D.A.N. 櫻木大悟×坂本慎太郎、歌詞をテーマに語り合う特別対談 身体との共鳴で新たな意味を生み出す音楽の機能

D.A.N. 櫻木×坂本慎太郎 特別対談

「文字よりも音声としての言葉に触発される」(櫻木)

ーー坂本さんはいかがでしょうか。「わかり過ぎる」のを避ける傾向は共通している?

坂本:そうですね。曲にもよりますけどね。すごく陳腐で「わかりやすい」歌詞でも、曲によっては妙に切実に聴こえてくる場合もあるし、逆にすごく練られて上手いことを言っていても、全然響いてこない曲もある。あとは、至極真面目なことを言っているだけなのに滑稽に聴こえる、とかもある。

 結局、曲と合わさった中で聴こえてくる一瞬のイメージが連続した上で、全体のイメージが作られるから。やっぱり、自分はあくまでサウンドの一部として歌詞を聴いているし、キーワードみたいなものが音と一緒にパッと入ってきて、それとともになにかしらのイメージが浮かぶっていう形がいいなと思います。

ーーサウンドとの関連によって、歌詞の意味に異化作用が及ぼされるような感覚。

櫻木:そうそう。あるサウンドに対して、わざと合わなさそうな言葉を選ぶっていうのもよくやります。さっき言った「情けなさ」もそうだと思いますね。いかついメロディに、あえて情けない言葉をうまく入れてみたりとか。

D.A.N. - Anthem (Official Video)

ーーD.A.N.の音楽には、なによりもダンスミュージックとして優れた機能があると思うんですが、そういう側面から見ると、歌詞というのはどのような存在だと思いますか?

櫻木:人それぞれいろいろ好みがあるとは思うんですが、僕としてはダンスミュージックの歌詞って、グッと身体に入ってくる瞬間がほんの少しでもあればそれで十分なんじゃないかと思っていて。やっぱり大きな目的は、言語的な意味を超えた「踊れる」っていうところにあるわけだし。

ーーけれど、今回のアルバムでは、単純な言葉のリフレインというよりはかなり言葉数の多い歌詞になっている気もして。これはどうしてなんでしょう?

櫻木:うーん、なんでだろう。本音を言えば、僕にとって歌は音であってくれればよくて、言葉でなくてもいいんですよ。「声を出す」ということの魅力が先にあるというか。言葉になる前の声をワーッと出して気持ちいい、そしてそれを受け止める人がいるっていう野性的な呼応の状態に魅力を感じるんです。

 けれど一方で、どこかで僕の作るメロディは言葉を引き寄せる構造になっている気がします。バンドっていう形でポップスをやることにも惹かれているから、それが自然と言葉を要求している、というか……。

坂本:僕もやっぱり、発声の気持ちよさっていうのがまず自分にとって重要ですね。歌っていて口の形が気持ちいいとか、そういう感覚を重視していると思います。自分の曲を歌っているときって、歌詞の内容を伝えるというより、まずは肉体的な気持ちよさが先に立っているところがありますね。その気持ちよさに結果として意味がくっついている、みたいな感じが一番しっくりくる。そこがズレている歌詞だと、演奏してる時に体の動きと脳の動きが合わなくなってしまうんですよ。

櫻木:歌詞の意味と自分自身のフィット感という視点でいうと、自分が昔書いた歌詞が、「ああ、この時はそういう思いを持っていたから、こういう言葉になっているんだな」という風に、後々になって深く理解できる、という体験も結構ありますね。逆にいえば、新しく曲を作る時にはあまり「こういう気持ちを言葉にしてみよう」とか厳密に考えているわけでもなくて。あくまで気持ちいい言葉を肉体的に選んでいっているイメージ。

坂本:「何を歌いたいか」から出発することは僕もないんだけど、逆に、「とりあえず、これを歌ってはダメ」みたいのはありますね。それを避けて、消去法的に言葉が出てくる感じ。単純に言葉としてカッコ悪いとか、逆に言葉が前に出すぎちゃって、そこだけ急に意味がダイレクトに入ってきてしまうものは却下していきます。

櫻木:やたらに「抜け」の良い言葉ってありますよね。

坂本:あからさまに奇をてらった感じになってしまう。たとえば、D.A.N.の歌詞に「こたつ」とかは合わないわけじゃないですか。

櫻木:ははは。でもそう言われると「こたつ」という歌詞を入れて曲を作りたくなってきちゃう(笑)。ギリギリのラインをいかに突いていくのかっていうのはありますよね。

坂本:もちろん、そういう異物みたいな言葉でちょうどよく面白くなることもあるから一概には言えないけども。

櫻木:D.A.N.のサウンドってちょっとクールそうじゃないですか。自分たち的には全然そんなことないっていうか、全然普通にダサいところもあるよ~っていうのもわかってほしくて(笑)。

ーー櫻木さんは、他ジャンルの言語表現……例えば小説や詩からもインスピレーションを受けたりするんでしょうか?

