『D.LEAGUE』特別対談 第6回
TWIGGZ "JUN"×神田勘太朗『D.LEAGUE』対談 日本から世界を掴む、広がっていくダンサーの在り方
日本発のプロダンスリーグ『第一生命 D.LEAGUE』の第2回目となるレギュラーシーズンがスタートした。昨年度の9チームに新たな2チームが追加された計11チームが、再び頂点を目指して白熱のダンスリーグを展開していく。そのなかでも昨年のレギュラーシーズンの覇者 FULLCAST RAISERZは優勝候補の筆頭だろう。持ち味であるジャンル「KRUMP」の力強さに、ユーモアや独創性を盛り込み、変幻自在なショウケースで観る者の心を掴んだことは記憶に新しい。今回もどんな試合を見せてくれるのか期待だ。
今回はそんなFULLCAST RAISERZのディレクター TWIGGZ "JUN"と、株式会社Dリーグ代表取締役COO 神田勘太朗の対談を行い、昨シーズンの振り返り、チームや作品に込めた想い、第2シーズンの意気込みに至るまで余すことなく語り合ってもらった。(小池直也)
念頭に置いたのは「面白カッコよく」と「日本発信」(JUN)
ーーオフシーズン中のチームの様子はいかがでしたか。ゴールドジムからの協賛を得たというニュースも気になっています。
TWIGGZ "JUN"(以下、JUN):ゴールドジムは去年からのお付き合いですが、今年からはより密に応援していただき、メンバーがフィジークの大会にも出場しました。ついてくださるパーソナルトレーナーも日本大会で上位に入るような方々なんですよ。今後もプロダンサーとしての領域をさらに広げる、新しい挑戦に取り組んでいきたいと思います。
神田勘太朗(以下、神田):正直ゴールドジムの話を聞いたときは「だよね」と笑ってしまいました。メンバーがやたらと筋肉を出していた成果が出たなと(笑)。
JUN:あと名古屋市との協賛で、吉田海岸のホテルで、キャンプ地としてのトレーニングと地元を盛り上げるイベントも行ったんです。子どもたちのダンスが盛り上がっている地域が多いので、子どもたちの憧れになるし地域の活性化にも繋がるかなと。昔はダンスチームがそういうことをするのは不可能でしたから、企業の信用と「D.LEAGUE」への期待を感じました。
ーーそれでは改めてJUNさんから、昨シーズンを振り返った感想をお願いします。
JUN:元々はTwiggz Famというチームが主軸となって結成したので、10年の活動の蓄えが活きたなと思います。KRUMPの「激しくて暴れる」というイメージを活かしながら、一般の人が見ても楽しめるような作品を作ろうと努めてきました。答えがないので、決められたルールとジャッジのなかで結果を出すのは大変でしたよ。
あとは自分たちの前に出るチームがKOSÉ 8ROCKSであれば、「彼らの爆発力に負けないように」、SEGA SAMMY LUXであれば「彼らの派手さとは逆の見え方になるように」と考えながら演目を選んでいましたね。前ラウンドの様子や当日リハーサルの様子で、演目や振りを変えることもありました。本番が終わるまで緊張感を保たせることによって、みんなも自分もワクワクできますから。
神田:僕のなかでも予想以上の活躍でしたね。KRUMPなのに12戦ごとにカラーの違う作品を出したことは業界で衝撃だったと思いますよ。違うジャンルのダンサーですら「よくここまで多彩にできたな」と感じるはずです。
JUN:今、同じ12作品をもう一度やったとしても点数は全然違うはずです。勝てたものも勝てなくなるだろうし、逆に勝てなかったものが勝てるかもしれない。なので考えすぎるよりも、毎回120%の自分たちが伝わる方がいい、という戦い方だったかなと。僕は準備を100%やれていれば、どうなっても対応できると思っています。「順位が落ちた時はこうしよう」という道筋も立てていたので、それがハマっただけなんです。
ーー神田さんはディレクターとしてのJUNさんをどうご覧になっていますか。
神田:繰り返しにはなりますが、KRUMPをあそこまで多彩に見せる能力はすごい。それからチームのマネージメントに関しても、母体のチームをベースにしながら、新しい要素を入れて拡張性を持たせているのが面白かったですね。KRUMPだけで行ってもどこかで限界が来ると思うんですよ。クリエイティビティの面でもそうだし、自分自身に飽きが来る。
昨シーズンで言うと、ROUND.6で原点回帰した作品がよかったですね。ストレートなKRUMPに戻して、かつ優勝していて。それもセンスなんですよ。そういう選球眼は今後もますます大事になってくるはずですが、JUNはそこが長けているなと見ています。JUNのディレクターとしての飽きがどこで来て、原点に戻るのかは来季も楽しみです。
ーーその多様性溢れる各作品はどのように作られていったのでしょう?
