ヨルシカにとっての“文学オマージュ”とは? 最新作「月に吠える」で同時に表現した、根本的な創造性と進化

 そして新曲「月に吠える」もまた、優れた文学作品とヨルシカの豊かな邂逅による楽曲だ。最初に聴こえてくるのは、短い咳の音。さらに研ぎ澄まされたギターのフレーズとベース、キックが絡み合い、楽曲がグルーヴしはじめる。鋭利なラインを辿るメロディとともに映し出されるのは、他者の視線と自らの内側にある暗い衝動、そして、〈想うが儘に〉歌い、描きたいという欲望を抱えている〈おれ〉の姿だ。萩原朔太郎の詩集「月に吠える」における“月”とは、人間の感情の本質であり、自分でもどう扱っていいかわからないほど獰猛な“獣”のメタファー。それはこの作品が敢行されて100年以上が経った現在でも、多くの人々の心を捉えては離さない。その事実を踏まえたうえでn-bunaは、普遍性と時代性を併せ持ったポップチューン「月に吠える」を作り上げたのだと思う。

ヨルシカ - 月に吠える(OFFICIAL VIDEO)

 1970年代後半あたりのソウル、ファンク、ディスコを融合/進化させたトラックメイクも印象的。2010年代のネオソウル、ディスコ・リバイバルの潮流は一時期のブームを超え、一つのジャンルとして定着した感もあるが、楽曲「月に吠える」でヨルシカは、そのテイストを血肉化させ、現代的なグルーヴをたたえたサウンドに結びつけている。しっかりと抑制を効かせたメロディ、一つ一つの言葉にクールな躍動感を与えるsuisのボーカルも素晴らしい。

 歌詞のメッセージ性やサウンドメイクを含め、自らの根本的なスタイルと新たなトライアルを共存してみせた楽曲「月に吠える」。「又三郎」「老人と海」そして「月に吠える」の“文学オマージュ”は、多くの音楽ファンに対し、ヨルシカの独創的な音楽観を改めて提示することになる。この3曲を新たな基盤にして二人は、さらに奔放なクリエイティブを花咲かせるーーこれらの楽曲を聴けば、誰もがそう感じるだろう。

ヨルシカ ロゴ

■ヨルシカ「月に吠える」
配信サイトはこちら

「月に吠える」特設サイト
https://sp.universal-music.co.jp/yorushika/howling_at_the_moon/

ヨルシカ公式サイト:http://yorushika.com/
ヨルシカ / n-buna YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCRIgIJQWuBJ0Cv_VlU3USNA

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