D.A.N. 櫻木大悟×坂本慎太郎、歌詞をテーマに語り合う特別対談 身体との共鳴で新たな意味を生み出す音楽の機能

D.A.N. 櫻木×坂本慎太郎 特別対談

 D.A.N.が、前作『Sonatine』以来約3年ぶりとなるアルバム『NO MOON』を10月27日にリリースした。作品を重ねるごとに、旧来の「バンドサウンド」の想定域を大幅に更新し、先端的なダンスミュージックとしても他に例を見ないクオリティの楽曲を送り出してきた彼ら。今作は、一層研ぎ澄まされた作曲術と音響構築を聴かせるアルバムとして、まさしくキャリア史上の最高傑作と呼ぶにふさわしい内容となっている。R&BやUKガラージ等への自覚的な接近を始めとして、元々豊かだった音楽語彙はさらに強化され、一方でD.A.N.のシグネイチャーともいえる演奏/歌唱の快楽性もただならぬレベルに達した。  

 もちろん、詞作面の深化も見逃せない。元来サイケデリックかつイメージ豊かな歌詞を特徴としていた彼らだが、今作では(ここ2年弱の世界的災禍がもたらした気分を直接的に反映するように)、より内省的かつエモーショナルな言葉が目立っている。

 今回は、作詞を手掛ける櫻木大悟(Gt/Vo/Syn)がかねてより深く尊敬しているという坂本慎太郎を迎え、その「歌詞」にフォーカスして話し合う対談を行った。実際的な作詞方法、サウンドとの相関性、言葉の異化作用、音としての歌詞/意味としての歌詞、「メッセージ性」と「社会性」について……様々なトピックを通じて、D.A.N.と坂本両者による歌詞の、ひいてはその音楽全体の魅力も浮かび上がってくる。両者のファンへはもちろん、実作を行うミュージシャン各位にとっても、実践的なヒントに満ちた対談となっているはずだ。(柴崎祐二)

「曲と言葉のスピード感がズレないようにする」(坂本)

ーーお二人は普段からプライベートでも交流があるんですよね?

櫻木大悟(以下、櫻木):はい。共通の知り合いがいて、恵比寿LIQUIDROOMのパーティでお会いしたり。僕からしたら昔から憧れの人なので「交流」というのもおこがましいですけど……。酔っ払って嫌がる坂本さんを無理やり深夜のクラブに連れて行ったりしましたよね(笑)。

坂本慎太郎(以下、坂本):あ~、あった。まあ、色んなところで出くわすから、その度にお酒飲んだり。連絡先は知らないけど。

櫻木:僕は知ってますよ、坂本さんの電話番号。かけたことはないけれど(笑)。

ーー櫻木さんはいつから坂本さんの音楽を聴いていたんでしょう?

櫻木:それはもう、高校時代からずっと聴いてます。ゆらゆら帝国のライブはギリギリ観ることが出来なかったんですけど、ソロのライブは何度も拝見してます。

ーー坂本さんが初めにD.A.N.の存在を知ったのはいつですか?

坂本:最初のEP(2015年7月8日リリース『EP』)が出た頃から聴いてますよ。

櫻木:マジですか! 恐縮です。

櫻木大悟

ーー坂本さんは今回のアルバム『NO MOON』を聴いてみて、いかがでしたか?

坂本:作品ごとにだんだんと音のスケールがデカくなってるなっていうのと、全体的によりダークで、壮大な感じがしましたね。あと、サウンドも相変わらず凝ってるし、考え抜かれてるなあ、と。

櫻木:いや~、嬉しいですね。他のメンバーも喜ぶと思います。

ーー今回の対談は、「歌詞」をテーマとしたものなので、そのあたりの話に入っていきたいんですが、まずは普段どのように詞を作っているかについて聞かせてください。櫻木さんは?