櫻木:あんまりないかな。むしろ人との会話から一番影響を受けていると思います。口から発せられる音という点で歌と出所が同じだし、文字よりも音声としての言葉に触発されることが多いですかね。

ーー会話の中で気になった言葉をメモしておいたり?

櫻木:その場ではメモしないとしても、曲を作るときになって普段気になっていた言葉をバーっと挙げたりはしますね。

坂本:紙に書くの?

櫻木:そうですね。思いついたらまず紙に書いて、それをPCに打ち込んで清書していく感じです。

「聴いた人の中で何かしらの感情が動く装置のようなもの」(坂本)

ーー坂本さんはどうやって言葉を採取しているんですか?

坂本:僕は紙やキーボードに向かって考えることはほとんどなくて。仕上げの段階で使ったりはしますけど。だいたいギターを弾きながら鼻歌を歌って出てくるのを待つ感じです。それで出てこなかったら散歩に行って、歩きながらずっと脳内でリピートしてみたり。集中して考えると、どうしても辻褄の合ったつまらない歌詞になっちゃうんで、なるべく考えすぎないようにして。一日に何回か試してみてすぐ中断して、次の日にまたなんとなくやってみて出てくるのを期待してまたやめて、とかそんな感じです。

櫻木:だからあんなナチュラルに気持ちよく言葉が入ってくるんだろうな……。

ーー歌詞って、サウンドと不分の関係性の中に存在するものでありながら、最終的にはやっぱり意味を運ぶ言葉である時点で、必然的にコミュニケーションとしての機能が内蔵されていると思うんです。そうだとすると、お二人の歌詞もあくまで「他者」を想定した上で書かれたものなのでしょうか?

坂本:僕は意識してるんじゃないですかね。やっぱり「他人からすごいと思われたい」みたいに思うし(笑)。

櫻木:僕の場合、一概に言うのは難しいし曲による部分もあるけど、自分が気持ちよく歌うために歌詞を発しているのは前提にありつつも、単純に、親しい人たちが喜んでくれたりしたらいいなとは思いますね。

ーー自分の言葉を社会に投げかける、みたいな意識はない?

櫻木:うーん、どうだろう……。

ーーこのアルバムの歌詞に触れて、社会で同じような境遇なり悶々とした心境にある人が慰撫されるということもあるかもしれませんよね。それって、すでに歌詞が社会的な機能を帯びているということなんじゃないかなと。

櫻木:あぁ、なるほど。

By Swallow Season / Shintaro Sakamoto (Official Music Video)

ーー坂本さんはいかがですか。鋭い社会的意識が込められた歌詞だと思うし、そう評されることも多いと思うんですが。

坂本:何か伝えたい内容が先にあってそれを伝える、という形になってなくてもいいとは思っています。むしろ、僕の音楽を聴いた人の中で、何かしらの感情が動いたりする装置のようになっていればいいな、と。例えば、飼っているペットのことを歌っているだけなのに、すごく心が動かされちゃったとか。自分も経験あるし。

櫻木:あー、わかる。

坂本:全然そういう曲じゃないのに、子供の頃おばあちゃんと遊んだことを思い出して悲しくなる、とかも。そっちの方が「音楽的」な言葉だと思うんです。直接的に政治的なメッセージを掲げるのもアリだけど、政治的な主題を歌っていない曲を聴いていたはずが、今の政府にめちゃくちゃ腹立ってきた、というのもあるかもしれないし。そういうようなきっかけというか、「違う世界への入り口」を見せる装置のようになれればいいかなと思っています。

ーー言葉の意味を様々に変容させうるサウンドと一体になったからこそ、音楽はその「装置」に適している、という考え方もできますね。

坂本:そうですね。

ーー一見クールなダンスミュージックでありながら、それだけに留まらない広がりを聴かせてくれるという点で、『NO MOON』も優れた「入り口」だなと感じます。

櫻木:もしそういう風に聴いてくれたらすごく嬉しいですね。

D.A.N.『NO MOON』

■リリース情報
D.A.N.『NO MOON』
10月27日(水)リリース
・CD(通常盤)¥3,080税込
・CD+GOODS付き限定盤 ¥8,800税込
[Tracks]
01. Anthem
02. Floating in Space [feat. Utena Kobayashi]
03. The Encounters [feat. Takumi (MIRRROR) / tamanaramen]
04. Antiphase Ⅰ
05. Bend
06. Fallen Angle
07. Antiphase Ⅱ
08. Aechmea
09. Take Your Time
10. Overthinker
11. Antiphase Ⅲ
12. No Moon

D.A.N. Official Site
坂本慎太郎 Official Site

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