センチミリメンタル、感情の波を鮮やかに奏でたツアーファイナル 最初で最後のZepp Tokyoワンマンをレポート

センチミリメンタル、最初で最後のZepp Tokyo

 11月12日、『センチミリメンタル 2nd LIVE TOUR 2021 “とって”』ツアーファイナル、Zepp Tokyo。1曲目は「トワイライト・ナイト」だった。ピンスポットの下で歌う温詞は、一人ぼっちでいるように見えるが、助走をつけるようなバンドサウンドがそこに加わり、転調を機に景色が一気に開ける。〈君を待っていた〉と歌いながら観客に向けて手のひらを示す温詞。それぞれの夜を越えて、今一つの場所に集ったことを祝すようなオープニングはとてもドラマチックで、〈見えるか 聞こえるか/生命の叫びを/微睡む世界を/切り裂く光になりたい/なりたい〉というフレーズはライブの始まりにふさわしいものだった。

 続くは、シンコペーションのリズムによる「キヅアト」の疾走感。そして、音程をずり上げながらのパワフルな歌唱から「青春の演舞」が始まった。アッパーな曲調に乗りながら観客は手拍子していて、視線を合わせながら音を合わせるバンドメンバーも生き生きとしている。センチミリメンタルは、作詞、作曲、編曲、プログラミングに加えて歌唱、ピアノやギターの演奏も担う温詞によるソロプロジェクトだ。ライブにはサポートメンバーを迎えてバンド形式で臨むことがほとんどで、今回のツアーでは村田隆嘉(Gt)、永見和也(Ba)、ナガシマタカト(Dr)とともに演奏。とはいえ、その佇まいは“ソロアーティスト+サポートメンバー”という感じではなく、4人がバンドとしてひと塊になっていた。

 MCで「上手く言えないこと、伝えきれないこと、わかってもらえないことは常にある」という話をしたあと、「そんな心のチグハグ、心の上下する感じを聴いてもらえたらと思います」と言っていたように、センチミリメンタルの楽曲には割り切れない心模様が描かれている。例えば、インディーズ時代からの楽曲「死んでしまいたい、」は、〈死んでしまいたい、〉と繰り返しながらも、その言葉の裏に隠れていた本心をも吐露している曲。ボーカルは、白と黒を表現するように静と動を行き来するだけでなく、声色やブレス、声の震わせ方などで以って、2色の間の微細なグラデーションを表現していく。鍵盤によるインタールードで曲間を繋げた「nag」「死んでしまいたい、」「対落」、そして鍵盤弾き語りで届けた「まるつけ」は、クラシックの素養がある温詞のルーツを感じさせる場面だっただけでなく、温詞の内側にある感情の波のようなものに直接触れられる瞬間でもあった。

 その波を増幅させる存在として、バンドメンバーがいるようなイメージだ。歌が膨らめばバンドサウンドも同じように膨らむ。バンドが止んで静寂が訪れれば、独白のような歌声が露わになる。共に呼吸するように4人は見事にダイナミクスを共有できていて、だからこそ、「夜が明ける」Bメロをはじめとした歌と楽器が掛け合う箇所、各曲の間奏やアウトロなど、バンドのアンサンブルのみで聴かせる箇所も雄弁で、ボーカルの歌心をしっかり引き継いでいる。

 とはいえ、温詞を引き立てるためにバンドメンバーが小さく収まっているわけではなく、むしろそれぞれの個性が立っている。例えば「nag」でのドラムは、滑らかなフレージングの他楽器に対しハイハットを16分で刻むなど、ミドルナンバーとしては意外性のあるアプローチで存在感を見せる。ギターはリフがとにかく強烈で、「夜が明ける」「冬のはなし」といったギヴン提供曲のセルフカバーにおけるプレイは特に華やか。ベースは、夜の闇を行くように低音域を這ったかと思えば、ギターとともにフレーズを奏でるなど、求められていることが実は多く、多才な印象を受けた。また、それら楽器隊のアプローチは、一人ひとりが派手なプレイをしていても、そしてバンドがどれだけ大きく鳴っていても優に越えていけるボーカルがあるからこそ成り立つもの。曲数を重ねても疲れを見せず、むしろ勢いづいていく様にはちょっとした恐ろしささえ感じた。

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