「Small world」インタビュー

Kroi、勢いに乗るいま見つめる“小さな世界” 野心と狂気が渦巻く「Small World」について聞く

 2021年11月にリリースされたEP『nerd』収録の「Juden」が、ダイハツ「ROCKY-e:smart」のCMソングとしてお茶の間で流れまくるなど、その不可思議な密室世界を、濃度はそのままに、どんどんと世の中へ侵食させているKroi。メジャーデビューイヤーとなった2021年は大躍進の1年だったと言えるが、そんな彼らから2022年最初の新曲が届いた。「Small World」である。5月にはZepp DiverCity(TOKYO)というバンド史上最大規模のワンマンも控える中で投下される新曲に「小さな世界」というタイトルを冠しているところに、このKroiというバンドの本質が見えてくるようだ。

 リアルサウンドでは「Juden」リリース時以来のインタビュー。最近バンド全員がハマっているというものの話も交えながら、今回もざっくばらんにバンドの現在地を語ってもらった。(天野史彬)

Kroiを取り巻く状況の変化 バンドの最近の共通言語はサバゲーとアイプラ?

内田怜央

――去年のEP『nerd』に収録された「Juden」がダイハツのCMに起用されたことも記憶に新しいですが、生活の中でKroiの音楽を聴いたり、名前を聞く機会というのはこの数カ月でどんどんと増えている印象があって。今のご自分たちの状況を、皆さんはどのように受け止めていますか?

関将典(以下、関):「Juden」に関してはおっしゃるように、年末にテレビでもめちゃくちゃ流れていて、自分たちでそれを見る機会も多かったので。「こんなペースで自分たちの曲がテレビで流れることがあるんだ」と思いました。それに、Twitterなんかを見ていると、僕たちが知らないところで、Kroiの曲をBGMとして使っていただけることもあるみたいで。音楽好きじゃない人たちの耳にも自分たちの音楽が届く機会が「Juden」以降増えてきたんですよね。年始早々にTVで紹介していただいたりもしたし。今年に入ってまだそんなに経っていないんですけど、加速度的に、自分たちを知ってくれている人たちの輪が広がっている印象はありますね。

――内田さんは、今の状況に対してはどうですか?

内田怜央(以下、内田):……嘘ですね、今の状況は。バンドを組んでからずっと「売れたい」と言い続けてきたバンドなので、「こういう道を通るんだろうな」と思いつつ、どこかで信じていなかった部分があるんですよ。だって、こんな変なバンドなんだから(笑)。

一同:(爆笑)

内田:こんな感じでやってきて、自分が信じていたものが報われてきている。その不思議さは感じていますね。

――「売れたい」と言い続けてきたのは、内田さんは最終的にどういった場所に辿り着きたいと思って言ってきたんですか?

内田:長く音楽をやりたいんですよ。売れれば、「あなたはずっと家に籠って音楽を作っていていいよ」と言われる人になれるかなって。そう言われたいんですよね。

――千葉さんは、今のバンドを巡る状況についてはどうですか?

千葉大樹(以下、千葉):嬉しいですね、やっぱり。「いろんな人に聴いてもらえるのが嬉しい」というのは綺麗事で、正直あまり思っていないような気もするんですけど、普通に有名になってきているのが嬉しい。大きい会場でライブをしたり、たくさん人がいる前でライブをするのは楽しいので。もちろん、まだゴールではなくて、この先もっと大きくなれる可能性もあるし、それも楽しみです。あとは単純に、作った曲を褒めてもらえるのが嬉しい。いつも、曲を出すまで不安なんですよ。リスナーの反応があってやっと「ああ、こういう曲なんだ」と思える。そういう反応をいっぱいもらえるのは、嬉しいです。

――長谷部さんは?

