EMPiRE、音楽を武器に上げる“逆襲”の狼煙 佐々木敦による最新作『BRiGHT FUTURE』レビュー

EMPiREが上げる“逆襲”の狼煙

 エンパイア・ストライクス・バック!

 THE EMPIRE STRIKES BACKとは、映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』のサブタイトルである。EMPiREのニューアルバム『BRiGHT FUTURE』を聴いて私の脳裏にまず思い浮かんだのが、このワードだった。EMPiREの逆襲!!!

 では、何に対する「逆襲」なのか? それが問題だ。

 全13曲入りのアルバムである。作曲は、松隈ケンタが8曲、oniが3曲、YUNOSYとSeihoが1曲ずつ。作詞は、MAHO EMPiREが3曲、YU-Ki EMPiREとMAYU EMPiREが1曲ずつ、MiKiNA EMPiREとMAYU EMPiREの共作が2曲、MAYU EMPiREとMiDORiKO EMPiREの共作が1曲、JxSxKが5曲。もちろん編曲は、Seihoプロデュースの「IZA!!」を除きSCRAMBLESが担当している。メンバーが作詞するのはWACKのお家芸ではあるが、本作はとりわけ意欲的な、そして成功した取り組みになっていると思う(次はNOW EMPiREの歌詞も読んでみたい)。

EMPiRE / LET’S SHOW [OFFiCiAL ViDEO]

 アルバムは「LET'S SHOW」で始まる。タイトル通り、幕開けにふさわしいゴージャスでアグレッシブな曲だ。ダンスチューンだがミドルテンポで、歌割りもひとりずつがクローズアップになっていく感じで、さながら入場行進という雰囲気である。アレンジは派手なのに、メンバーの歌唱の淡々としてクールなムードが、アルバム全体への期待を高める。

EMPiRE / IZA!! [OFFiCiAL ViDEO]

 続く「Chase your back」は一転して激しい感情を帯びたドラマチックなメロディが映える。サビのシャウトがエモいが、ぶち上がった思いを綺麗に締める、その後の旋律展開も重要だと思う。3曲目は才人Seihoにプロデュースを依頼した「IZA!!」。何を隠そう、遅まきながら私がEMPiREにハマったきっかけの曲である(最近じゃないか!)。どうしても緻密な音作りに耳が行ってしまうが、この曲の最大のチャームはサビのメロディの親しみやすさではないか。音色選びのテイストがSCRAMBLESとは異なっているので、アルバムの中に置くと浮くかもと心配だったが、意外なほどにしっくりくる。悪目立ちしない曲順の位置も良い。

EMPiRE / Happy with you [OFFiCiAL ViDEO]

 次の「Happy with you」は、センチメンタルな世界観とシンセの音圧のコントラストが独特の聴き心地を醸し出す、隠れた名曲(私のお気に入り、その一)。一音一音を抱きしめているようなメンバーの歌い方が素敵。「I don't care」はWACKぽさ全開の曲。終始テンションが高いが、ボーカルのスイートさによって極端に強迫的にはならず、ちゃんとポップソングとして成立している。「ERROR」は歌い出しから切迫感溢れるエモーショナルな楽曲で、爆音で聴きたい。EMPiREというグループが持つカッコ良さが凝縮されたマッシブな曲だ。いきなり場面転換して「Haggling」。ちょっと小林武史みを感じるウェルメイドなザ・J-POP!で、普遍的と言ってもよいメロディアスさが癖になる。作詞はMAHOだが、こういう曲は彼女のコケティッシュな声質がほんとうによく似合う。ギターも面白い。私のお気に入り、その二である。

 8曲目「To continue」はBiSHが歌ってもよさそうな劇的な展開の曲だが、それだけに二組のメンバーのシンギングスタイルの違いがクリアにわかるのが興味深い。特にMAHOの声のすこやかさが印象的だ。「FLY! SiNG! CRY! TRY! SMiLE!」はキャッチーなメロディが特長だが、後半のアレンジで旋律の与える感覚が刻々と変化していく。間奏のピアノソロが効いている。一曲通して物語性を感じる。「Hey!Hey!」はスキップで街を闊歩してるような明るさと軽快さを持った曲で、親しみやすいシンプルなメロディがメンバー各自の歌唱の個性を際立たせている。そして「HON-NO」。ライブ映えする全力疾走感のある曲で、サウンドは超イケイケなのに、どこか微かな憂いが感じられるのが良い。最後から二番目の「RATHER」は、歌割りのバランスといい、激情を押し隠すようなエモい旋律といい、アレンジの凝り具合といい、本アルバムの中で最も複雑なニュアンスを湛えた曲であり、私のお気に入り、その三、にして一番好きな曲である。そしてラストを飾る「RiNG to the BRiGHT FUTURE」は、エンディングテーマらしいスケールの大きな曲だが、閉幕というよりも、次なる舞台に早くも旅立っていこうとするかのような希望に満ちた決意を感じさせてくれる。

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