FISHBOY×神田勘太朗『D.LEAGUE』対談 プロダンサーとして有意義なキャリアを送るためのチームづくり

FISHBOY×神田勘太朗対談

 1月10日から全12ラウンドのレギュラーシーズンとチャンピオンシップを経て、初年度を終えた日本発のプロダンスリーグ『第一生命 D.LEAGUE 20-21』。9チームがそれぞれ違うスタイルのダンスで競う、その光景は異種格闘技戦さながらで多くの人々を魅了した。

 しかし勝負の世界は時に厳しい。勝利を勝ち取ったチームもいれば、苦渋を舐めたチームもいる。CyberAgent LegitはFISHBOYが率いるチームだが、シーズン終了時の順位は第9位で、苦しみを伴う12戦だったはずだ。

 FISHBOYは振付を行わないタイプのディレクター。リーグ初年度ということもあり、これについての理解はまだまだ低く、葛藤もあったという。しかし長期的な視野でのチーム作りを狙う彼は、あえてこのポジションを貫き、すでに来期を鋭く見つめて動き出していた。その全容の一部を、株式会社Dリーグ代表取締役COO・神田勘太朗との対談から見てみよう。(小池直也)

『D.LEAGUE』におけるディレクターの可能性と課題

ーーまずはレギュラーシーズンお疲れ様でした。戦い抜いてみて、いかがでしたか。

FISHBOY:めちゃくちゃ長かったですね。3カ月経った時に「まだ1年経ってないんだ?」くらいの感覚でした(笑)。開幕直前にハプニングがあって、それが原因で毎ラウンド楽曲を作りながらの自転車操業。苦しみましたが、この1年でいろいろなことが分かりましたね。

神田勘太朗(以下、神田):僕はあっという間に終わったなという感想です。ほぼ毎日のように出てくるいろいろな課題や問題の解決に取り組んでいたら終わりました。体感時間はそれぞれ違うのかもしれないですね。

FISHBOY:僕は振付をしない、ジェネラルマネージャー的な立ち位置なんです。だから「ディレクターと呼ばないでくれ」と言っていますが、ルール上は仕方がないんですね。試合に対する「FISHは何やってるんだ?」などのコメントを見ると、少し心が痛みますよ。

神田:これまでの対談でも語ってきたように「ディレクター」という立ち位置がダンス業界に登場するのは初めてなんですよ。そこで「コレオグラフをしない監督」というポジションをFISHは作ったんだと思います。リーダーであるTAKUMI君がまとめていくなかで肉付けをする、という方針が吉と出るかはチームの判断になりますね。今後はサッカーと同じように名プレイヤーが監督する場合もあれば、プレイヤーじゃない人がディレクションすることもあり得ます。いずれダンスマニアがディレクターになる時代がくるかもしれませんし。

ーー神田さんからCyberAgent Legitはどう映りました?

神田:CyberAgent Legitは才能の集まりなので、スイッチが入ったりポジショニングが定まった瞬間に化けると誰もが思っていたはずです。歯車が合って、どこかで優勝していたら、もっとブーストがかかったのかなと。結果的にはギアがハマったけど結果が出ず、またズレるを繰り返していたように見えました。ポテンシャルは自他ともに高いと見積もっていただけに、一番苦しんだチームだったかもしれません。

【D.LEAGUE】ROUND7 SHOW 4・CyberAgent Legit / 第一生命 D.LEAGUE 20-21 ROUND.7

FISHBOY:ROUND.12で、ゲストジャッジのWAPPERさんが「12ラウンドのなかで早めにみんなの心が統一されて、見せたいことや個々の良さがリンクすればもっと上位に食い込めたのでは?」とコメントしてくださって、納得してしまったんですよ。あとから話すと各メンバーも同様のことを思ったと。100%、僕の管理能力が至らなかった結果だと思います。

 やはり結果もある程度は必要で、なぜ出なかったかは分析できているので、そこを改善するような仕込みを今はしています。振り返ってみると、一番ハマったのはROUND.7で、TAKUMIを中心にしたオーケストラ曲のナンバーでしたね。

神田:シンプルに気持ちが乗っている/いないという面は、どんな競技でもショウでも必要ですから、WAPPER氏の感想にみんなが納得したのも腑に落ちますね。SEPTENI RAPTURESは「ストリート上がりのバトラーが集まっている」という点で、CyberAgent Legitとメンバー構成が似ていながらも、良い順位につき始めたのはRound5で歯車が合って優勝したことで、自信がついたことが理由かと。結果的にRAPTURESは乗れたわけですが、彼らも彼らで、裏ではひとつになるために大変な戦いがあった。恐らくLegitも同じような境遇で、合いそうで合わなかったシーズンだったのかなと。ROUND.7で合ったと思ったけど、なかなか続かなかったんですよね。

FISHBOY

ーーシーズン中はメンバーのメンタル面のケアなども必要だったかと思います。

FISHBOY:そうですね。特に痛感したのは「振付をしないということは、同じ立ち位置で共同作業できる時間が少ない」ということ。これでは「一緒に作った」という感覚が薄くなりがちで。RAPTURESのテーマにはなりますが「Be The One」になれているのかと自問しつつ、「この感覚の差を埋めなければ」と考えていました。

