小袋成彬の歌詞表現はなぜ我々を揺さぶるのか 新作『Strides』に色濃く刻まれたドキュメント
KANDYTOWNのMUDをフィーチャーした「Route」はリアルライフが綴られるヒップホップの定石なのだが、「Strides」と敢えて落差を作っているのだろうか。ドキュメントタッチのリリックがアルバムの強度を補完する。メロラップともマンブルラップとも違う小袋ならではのフロウと声質で綴られるのは〈赤いパスポート〉(=日本国パスポート)、〈名前入り銀の盾〉(=表彰盾)などここ2年を思わせるモノ、そして自分で切り拓いた事業と葛藤、2019年始めに東京を出たことなどが、乾いたビートに乗る。一転、メロウなトラックにMUDのボースティングを乗せているのが面白い。ただ、生き方のスタンスは共振していて、ふたりとも人の評価や共感には興味がなく、自分の言葉と音を追い求めている。アルバムとしての一貫性は一旦ここで締めくくられ、ラストは吉本ばなな原作の映画『ムーンライト・シャドウ』コラボレーションソングでもある「Parallax」へ。宇多田との共作詞であり、原作とリンクしている(〈黙って戦っていたこと〉など)ことも含め、女性目線で書かれているのは必然だろう。
こうして俯瞰すると、これまでもそうだったように小袋の歌詞表現は距離感や関係はさまざまでも、登場するのは“ふたり”だ。聴き手は“僕”にも“君”にもなれる。安易な共感を嫌う小袋の表現が、それでも我々を揺さぶり続ける理由は強度を上げ続けている。
■リリース情報
3ndアルバム『Strides』
配信日:2021年10月13日(水)
<収録曲>
1.Work
2.Rally
3.Formula
4.Butter
5.Strides
6.Route
7.Parallax
ダウンロード&サブスクリプションはこちら:https://erj.lnk.to/yMcZcy
小袋成彬オフィシャルサイト:https://www.sonymusic.co.jp/artist/nariakiobukuro/