アルバム『忘れられない人』インタビュー
藤田麻衣子、ときめきがもたらした恋愛ソングへのモチベーション アルバム『忘れられない人』制作秘話を語る
ここからもっと自由に曲作りを楽しめる気がする
ーー「手錠(duet with 平川大輔)」の平川さんには、以前「共犯者」を書き下ろしていて、藤田さんも『弾き語りBest』でセルフカバーしていますね。
藤田:出会いは2009年。イベントで頻繁にお会いする機会があって、声優仲間の方たちと一緒にご飯に行かせてもらったりもしてたんです。「共犯者」を提供したのは2011年で、年に1、2回は連絡取り合う仲。とはいえ、平川さんは今、声優として超売れっ子なので、「忙しい」を理由に断られちゃうかも。だから、先に曲を作っちゃおうと思ったんです(笑)。「共犯者」から10年なので、アフターストーリーにしたら面白いんじゃないかなと。
ーー「共犯者」からの「手錠」ってすごい(笑)。
藤田:「共犯者」にタイトル負けしない言葉をいろいろ挙げていって「手錠」を思いついたとき、「あ、これでいける」と思いました。君がかけた手錠を君は外してくれないというふうに展開したら、いくら時間が経っても忘れられないという歌になるなと。
ーーラストにかけて「共犯者」のフレーズが被ってくるところで、もうホントにゾワッとしました。あれは狙って、ですか?
藤田:はい(笑)。最後に絡ませたいと思ったので、それが可能なコード進行で曲を作っていきました。
ーーわー、いろんなタクティクスが! さらに曲の冒頭には、平川さんの台詞まで。
藤田:コラボを快諾してくださったときに、「声優の僕だからこそできることがあればやらせていただきます」とも言ってくださったんですね。なので、本番レコーディングのとき、「サビの1行を喋ってもらうと別料金ですか?」と聞きました(笑)。平川さんがマイクで喋り始めた途端、もうその場にいた全員がときめいて椅子からずり落ちたんですよ。さすがの破壊力。これは間違いないと曲頭に持ってきました。
ーークリスさんとも平川さんとも、長い関係性があってこそのコラボになりましたね。時間ってすごい。
藤田 ほんと、そうですね。もちろん、初めての人とひらめきを交換し合うのも楽しいけど、長いおつき合いの人とだと、その時間の分だけの濃さが出る。とてもやり甲斐がありました。
ーー「anniversary」は「ありがとう」がしみるポップチューンです。
藤田:この曲は、2016年の10周年のときの47都道府県の弾き語りツアーで歌った曲。CDには収録してなかったので、15周年のタイミングで音源にしようと思ってました。ファンの方々は、「ああ、やっと出る」と言っていると思います(笑)。
ーーAメロのギターバッキングが個人的に大好きです。
藤田:今回、アレンジ的に合いそうな曲には、80年代や90年代のテイストを入れたかったんですよ。当時わかりやすいキメとかが多かったじゃないですか。その懐かしい感じが、今、新鮮に響くし、何より私自身のテンションが上がる。アレンジャーのIkomanさんも、すごく楽しんで演奏してくれましたね。
ーー『忘れられない人』をいちばん感じたのが「いつか」です。
藤田:失恋して辛い日々を過ごしていた20代、「こういうのっていつまで辛いの?」と年上の友だちに聞いたことがあったんです。そうしたらその友だちが、「いつか」の歌詞そのままのことを言ってくれた。それで私、すごく楽になったんです。無理に頑張らないで歩いて行けそうな気がして。
ーー〈忘れられないんだから 忘れなくていいんだよ〉ですよね。私もちょっと泣きました。たぶん実話なんだろうなとも。
藤田:まるっとそのときの状況が見えてきますよね(苦笑)。これから先、いろんな人がいろんな場所で失恋すると思うんですけど、そのときにはこれを聴いて、私が救われたように、「あ、そういう考え方もあるのか」と思ってくれたらなと、そんな願いを込めました。
ーー「プレアデス」は初々しい透明感にあふれています。
藤田:両想いなんだろうけどお互いまだ一歩踏み出す勇気が出ないといった恋の始まりを描きました。
ーーベースラインが今風で耳を引きますね。
藤田:ピアノ弾き語りでこの曲を歌えばバラードになると思うけど、CD音源は心地いいミディアム風に仕上げたかったので、「これは打ち込みがいい」とIkomanさんにリクエストしました。80年代、90年代の匂いが多いなかで、唯一今っぽさを意識した曲です。
ーー「雨」は、忘れられない人を雨のなか見つけてしまうストーリー。映画のワンシーンを観るようですが、サウンドはギターソロもあったりするロックテイストで意外でした。
藤田:わかりやすい8ビートがよかったので、「TUBEみたいにしたい!」とお願いしました。ポップスの王道ですよね。子供の頃からずっと耳にしてきたサウンドだから、ほんと、気持ちいい。なんだか安心して歌える感じがありました。
ーーちょっと瑣末な感想で恐縮なのですが、最初に音だけを味わったとき、〈キスした駐車場〉という箇所が、「♪キスしたチュー」と耳に飛び込んできて、思わず二度見、いや二度聴きしたんです。
藤田:アハハハ! 歌入れのときディレクターも、「♪キスしたチュー」と聞こえないように歌ってくださいと言ってました。わざとそうなるように書いたわけではないし、うまいこと韻を踏んでるわけでもないので、大丈夫かなと思ってるんですけど(笑)。
ーーファンのみなさんの間でも話題になるかなと。
藤田:そういう感想、絶対届くと思います。
ーーラストの「それでも朝は来る」は、『弾き語りBest』で初収録された「カーテン」のその先のように感じました。
藤田:今はもう乗り越えて少し開き直れてる私がいるんですけど、メジャーデビューして何年も経たない頃は、「頑張ってるけど、これでよかったのかな」と考えて、落ち込んで、眠れないことも多かった。その頃の日記そのままという感じの歌です。世の中の現状もあって、今回のアルバムには軽やかに聴ける曲を多めにしたけど、実際はこういう暗めのバラードもけっこう作ってましたね。そのなかで、「それでも朝は来る」は静かに希望が持てる曲というふうに思えたので、ラストに入れようと思いました。
ーーこれを聴くと、現実に戻って明日に向かえる気がします。
藤田:今回恋愛ソングを軸にしたのは、しばし現実逃避してもらえたらいいなという思いもあったからなんです。ただ、最後だけは、今、聴いてほしい歌を入れたかった。私からのメッセージとして受け取ってくれたらうれしいです。
ーーアルバムが完成した今、どんなことを実感していますか?
藤田:曲作りがすごく楽しいんです。そういうスイッチが入った気がしますね。恋愛の歌はこれまでもずっと書いてきたけど、自分もファンの人たちも大人になっていくなか、どういう歌を歌ったらいいか実は迷ってたりしてたんですね。それが今は、いくつになろうが恋愛の歌を書けばいいじゃん! だって私、これがいちばん得意だから! と思えている。だから、ここからもっと自由に曲作りを楽しめる気がするんです。コロナ禍のなか10公演をやりきれてほっとしたところでもあるので、しばらくはちょっとおこもりモードに入るかもしれないですね。
■リリース情報
発売日:2021年10月27日(水)
税込3,300円(税抜3,000円)
オフィシャルサイト
http://fujitamaiko.com/