長谷部悠生(以下、長谷部):正直、取り巻く環境は全然変わっていないと思うんです。そういう中で、変化を感じるところがあるとすれば、ライブですね。会場がどんどん大きくなるにつれて、見える景色も変わっている気はします。5月にZepp DiverCityが決まっているんですけど、自分たちのワンマンで、自分たちのお客さんで埋まったZeppを見たときに、きっとまた感覚は変わるんだろうなと思いますね。

関将典

――そのZepp DiverCity公演を含む5月のツアー『Kroi Live Tour 2022 "Survive"』ですが、タイトルの「Survive」という言葉がとても気になったんです。「生き残る」とか「生き延びる」といった意味の言葉ですが、何故、この言葉をタイトルに掲げようと思ったんですか?

関:僕ら今、サバゲーにハマっていて。

――サバイバルゲームですか。

関:そもそも、自分が出していたツアータイトルの候補の中に「サバイバル」的な言葉があったんですよ。そんな中で、メンバー全員がめちゃくちゃサバゲーにハマり始めて。「じゃあもう、『Survive』でいいんじゃね?」みたいな(笑)。今回はかなりラフに決まりましたね。

――今の時代に向けたメッセージなのかと思っていました。

関:確かに案を出した当初はそういう意味だったんですよ。コロナ禍の数年間を振り返って、「俺たちは乗り越えて、Zeppに来たぞ」という意味で出していたんですけど、最終的には俺らがサバゲーにハマっているから、「Survive」(笑)。

長谷部悠生

長谷部:常々、音楽にしろ、音楽以外にしろ、今ハマっていることを詰め込んできたバンドなので。

――サバゲーは、メンバー全員でハマっているんですか?

関:メンバーだけじゃなくて、スタッフさんとか、関わってくれている人たちみんなに俺らから伝播していて。俺らの周り、みんな片っ端からサバゲーで使うアイテムを買い始めたんですよ(笑)。

――なるほどなあ。Kroiって、バンド内でいろんなことを情報交換している印象もあるんですけど、サバゲー以外に、今、音楽でも、それ以外でも、5人の共通言語になっているものってありますか?

内田:それは完全に「あれ」でしょ。

関:そうね。これは、音楽的な話というか……まあ、音楽的な話か。『IDOLY PRIDE』という、アイドルのマネージャーになってアイドルを育成するアプリがあるんですけど、それを去年の秋くらいからだっけ?

長谷部:8月31日。

関:8月31日から(笑)、全員が狂ったようにやっていて。サバゲーの話と『アイプラ』の話は、全員で同じ熱量で語れますね。

長谷部:『アイプラ』、ゲーム内で使われている曲がめちゃくちゃいいんですよ。

内田:アイドルソングをバチバチに作ってきたレジェンドの方々もいて。

関:他にも例えば、さかいゆうさんが作詞作曲している曲もあるし。「俺らもやりてえな」って思うんですけど(笑)。

――いいですね(笑)。そういうサバゲーであったり、『アイプラ』であったりというバンド内の共通言語の存在も、音楽制作に影響を与えていると思いますか?

内田:めちゃくちゃヒントにはなります。Kroiが作るのはバンドの曲なので、「今の俺らと言ったらこれでしょ」っていうものはヒントになるんですよ。歌詞を書いているときも、曲を作っているときも、それは感じますね。

――なるほど。じゃあ一応、皆さんそれぞれの『アイプラ』における「推し」を教えていただけますか。

内田:俺は、一ノ瀬怜。

関:天動瑠依。

長谷部:川咲さくらちゃん。

千葉:白石沙季。

益田:俺は……えー、どうしよう……。

内田:誰で迷ってんの?(笑)。

益田英知(以下、益田):(奥山)すみれと、(早坂)芽衣と、(神崎)莉央。

関:3人?(笑)。

益田:よし、じゃあ、神崎莉央で。

「Small World」は開けているのに閉じている、Kroiらしい密室感

――ありがとうございます(笑)。では、新曲「Small World」の話に移ろうかと思うのですが、質感としては、「Juden」や「pith」などをさらに拡張したようなヘヴィな曲だなと思って。一聴して「ブチ切れているな」という感じがしました。音像としても「開けているのに閉じている」とでもいうような、Kroiらしい密室感があるなと。

