music Video)

 同じ意味でバンド形態ながらより自由に、より不定形に変化・進化し続けているのが東京を拠点に活動するMonthly Mu & New Caledoniaだ。2019年3月の結成からちょうど3年、リリースする作品ごとにその音楽性はますます広がりを見せてきた彼らだが、その帰結として、昨年12月に配信された最新曲「冬渚」ではどシンプルなバンドサウンドを鳴らしている――というか「どシンプルに聞こえる」というのが正確なところで、リズムの刻みやギターのオーケストレーションにはほとんどポストロック的な緻密さや精巧さを感じるし、メロディにはブラックミュージックのグルーヴ感も宿っている。90年代のUSインディを解体し、再構築した現代版オルタナーージャンルとしてのオルタナに対する真のオルタナティヴを、とても大胆なやり口で打ち上げているのである。

Monthly Mu & New Caledonia - 冬渚 (Official Video)

 どシンプル、ということであれば、今個人的にもとても好きなバンドのひとつが埼玉・秩父発のmabutaだ。メンバー全員のフェイバリットだというLOSTAGE、the band apart、それからごく近い世代でいうと同じ埼玉出身(といっても東と西でまったく違うが)のKOTORI(もちろん対バン済み)あたりに通じる轟音ロックを鳴らしている彼らだが、いいなと思うのはオルタナやエモといったジャンル論に決して閉じていないところ。メンバーそれぞれのルーツがバラバラであることも影響しているのかもしれないが、サイケ風味のヘヴィチューン、センチメンタルなミディアムバラード、ハードロッキンのリフナンバーなど、繰り出される楽曲は多彩。しかもその多彩さがキャリアの中で少しずつ獲得されていったというものではなくて、最初から出揃っているようなのがおもしろい。ちょうど今年1月にニューアルバム『LANDMARK』をリリースしたばかりだが、音楽的なコントラストはますます鮮明になっている。

mabuta「HIGHWAY」Official Music Video

 WurtSにしろ、MMNCにしろ、mabutaにしろ、ジャンルの越境を恐れず、むしろ当たり前のものとして表現しつつ、さまざまな音楽のいいところ、おいしいところを的確にピックアップする勇気とセンスにはハッとさせられる。加えて共通するのは歌メロがしっかり作り込まれているところ。自由自在に音楽を展開しながら、刺すべきところはしっかり刺すある種のケレン味のなさは、たとえばボカロを起点とするDTMミュージックの作法にも通じるところがある。有象無象の中で自力でチャンスを掴んでいくには、間口を広くしながら同時に奥行きを深めていくようなことが必要だが、ここに挙げたアーティストたちはそれをナチュラルに実現しているのだ。その在り方が、ヘヴィかソフトか、ファストかメロウか、あるいはインディーかメジャーかなど、とかく二項対立で語りがちなロックに対する文字通りの「オルタナティヴ」として機能しているということなのかもしれない。

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