JUN:2020年の9月から練習が始まり、開幕までに10作品のそれぞれ6割くらいは作っていましたね。昨シーズンで自分がすべてをコレオグラフしたのは半分くらい。あとはストーリー性と構成と細かい振りのイメージを伝える程度でしたよ。10年以上チームをやっているなかで、今さら自分が振り付ける必要はない気がするんです。僕のマインドをわかっていて体が動く子たちがやってくれてるので、自分の手腕をどう出して面白くするかを考えていました。
ーー各作品に力強さだけでなく、ユーモアも散りばめられているのが印象的でした。
JUN:僕の真面目でない性格が出ているだけですよ(笑)。念頭に置いておいたのは「面白カッコよく」と「日本発信」ということ。普通ならできない要素をスパイスとして入れるのは、勘太朗と組んでいたシャブレイというクルーでもやっていました。ちょっとした笑いを入れて、ダンスシーンやKRUMPのフェーズをいかに上げられるか、と。それにKRUMPをLAで学び、日本に持ってきて、LAの人がやれなかったことを日本でやり続けたから今の自分があると思うんです。Dリーガーとしてダンスが上手いのは当たり前で、さらに「いるだけでデカいな」とか「脱いだらすごいな」とか、いろいろな角度からキャラクターを見せられたら面白いチームになるのかなと思ったんですね。
「12戦の流れを掴まないと勝てない」(神田)
ーーJUNさんの理想とするディレクター像はあるのでしょうか。
JUN:しんどくなるのが嫌なので、楽しくやりたいです(笑)。かつ、Dリーガーの監督として、社会やダンスのフェーズが上がるようなことに貢献していきたいですね。そのためには魅力がないといけません。RIE(HATA)はスター性がありましたが、彼女と同じことをするのは違うと思いますし、できないと思うんですよ。自分らしい面白さで次のシーズンでも光るディレクターでいたいです。それからKRUMPはまだまだマイノリティで。だんだんと一般の人にも知られてきましたが、KRUMPもヒップホップのようにお洒落で、いい意味で敷居の低いものにしていきたいとはずっと考えています。
神田:KRUMPはJUNが日本に持ち込んだ時から知っていますが、最初は日本かアメリカかくらいで、ほとんど盛り上がっていない印象でした。それがここまで広がっていること自体、すごいと思います。次の進化としては、もっと違うタイプのクランパーが出てきたら面白いですよね。JUNはもともとヒップホップもやっていたし、RAISERZのメンバーも他のジャンルを踊れる子が多いですから。
ーー先ほどavex ROYALBRATSディレクターだったRIEHATAさんの話題も出ましたが、他に注目しているチームはありますか。
JUN:いいなと思うのはKOSÉ 8ROCKSですね。ISSEIも強いですが女性メンバーも引きが強いし、キャラクターも立っていて1本の矢としてまとまっているなと。あと、ヒップホップ的な「ストリート」という意味でカッコいいのはKADOKAWA DREAMS。チームの意図として最先端のカッコよさを追求していて、これから憧れる人が増えそう。でも、どのチームもいいなと思うので、どこかひとつのチームを意識することはないかもしれません。
ーー『D.LEAGUE』でたびたび話題になる、エンターテインメントとダンスのバランスについてはどう思われますか。
JUN:4年後のオリンピックでブレイキンが種目になるので、僕も当初は『D.LEAGUE』に対して競技的なイメージが強かったんです。でも、いざ開幕してみると競技要素はありつつ、エンタメというか「ただ踊る」「合わせる」ではないなと感じました。ファンの方が増えて、彼らの投票で順位が大きく変わるなら、同じスキルでも、どのチームの誰がやるかによって違いが生まれてしまう。そうなると競技の枠組みの上にあるエンタテインメント性を考えざるを得ないですよね。
でも極論、どの世界でも結局そうなる気がしますよ。高い次元の勝負になると、スキルの差がわからなくて、ジャッジが見るのはフィーリングやクリエイティビティ、キャラクター、エンタメ性になるのかなと。一般の方々にも伝わって、ダンサーも納得できるもの、それで審査員にも響いたら優勝だよねと。審査員からすると前回やったものと同じものをやっても響かないので、それはすなわち「もっと違うものを見たい」ということなんですよ。点数が伸びるならやりますが、もっとクリエイトし続けなくてはいけない。
神田:僕も大会に長年出てきたのでわかりますが、「流れ」ってあるんですよ。緻密なロジック型のショウで勝つ流れが2〜3年続いても、それを壊す本能的なダンスが勝つタイミングが来る。するとそれが勝ち始めて、次にまたロジックや笑いの要素が入ったものが来たりする。だから『D.LEAGUE』も12戦の流れを掴まないと勝てない。外してしまうと真逆に行って、渾身の一撃が伸びないんですよ。そういう視点は観れば観るほどにわかってくるので、そこに注目すれば『D.LEAGUE』をより楽しめるはずです。