内田:この曲のデモを作ったときのこと全然、覚えていないんですよ。「Balmy Life」のデモをメンバーに共有したときに一緒に出した1曲だったんですけど、ずっと益田さんが気に入ってくれていて。『nerd』のときも入れようとしていたんですけど、他の曲と合わなくて、不採用になっていたんです。で、『nerd』が終わった一発目には絶対出そうということで、今回のリリースに選ばれました。ぶっちゃけ、かなり前なので、この曲を作曲したときの記憶はまったくないです(笑)。

――なるほど(笑)。

内田:でも、「Balmy Life」と一緒に出しているんで、『LENS』のリード曲になるくらい強い曲を作ろうとしていたことだけは確かなんです。なので、曲の強さはすごくある曲だと思うんですよね。

――益田さんとしては、どういったポイントでこの曲に惹かれていたんですか?

益田英知

益田:純粋にカッコいいですよね。このデモを聴いたときはネオソウルとかを聴いていた時期だったんですけど、そういうエッセンスがしっかりと入っているうえに、Kroiとしてはやってきていないアプローチがセクションごとに入っていて。新鮮な曲だなと思っていたんですよね。それでいて勢いもあるし、めっちゃいい曲だなって。怜央が去年出したデモの中で一番いい曲かもしれない。

内田:益田さんは絶賛なんですよ。

関:『nerd』からこの曲を抜くことになったとき、益田はひとりだけめっちゃしょげてて。「益田、そんなに好きなら、もっとちゃんと時間をかけて作って、満足いく形でレコーディングした方がいいよ」って、みんなでなだめました(笑)。

益田:だって、早く聴いてほしかったんだよ。早く作って、早くいろんな人に聴いてほしかった。

――「Small World」を聴いて改めて、「Kroiの音像、好きだな」と思ったんですよね。日本のバンド音楽って案外サウンドがのっぺりしがちだと思うんですけど、Kroiの音像はやっぱりどこか歪だし、バンドの空気感がそのまま音像化されているようなリアルさも感じるというか。千葉さんがミックスまで担当されていることも大きいと思うんですけど、「こういうバンドサウンド、聴きたかった」と思わせられる。

千葉大樹

千葉:ほんとですか。嬉しい。でも今回はちょっとビビっちゃった感じもあるんですよ。サビはよく聴こえるようにリバーブをかけていったら、ミックスチェックのときにみんな消されて。

一同:(笑)。

千葉:今はめちゃくちゃ気に入っているんですけど、個人的には想定していた感じより、音の広さがだいぶ少ないんですよ。まあ、そういう部分がKroiっぽさになっているのかもしれないですけどね。今までもあんまりリバーブをかける曲もなかったし。他のアーティストは音を広げるために結構使うけど、そこをあえてやらないっていう。特にうちは、怜央にそういう意識が強いので。

内田:そう(笑)。さっき「開けているのに閉じている」とおっしゃっていましたけど、デカい感じの音像なのに小ぢんまりともしているのは、僕の好みでもあるんです。

千葉:そういうことで生まれる独特のちぐはぐさは、たぶんありますね。

――あと、益田さんが先ほどおっしゃったように、1曲の中でもセクションごとにかなりカラーが違うものになっているところも、Kroiの特殊な部分だと思うんです。こういう部分はアレンジの中で作られていくんですか?

千葉:いや、デモの時点でそうなんですよ。

関:そう、怜央のデモの時点でこういう感じ。自分たちは曲の構成をガラッと変えるようなアレンジをするわけではないんですよね。アレンジの段階でセクションを一部削除する、みたいなこともほとんどなくて。怜央が作ってきてくれた曲の構成に、他の4人も同調していくような感じでいつも作るんです。

――では、同じ曲の中でもガラッと印象が変わるのは、内田さんの根本的なソングライティングによるところが大きいんですね。

内田:そうですね。セクションごとに「これもう、別の曲でいいやん」っていうような曲が好きなんですよ。例えば、僕はマキシマム ザホルモンの曲を中学生の頃、一番音楽を吸収しているような時期に聴いていたんですけど、ホルモンって1曲の中でも違う曲のようなアプローチをセクションごとにしたりするじゃないですか。ああいう、なんでも出てくるおもちゃ箱みたいな曲が好きなんですよね。

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