『D.LEAGUE』特別対談 第7回
HAL×神田勘太朗『D.LEAGUE』対談 互いの価値観を理解し合って築いていくチームとダンスカルチャー
日本発のプロダンスリーグ『第一生命 D.LEAGUE 21-22』が開幕し、現在までにROUND.5までが終了した。今シーズンからは新たに2チームが加わった、計11チームで優勝が争われている。
そのなかで昨シーズンから異彩を放つチームがBenefit one MONOLIZだ。結果は総合ランキング8位とはなったものの、ハイヒールで踊る「ヴォーグ」というダンスとジェンダーレスなスタイルでコアなファンを獲得。今シーズンもメンバーの入れ替わりを経て、毎ラウンドで刺激的なショウケースを披露するなど注目の存在だ。
個性的なチームをまとめるディレクターはHAL。昨シーズンは演技だけではなく、メンバーの人間関係も含めて指導してきたのだという。今回はそんな彼女と、株式会社Dリーグ代表取締役COO 神田勘太朗の対談をお届けする。(小池直也)
「10年後はダンサー自ら曲を作るのが普通になっているかも」(神田)
ーーまずオフシーズンはどんな活動をされていましたか?
HAL:週4〜5くらいで練習していました。音楽や衣装の制作で休みはなかったです。今シーズンはヴォーグ以外のジャンルも見せられたらと思って、初めての方や、私が好きでライブを観に行っていたようなミュージシャンの方と一緒に制作したりしていました。試合用の2分15秒に収めるアレンジも難しいみたいで、展開について話しながら進めています。
ーー音楽と言えば、昨年のBenefit one MONOLIZの楽曲は統一感のある音像と刺激的な歌詞が印象に残っています。
HAL:歌詞については「こんな感じで」とお願いしたものを、WasaVi Milan君がそれを汲み取ってくれました。日本ではあまり聴かれない「チャント」と呼ばれる、ヴォーグのバトル大会で歌われるラップなんです。本当は即興なのですが、よく使われるフレーズを入れながら作ってもらいました。内容は、例えば「もっと髪の毛を振って」とか「もっとセクシーな体を見せて」とかで、本当はコンプライアンス的にアウトな言葉も多いのですが(笑)、そこはギリギリのラインで上手く調整しましたね。
神田勘太朗(以下、神田):ダンサーはこれまで既存の曲で踊るのが当たり前でしたが、『D.LEAGUE』の音を作る努力は、これからのダンス界を変える特異点になる可能性があります。10年後はダンサーといえばアーティスト集団で、自分たちで楽曲を作るのが普通になっているかもしれませんね。その分、現在の生みの苦しみは大変だと思います。「こういう音で踊りたい!」と思っても、それを言語化して伝えるのが難しいですし。
HAL:謎の擬音語で伝えるしかない(笑)。
神田:昔レコード屋に行って、探している曲を口ずさんで「『ダン、ダン、ディーン!』って音なんですよ」と言ったら店員さんに「全然わかりません」と言われたことがあります(笑)。
HAL:以前のダンサーは歌手の後ろで踊ることが多かったですし、在り方が大きく変化したのかも。
神田:確かに今まではアーティストが主役で、ダンサーが華を添える役割でした。この大会では楽曲とダンサーが一緒に立つというイメージです。「『D.LEAGUE』に曲を提供したら売れる」という時代が来たら最高。どこかのチームの曲がヒットしたら、すぐそうなるはずですよ。
HAL:今は自分たちから音楽家にオファーしていますが、いつかはオファーされる側になれたらいいですね。
神田:「レディー・ガガが『D.LEAGUE』と一緒にやりたいと言ってます!」みたいな。そこを目指したいところです。
ーーでは、神田さんから見たBenefit one MONOLIZについてはいかがですか?