 こちらとしてはプレイヤーたちが見えないところで必死に結果を出しているのですが、見えないからこそ伝わらないことが辛かったです。かと言って「俺はこれだけ頑張っているぜ」というのも気が引けるし、変な壁を感じてしまいがちになって、コミュニケーションに苦しみました。そこが反省点。とにかく地道にコミュニケーションを一人ひとりと取ることで、その状況は格段によくなってきていると感じているので、良い形で来シーズンは迎えられるはずです。

神田:世代の差みたいなものもあるんじゃないかなと思います。

FISHBOY:それも感じますね。明らかに視座と視野が違う。だから言葉で十分に伝えたつもりでも全く別の理解をしていることはあります。僕らも20代の頃はそうだったかもしれないなと理解は示しつつ、僕の20代の時の成長よりも1秒でも早くプロとして成長していってほしいから、諦めず地道にコミュニケーションを取っていきます。自分たちのために裏でいろいろな人たちや企業が動いていて、協賛や協力をしてくれてる、その上でリーグやチームがあるんだということを理解して、感謝を忘れずに自分の行動に反映していってほしいと思います。

「オーディエンス票は単なる人気投票ではない」(神田)

ーーLegitは「社会で尊敬されるリーダーを育成する」というコンセプトも掲げていました。

FISHBOY:そうですね。ただ、「良い子」と「カリスマ」はかけ離れていると思ってます。ステージでの立ち振舞いや言動は、多少は乱暴でも良いんですよ。でも裏の行動はちゃんとしてほしいとメンバーにも話しています。挨拶やマナーの話になってしまいますが。

神田:社会人になると「イケてる」の概念が変わるじゃないですか。表の言動が悪くても礼儀や礼節がしっかりしていたら愛されるし、パフォーマンスだなと理解される。でも裏がネガな人は相当な実力がない限りは愛されません。応援したくなくなりますよね。逆に気持ち良く挨拶してくれる子は応援したくなる。その積み重ねですよね。当たり前のことをやる、ということが大事。もちろん、やんちゃなチームが人気を得ることもあるので、コンプライアンスを守るのは前提として、その中でどう暴れていくのかを僕は見たいです。

神田勘太朗

ーー神田さんはLegitのメンバーそれぞれをどう見ていますか。

神田:メンバーのなかでは、リーダーであるTAKUMI君が光るのは予測していたのですが、地獄君の存在感がすごかったですね。EXILE HIROさんも「あの子はいいね」と評価していましたし、その他の人の会話にも普通に出てくるので、やはり魅力的なキャラクターを持っているはずです。しかも彼が主役のナンバーではないラウンドで話題になっていましたからね。

ーー冒頭に紹介されたWAPPERさんのコメントでも、TAKUMIさんと地獄さんの2人について言及していました。

FISHBOY:今回は各ラウンドでディレクションする人を変えてみたのですが、あの8人なのでアイデアはどんどん出てくる。その中で「こっちにしよう」と決めるのがディレクションする人の役割。TAKUMIはその判断が早くて的確でしたね。

ーーそうだったんですね。

FISHBOY:ショウディレクションをするのは苦悩を伴います。でも、それがいいんですよ。『GET SPORTS』と『報道ステーション』(どちらもテレビ朝日系)でTAKUMIを取り上げてくださったのですが、作る時の苦悩やダンス以外の面も含めて取り上げ甲斐があるのかなと。そこから興味を持つ方もいるはずですし。

神田:ファンが増えていくチームと増えていかないチームは、チームのなかのライフスタイルの一貫性も関係しているんです。ファミリー感のあるチームはフォロワーが増えるし、寄せ集められていてバラバラだと一般の方には響かないのかなと。ストーリーを求めているのかもしれません。その点でオーディエンス票は単なる人気投票とは言えないと思うんですよ。そこを獲りにいくには裏のストーリーや日々のライフスタイルが色濃く反映されているかどうかが重要。これも真剣に考えると面白くなるポイントだと思っています。

FISHBOY:確かに。発信を楽しめるリーガーの方が人気を集められますね。

ーーリーグの立ち上げ、ディレクターとして「決めていく」ことは、コロナ禍にまつわる社会においても大事なことだと思います。そういう点において『D.LEAGUE』は今の世界の縮図のようにも見えました。

FISHBOY:どんなルールやディレクションであっても、絶対に文句は出ますからね。ディレクターに「やってみてダメだったらその責任は俺が取る。やろう!」という力は必須。

神田:『D.LEAGUE』で最初に何かを決めるのはCOOである僕だと思うんです。毎回「これを決めたら、こういう声が上がるだろうな。でもやるしかない」と決めていて、実際にAとBという問題が起きたら対応すると、さらにCが出てくる。これの繰り返し。だから大統領や首相など、想像を絶します。例えば緊急事態宣言1つ取ってみても、絶対に反対の声は上がりますから。

 そうすると「聞かない」という技術も必要。意思決定する人には強権発動する人もいれば、いろいろな人の話を聞く人もいますが、その時のフェイズで何が必要なのかを嗅ぎ分ける力というのもディレクターの最も大切な技能のひとつではないでしょうか。チームがまとまらないから一本筋を定める回もあれば、勢いがついているから自分が折れるべき回もあるはずなんです。

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