櫻木:まず曲が先にあって、デタラメ英語みたいな仮歌を付けてみるという作業を初めにやってます。その原型に沿って、メロディとか抑揚とか、なるべく元の形をキープできるような日本語を探していって、そこからさらに言葉同士の繋がりみたいなものを何種類か考えていくって感じですね。自分の中で気持ちよく響いているそのデタラメ英語を、一回カタカナ表記に落とし込んでみて、その音節感みたいなものを噛み砕く作業もやってます。

ーー坂本さんは?

坂本:僕も一緒ですね。そういうデタラメ英語みたいなものからハマる日本語を探していくっていう。

ーーあくまで音との密接度を重視しているというのがお二人に共通する部分なのかなと感じます。いわゆる「意味/メッセージありき」とは違う作り方というか……。

櫻木:僕の場合、一旦言葉の意味は考えず音重視で作って、後から言葉を探しているっていう感覚ですね。

坂本:それに関しても同じですね。僕は大抵歌い出しから作るんですけど、パチッとハマるフレーズが浮かんだら、「逆にこれは何のことを歌っている曲なんだろう?」って考え始めることが多いです。曲を作っているときには全然思ってもみなかった言葉がハマって、そこから発想していく感じ。

櫻木:面白いな~。僕はとりあえず闇雲に歩いていって、「まあこんな感じかな」みたいなことが多いので……(笑)。

坂本慎太郎

ーー昔から言われがちなことですが、「西洋発のポピュラー音楽と日本語の音節感の整合性の悪さ」という点についてはどんな風に考えていますか?

櫻木:うーん、僕の場合はやっぱり楽ではないなっていう意識が強いですね。自分で歌うパートについてもそうだし、今回のアルバムでも、特にラッパーに参加してもらった部分とかは、そのまま英語でお願いしていますし。

坂本:英語に比べて、日本語は音に対して入れられる言葉に制約があるんですよね。一つの音に対して、基本一文字っていう。英語だと、一つの音で一個の単語になっている場合もあるけど、そういうのがほとんどないですし。だから、リズムに乗せたときに間延びした感じになりがちっていうのはある。けど、それを引き受けた上で面白いやり方を探るっていうか。

ーー坂本さんの音楽は、音としての日本語が気持ちよく曲に落とし込まれているのに、同時に意味としての日本語が鋭く立ち上がってくるという印象があります。

櫻木:本当にそうですよね。美しいし、無駄がない。絶妙なところで聞いたことのない日本語が組み合わさっていて……言葉とメロディが合わさった時、何か不思議なイメージが湧くんです。

坂本:メロディやリズムと日本語がピッタリ合うっていうのはもちろんなんだけど、曲のスピード感と言葉のスピード感がずれないようにするっていうのも考えてますね。

ーーその「ズレ」っていうのは?

坂本:曲が先に進んでいるのに、歌詞がそれ以前の行に引っ張られて次の行にまたいでいる、みたいな。逆に、同じ一節の中で言いきってしまうべき言葉、要はそこにハマるべき言葉があるはずなのに、それを避けて足踏みしてもたついている、とか。なんとなくで歌詞を作ると、そういうのが結構あるんですよ。

ーーそうすると、音楽自体にも寸足らず感や字余り感が出てきてしまう?

坂本:そうですね。あと、動詞があって目的語があってっていう英語の構造と違って、日本語だと「こういうことがあったから、次はこういう展開がきて、こうなりました」みたいになってしまいがちで、かったるくなっちゃう。だから、一行一行それ単体でまとまった歌詞を書くようにしてます。むしろ、ある行と次の行にあからさまな連続性がない方が広がりが出たり、全体として聴いた時に違った感覚が生まれてくることもあって。

櫻木:実は、歌詞作りのそういう「メソッド」みたいなものを、飲んでいるときに坂本さんから教えてもらったことがあるんですよ、僕。

坂本:あ~、話した気がする。

「二面性やわからなさが好き」(櫻木)

