『最愛』、宇多田ヒカルによる主題歌「君に夢中」はなぜ切なく響くのか 梨央や大輝、加瀬の秘める強い想いとの重なり

『最愛』主題歌「君に夢中」はなぜ切ない?

 次々と解き明かされる謎と畳みかけるように起こる事件の連続。そのテンポの良さで視聴者の心を掴む金曜ドラマ『最愛』(TBS系)が放送中だ。愚かな青年が起こした事件をきっかけに、運命に翻弄される人々が織りなす複雑な“愛”が絡みあうシナリオに心をかき乱される。タイトルに込められたようにそれぞれの“最愛”の相手にフォーカスされた物語は、刻々と過ぎる時間と共にさらに深く、引き返せないところまできてしまったようにすら思う。そんな本作では毎週、主人公の梨央(吉高由里子)と彼女を取り巻く人たちとのクライマックスで宇多田ヒカルの主題歌「君に夢中」が流れるのだ。繊細なピアノの旋律を聴くと、彼らが立たされている愛の不遇に切ない気持ちになる。本作はラブストーリーとサスペンスの融合という位置付けの作品だが、今回は心情描写に重きを置いて主題歌「君に夢中」がもたらす魅力を紐解いていきたい。

 これまでも宇多田は『花より男子2(リターンズ)』イメージソング「Flavor Of Life -Ballad Version-」や『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(ともにTBS系)イメージソング「初恋」などドラマのラブストーリーを彩る楽曲を歌唱してきた。前者は主題歌が嵐「Love so sweet」とポップでハッピーな恋の歌であることに対して、提供された宇多田の曲はどこか切ない音色が魅力だ。後者でも同様にメジャー調の主題歌はKing & Prince「シンデレラガール」。これらのドラマでは元気の出るポップチューンを主題歌に据えることで、アイコニックなキラキラとしたヒーロー像を支えていたように思う。その一方で宇多田の楽曲は登場人物が恋をする中で苦悩したり、時に自分の本当の想いに気付いたり、深い愛を感じたりと、めくるめく想いを増幅するかのような役割を担っている。恋はいつだって一筋縄ではいかない。こうした心情を丁寧に音楽に乗せて視聴者へと届けたのが「Flavor Of Life」や「初恋」なのだろう。

 この流れを加味すると、『最愛』で宇多田の「君に夢中」が視聴者の心にゆっくりと浸透していく様は、本作がそれだけ登場人物の心に潜む“愛”を繊細に捉えているのだということがわかる。加えて「君に夢中」はその歌唱の美しさと旋律の儚さによって、目に見えない大きな波が直接心に訴えかけてくる。『最愛』では恋愛感情としての“愛”だけが描かれるわけではない。梨央と優(高橋文哉)の姉弟が持つ「家族」の愛情、加瀬(井浦新)と梨央が紡ぐ「家族さながら」の愛情、そして梨央と大輝(松下洸平)が育む「恋心」に等しい愛情だ。これらの愛が絡まったネックレスのように輝きながら、もつれあう様子が『最愛』の最たる魅力だろう。この想いを曲に乗せ、イントロのピアノの直後に〈君に夢中 Oh 人生狂わすタイプ Ah まるで終わらない deja vu バカになるほど君に夢中〉という歌詞が続くことでそれぞれのキャラクターが心に秘める強い想いを改めて思い知らされることになる。

 第8話では後藤(及川光博)の汚職事件にたどり着いたのち、「もう疲れた」と涙ながらに弱音を吐く梨央に加瀬が「やるべきことをやるんだろ」と発破をかける。それに応じて梨央が「なんでいつも私の味方してくれるの? 私のこと、どう思ってるの?」と畳み掛けるように問いかけると、加瀬がぽつりぽつりと梨央への想いを吐露し、回想シーンと共に「君に夢中」のイントロが流れ始める。そして歌詞に被せるように加瀬の胸中がリズミカルに「君に夢中」の旋律にのせて語られる。あまりに美しいタイミングで語りが入ることにより、加瀬のセリフはまるで歌詞の一部であるかのように強く心に届いた。

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