神田:昨シーズンはチームも、応援する側も序盤で苦しんでいたと思います。主催側は全チーム均等に活躍してほしいですが、それだと勝負になりませんからね。その分、優勝したROUND.4の突破力には全員がやられました。その後も上がったり下がったりはありましたが、負けてもコアな人気が増えていったのは驚きでしたね。TwitterでもMONOLIZへのコメントが目立ちましたし、MONOLIZファンって雰囲気でわかるんですよ(笑)。
HAL:キャラ濃いですよね(笑)。
神田:確固たるカラーを手に入れたので、今後も強烈なフォロワーがつくはずですよ。1年目は無観客開催を強いられるなかでファンの醸成が難しかったですが、これからの爆発と広がりが楽しみです。また男性/女性については気にしていませんし、審査員についても男女比の指摘がありますが、逆にその方が男女にとらわれていると感じるんですよ。それを考慮しつつ、HALさんはディレクターの紅一点として注目しています。
ーーHALさんは昨シーズンを振り返っていかがですか。
HAL:ヴォーグというジャンルは大人数でコンテストに出ることがないんですよ。なので、ヴォーグ界の人も「ここまでキレイに合わせられるのか」と驚いていたようです。さらに外側にも「よかった」と評価してくださる方々がいて、挑戦した甲斐がありました。全部が初めてで、苦しんだこともありましたが、それによって全員の人間性がアップしたと感じます。ずっと中盤の順位にいたら、優勝もなく中途半端で終わっていたかもしれません。
特に昨シーズンの開幕戦は直前で既存曲がNGになった影響で、すでに完成している一番練習してきたネタを持っていったのに、最下位だったのは辛かったですね。その後も3回目あたりまではしんどかったです。なので優勝したROUND.4は、SayakaがSPダンサーとして出てくれるので、絶対に勝ちたいと思っていました。あの回は審査員の皆さんもヴォーグのスキルがわかる方が多くないと聞いていたので、難しいものよりもわかりやすい流れを意識していたんです。ただ、それを次以降も続けたら挑戦ではないので、難しいことも入れて理解してもらえればと思っていたのですが、やはりそれ以降は評価しづらかったみたいで(笑)。
神田:誰が最初にSPダンサーを使うのかと見ていたのですが、ROUND.4でいよいよ来たかと。もっとコアに寄るのかなと思わせつつ、Sayakaちゃんだからネタではなく正当派で来るなと思いましたし、わかりやすさを入れたから歯車が合った。神懸かってましたよね。ステージが始まった瞬間から光りすぎていて「これは行ったな」と全員が思ったはずです。自分でも感じなかった?
HAL:思ってました。号泣しちゃいましたね。
「同じ人が出るよりも、カッコいいゲストが入る回を観たい」(HAL)
ーーBenefit one MONOLIZは毎回、SPダンサーやゲストコレオグラファーの効果的な起用が印象に残っています。
神田:確かに起用のタイミングは素晴らしかったですね。同じメンバーとディレクターで続けていると、回を重ねるごとに作品の色が似てしまうので、刺激としてSPダンサーを使ったり、異ジャンルを混ぜるのはスパイスになるのですが、それで優勝してしまうのはさすがだなと思いました。HAL:自分が『D.LEAGUE』視聴者の立場だったら、ずっと同じ人が出るよりも、たまにカッコいいゲストが入る回を観たいと思うんですよ。「メンバーを外してゲストを入れるのはかわいそう」という声もありましたが、それでも自分は観てみたくて。そして「振付をしてみたい」と声をかけてくれたのが、ROUND.10でゲストコレオをお願いしたShow-hey君でした。やっていただけてよかったです。
神田:「自分がディレクターだったら、こんなダンスを踊らせたい」と思っているダンサーは多いと思うので、Show-hey君とのコラボを見た時に改めて拡張性の楽しさを感じました。そういったことが今後も起きていくと面白いですね。
ーーSPダンサーといえば、HALさんはROUND.11でご自身もステージに立っていましたね。あの時に何か感じたことはありましたか。
HAL:ステージの空気を実際に感じてみて、メンバーから聞いていた「ここでよくつまずく」などが理解できたので、その場所を使うのを避けようと思いました。あとは出るのが一番楽しいなと(笑)。Dリーガーが羨ましいです。
神田:僕も出たかったですよ(笑)。思えば、HALちゃんと僕は同世代で『JAPAN DANCE DELIGHT』に東京代表と大阪代表として、よく出場していましたから。
HAL:あの頃と比べると、リハーサルの時間もあるし、オリジナル曲も作れる。
神田:会社から年俸も出ますし。
HAL:自己負担でスタジオを借りて練習して、旅費も自分で出していましたから。勝った賞金は衣装代にもなりませんよ(笑)。だから今は、チームのメンバーにもいい環境なんですと。彼女たちの多くが住んでいる大阪や京都は、東京ほど仕事が多くないので、この機会に感謝して「会社に体で返さなあかんで」とも伝えています。