ーー確かに、『NO MOON』の歌詞からも一節ずつの「まとまり」のようなものを感じます。

櫻木:そのメソッドをめちゃくちゃお借りしてます。これ、今日会ったら謝ろうと思ってました(笑)。

坂本:全然いいですよ(笑)。それで思い出した余談ですけど、「曲のタイトルを歌い出しで使わない」もしくは「歌い出しを曲のタイトルにしない」っていう自分の中で勝手に決めているメソッドというか、ルールがあって。あるとき、オシリペンペンズが、冒頭からひたすら「全員転校生!」って叫んでいる曲を演奏してて。で、ボーカルの(石井)モタコくんに「あの『全員転校生』っていう曲いいね」って話したら、「いや、坂本さんから歌い出しをタイトルにしないっていう話を聞いていたので、あれは『君の名は』っていう曲名です」って言ってて(笑)。「いや、さすがに例外はあるし、あれに関しては絶対『全員転校生』の方がいいよ」と話した記憶があります。

ーー(笑)。坂本さんから見て、今回のD.A.N.のアルバムの歌詞はいかがでしたか?

坂本:最初聴いたときは、断片的に言葉が聞こえてくるけど、内容までは分からなくて。けど、歌詞カードを読んでみたら、結構社会的というか、今の世の中においての苦悩みたいなことも歌われていて、意外な感じがしました。サウンドからするともっと幻想的なイメージを思い浮かべていたので。その上でもう一度再生してみると、今度は言葉が入ってきて、最初とは違って聴こえてきました。

櫻木:もう切実でしたもん。コロナ禍でライブもできなくなって、経済的にも圧迫されるし、単純に生活がしんどくなってきて……。

坂本:生活感みたいなのは直接的には感じなかったけど、ふつふつとした何かがあるぞ、と。シリアスさ、というか。

櫻木:そうかもしれないですね。もともとそういう傾向はあると思うけど、今回はより内向的な部分が出てきたのかなと思っています。自分の中でリアルな言葉を選ぼうっていうのがあったんです。ラガっぽいものとか、グライムとか、言葉がストレートっていうか、「俺の思いを聴け」って感じの音楽が好きになってよく聴いていたので、自分のリアルな言葉がやっぱり強いよなと思って。自分はそこまでストレートにできないけど、心の奥にしまっているエッジみたいなものが出てきたっていうのはあったかもしれないですね。

ーーけど、聴き心地としては、重苦しさみたいなものが前面化されているわけでもないですよね。

坂本:大悟くんの歌がファルセット主体だから、歌詞がストレートでもサウンドとしてスッと入ってくるっていうのもあるかも。「サウンドとしての歌詞」と「メッセージとしての歌詞」の中間って感じがします。社会的なことをはっきりと言っていても、歌い方が生々しくなり過ぎないから、サウンドにうまく溶け込んでる。

櫻木:嬉しいですね……まさに自分がやりたいのはそれなのかも。

ーー閉塞感やダークな色彩がありつつも、一方でどこか情けなさというか、ファニーさがあるのも『NO MOON』の歌詞の魅力だと思いました。

櫻木:どうしてもそういう情けないテイストが好きなんですよね。ひょうきんさみたいなものをどこかに残してきたいんです。シリアスになり過ぎることへの恥ずかしさもきっとあると思うんですけど、ガチガチにスタイリッシュなものより、ユルさを入れたくなる。自分の中の深刻な怒りをストレートに書く人もいると思うけど、自分がそれをやると、妙にナルシストっぽくなっちゃう気がしていて。どこかで「自分なんて」っていう視線を保っておきたいんです。

坂本:快楽的で退廃的なことだけ歌うっていうのはやらないんですか? 真面目なことは一切言わない。D.A.N.のサウンドにはそれも合いそうだと思うけど。

櫻木:あ~、それもいいですね。確かにそういう方向もあるかもな……けど、どこかで二面性を持たせるのが好きなんだと思います。温かいけど冷たい、ゾクゾクするけど面白い、みたいなものに惹かれてしまうんですよ。歌詞でも、「これはこうだから、こう」っていう説明的なものより、「これってどういうことなの?」って想像させられるものの方が楽しい。たぶん、「わからなさ」が好きなんだと思います。

D.A.N. – No Moon (Official Video)

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