配信シングル「アンドロン」インタビュー
Chilli Beans.、切磋琢磨する3人+Vaundyの関係性 あいみょんやマカえん はっとりも注目する“ユニークな音楽性”
2021年8月にリリースした配信EP『d a n c i n g a l o n e』でデビューを果たした3人組、Chilli Beans.(以下、チリビ)。その音楽的センスの高さとキャッチーさは早くも注目の的となっており、同配信EP収録曲「lemonade」は「バイラルトップ50(日本)」で3位を記録(参考:Chilli Beans.、バイラルチャート急上昇で存在感 ギターロックの可能性を証明する希望の光)。あいみょんやマカロニえんぴつのはっとりなどもリリース時にはSNSで発信するなど、徐々にその認知を広げているが、そんな彼女たちから早くも新曲が届いた。EPでも曲ごとに大きな振り幅を見せていたチリビだが、11月24日にリリースされる配信シングル「アンドロン」は、さらにその振り幅を広げてみせるようなユニークな楽曲。前作の「lemonade」に続いて3人が出会った「音楽塾ヴォイス」の同級生であるVaundyが編曲に参加し、1曲の中でもくるくると景色が転換していくような不思議なサウンドを作り上げている。
今回のインタビューでは、チリビとはどんなバンドなのか、そのユニークな音楽はどこから生まれてくるのか、そしてここから彼女たちはどのように進んでいくのか、「アンドロン」を軸に聞いてみた。話を聞けば聞くほど、面白いバンドであることがわかってきた。(小川智宏)【最終ページに読者プレゼントあり】
Chilli Beans.の関係性とコミュニケーション
――最初は「音楽塾ヴォイス」の先生から「バンドをやってみれば?」と言われてはじまったんですよね。そこから3人でやってきて、お互いの関係性やバンドとして目指す音楽性の面で変化はありますか?
Maika(Ba/Vo):だいぶ変わったよね。最初はそれこそ初めましてみたいな感じだったから、ある程度気を使いつつみたいなところもあったけど、最近は「今日調子悪いんだな」とかもちょっとずつわかるようになってきた気がします。
Lily(Gt/Vo):一緒に過ごす時間がやっぱり長いから、気ばっかり使っていられないっていう瞬間も出てきたりして。制作でも本音でぶつかっていかないといいものはできないと思いますし。
――音楽的なところではどうですか?
Moto(Vo):アイデアも3人でいろいろ共有しているので、自分の考えも広がって、こうじゃなきゃいけないっていう感じがなくなって、自由になって、もっと楽しめるようになった気がします。
Maika:その自由さみたいなのがチリビらしさなのかなと思います。何かに従って作るのではなくて、そのときそのときに表したいものを曲に反映させていくっていう。
――3人は音楽的なバックグラウンドとか、好きなものとか、全然違う感じなんですか? それとも似通ったところも多い?
Lily:私は2人が好きなものはほとんど好きですね。ファッションも音楽も2人が「これかわいい」っていうのは自分も好きって思って……た。
Maika:思って「た」って(笑)。
Moto:たとえば、服をボトムにインするっていう考えが私にはなかったんですけど、Maikaとかは出会ったときとからずっとインしていて。「ああ、そういうファッションもあるんだ」っていう(笑)。そういう新たな発見もありました。
――音楽だけではなくて、いろいろな部分でお互いに影響を与え合っている?
Lily:影響はめちゃくちゃ受けてると思います。
Maika:うん、全然知らない軸というか、好きは好きなんだけれども、それまで知り得なかったところにあったものを教えてくれる感じがします。
Moto:音楽についてもバラバラで、2人に出会う前はパンクとかメタルとかを聴いていたんですけど、ポップロックやオルタナティブも知ることができたりして。
――そのバラバラさがチリビの面白さにつながっている気がしますね。曲のアイデアは3人それぞれが持ち寄るという感じなんですか?
Moto:いっせーので作ることもあるけど、それぞれが書いてきたものを持ってきて「これいいじゃん」ってなったらそれを広げていく……っていうパターンのほうが多いかな。
――そこからの曲作りはスムーズに進むんですか?
