2022年を牽引する新世代ボカロPは? 柊キライやKanaria、ノラらに感じるボカロ文化の成熟

2022年を牽引する新世代ボカロPは?

柊マグネタイト

 2020年の冬に頭角を現したのは柊マグネタイト。『The VOCALOID Collection ~2021 Spring~』、通称『ボカコレ』では、2020年12月に公開した「終焉逃避行」でルーキーランキング1位に躍り出た。柊マグネタイトが2019年に公開した初投稿曲「或世界消失」は11分を超える異例の長さ。圧倒的なワードセンスで紡がれる独自の世界観で展開されるこの曲は、音楽を聴いているというよりも、戯曲の世界に入り込んだような独特の感覚をもたらす。構成も、J-POP的な「Aメロ、Bメロ、サビ」ではなく、EDMのビルドアップとドロップのような形に近い。また、初音ミクの歌唱も、無機質さを強調するような息継ぎのない詠唱をさせたり、語りのようなパートがあったりと、「歌モノ」とは一線を画している。あらゆる側面で異端な作品であるとともに、ボーカロイドだからこそできる表現を詰め込んだ実験的な楽曲だ。

 こうして近年ブレイクしたアーティスト達を並べて見ると、活動当初からそれぞれのコンセプトを明確に持っていることが見えてくる。それは曲そのものに見られる共通性はもちろん、先述の通りKanariaは色によってビジュアルを統一しているし、柊キライも「ボッカデラベリタ」をはじめとした複数の楽曲で共通してWOOMAをイラスト&動画に起用することでシリーズ性を演出。柊マグネタイトは白バックに大きくタイトル文字を記載し、中心にイラストを配置するというデザインに統一しているなど、投稿曲のサムネイルを並べてみるだけでも同じコンセプトを下敷きにしていることがわかる。楽曲をどのように展開するか、しっかりと図面を引いたうえで投稿を開始する計画性の高さは、ジャンルの成熟を感じさせる。物心ついた時からボカロ曲が存在していた世代が、今までの文脈を踏まえてさらに進化させる形でクリエイター側に回ってきたということだろう。

ノラ

アイ独リ論 /ノラFeat.初音ミク

 そんななか、2021年、新たなストーリーを掲げたボカロPが登場した。それが、22歳の大学生ボカロPのノラだ。今年6月、音数の多い華やかなエレクトロポップの「ショウニントウソウ」を投稿。ニコニコ動画に投稿されたのは初音ミクverだが、同日にYouTubeで公開されたのは「今夜、あの街から」というユニット名義の男女ボーカルverだ。

 「今夜、あの街から」(以下、ヨルマチ)は、“閉塞感漂う街からいつか脱出して世界を変えたいと願う男女の物語を描く”ユニットとして作り上げられた。ボーカルはノラ自身と、「レイラ」という女性であり、レイラは曲ごとに女性ボーカルを招いて歌唱するという。そんなノラ初のソロのボカロ曲が、初音ミクによる「アイ独リ論(あいどくりろん)」。エレクトリックなサウンドを前面に出し、高いBPMでシンセサイザーが駆け巡る曲調は、ボーカロイド黎明期を思わせる。それはサウンドメイクだけでなく、漢字とカタカナが入り混じった意味深なタイトルや、〈どどどどうなってんの?/ななななにやってんの?〉という特徴的な歌い出し、サビの〈詮索は止まないやいや嫌嫌〉など、言葉遊び的な要素の強いリリックも、ある種、原点回帰的な王道ボカロソングのように思われる。

 さらに、ヨルマチだけでなく2021年11月に未完成モノローグへ「ハイド&シークレット」という楽曲も提供しているノラ。畳みかけるように多方面に展開を行っており、来年以降はさらに活動の幅は広がっていくのではないだろうか。

 楽曲、動画、テーマなど全体的に洗練され、成熟しつつあるボカロ界隈。といっても発展の天井が見えているわけではなく、いよいよ1ジャンルとして存在感を確立したボカロ文化が、今までの文脈を大前提として、より自由に、新しい展開の仕方を見せている印象だ。ここに上げたボカロP達のさらなる活躍はもちろんのこと、来たる2022年にも、新たなヒーローが誕生していくことは想像に難くない。まだまだおもしろいボカロシーンだ。

■リリース情報
ノラ Digital Single「アイ独リ論」
12月17日(金)より配信
作詞/作曲/編曲/MIX:ノラ

Twitter: https://twitter.com/Yorumachi_Nora
TikTok:https://www.tiktok.com/@yorumachi_nora
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCcOHJJHu7t4-YPgbrwYI0TA
オフィシャルサイト(今夜、あの街から & ノラ):https://yorumachi-nora.com

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