Maika:スムーズではないと思います。全員がいいねって言うまで意見を出し続けることが多いので。かつ、結成してからすぐにコロナ禍になったっていうのが理由としては大きいと思うんですけど、リモートで作業することが多いので、スタジオに入って詰めていくっていうよりは、ここのフレーズはどうしようとか、ここの音作りこんな感じでどうかなとか、やりとりをして少しずつ積み木みたいに作っていく感じなんです。しかも一つ積み上げるのに結構時間がかかるっていう。だからそれぞれが担当してる部分に対するこだわりとかは、かなり強いのかもしれないなって思いますね。
Lily:うん、ギターだったらフレーズも音作りもこだわりますね。ギターって「目立つけど目立たない」みたいなことも多いので、そこで自分らしさをどう表現するかはめちゃくちゃ考えてますし、模索中でもあります。
Vaundyとも議論を重ねる楽曲制作
――で、今回リリースされる新曲の「アンドロン」なんですが、これはどういう曲ですか?
Moto:これは女の子が恋をしてるっていう歌なんですけど、普通の女の子じゃなくて、ちょっとぽわーっとしてる感じの、結構不思議な女の子みたいな感じをイメージして、妄想と現実を混ぜて作っていきました。歌詞は結構静かめなんですけど、サウンド面は心の大きさとかを表したくて、ちょっと騒がしい感じにしようと。
Lily:最初にMotoがギターとボーカルだけで送ってくれたものを、Maikaと私の2人でアレンジしていったんです。完成形の2番は結構自分たちのアレンジを活かしているんですけど、1番は編曲にVaundyが参加してくれて、彼とどんな世界観にしたいかを話し合いながら、ああいうミニマルなサウンドに行き着いた感じでしたね。
Maika:だから結構紆余曲折はあったと思います。最初にアレンジする段階でも、今まで自分たちがやってこなかったようなユニークさを持った楽曲だったので、それをどうしたらチリビらしく落とし込めるかみたいなところは、たぶん今までの楽曲の中で一番悩んだよね。そこからさらにVaundyが入ってきてくれたので、そこでもまたいろいろ議論をしながら。
――今話に出た通り、今作には『d a n c i n g a l o n e』収録の「lemonade」に続きVaundyがアレンジャーとして参加していますけど、彼はどういう形でコミットしたんですか?
Moto:私たちの「こういう世界観にしたい」っていう意見をすごく取り入れてくれました。こっちがうまく言い表せない、伝えきれないところとかも結構汲み取ってくれて。
――もともとVaundyとはヴォイスの同級生なんですよね。「lemonade」で彼と組んだのはどういう流れだったんですか?
Maika:授業の流れだったんです。「こんなデモ曲作ってるんだよね」っていうのを同じクラスだったときにさらっと流したら、Vaundyが「これ、こんな感じはどう?」みたいな感じで話しかけてくれて。
Lily:いろいろ意見をくれたんだよね。
Maika:そう。そこからそのまま編曲まで一緒にやってくれるようになって。
――前作では村田シゲさんとも一緒にやっていましたけど、そうやって外の人と一緒に曲を作っていくというのはどうですか? 個人的には外部アレンジャーが入ることで、もともと自由なチリビの音楽がますます自由に広がる感じがするんですけど。
Maika:間違いないですね。シゲさんの場合は、途中でコードを変えるっていう発想だったり、最初のイントロのさらに前の部分のベースの進行だったりとかは私の中にはないものだったので。技術面でも、すごく学ばせてもらったなって思ってます。Vaundyの今回のアレンジもそうですね。
Lily:違うコードを重ねるみたいなのがVaundyは好きだよね。自分の曲でも違う進行のものを2つ重ねて流すみたいなことをやっていて、それを今回もやっていたから、こういう発想もあるんだなって。
――そういう思ってもみなかったアイデアが出てきたときに、3人はわりと柔軟に取り込んでいくんでしょうね。
Maika:譲れないところは譲りたくないし、でも相乗効果としてこれがやっぱりいいよねってなることももちろん多いし。
Lily:具体的に、リファレンス曲を聴かせてこういう感じ、シンセをこういう風に追加したいとかね。
Maika:結構細かく「ここをこうしたい」ってピンポイントでお願いすることもありました。
――具体的に意見を出して、それを組み合わせていくっていう感じなんですね。最初に曲を持ってくるときもそういう感じなんですか?
Maika:Motoは言葉で伝えてくれますね。こんな感じってリファレンスを送ってくれることももちろんあるし。
Lily:写真で送ってくれることもある。
――じゃあ、わりと具体的に説明する、と。
Maika:そうなったよね。最初は「こんな感じにしたい」ってフワッとしたものを話して詰めていったけど、やっぱり詰めていく中で、「こうしたい」のその抽象的なイメージがそれぞれの中で違ったりして、ぶつかることが出てきたんです。確実なものがあれば、そこにみんなが寄れるから、そうしようねって話してそうなったんです。