ヨルシカが描く、季節を通して繋がる命の物語 “リスナーの思考”を巻き込み完成する『創作』の壮大な仕掛けとは

ヨルシカ『創作』の壮大な仕掛け

 1月27日、ヨルシカの新EP『創作』が発売された。大成建設のTVCMソング「春泥棒」、映画『泣きたい私は猫をかぶる』のエンディングテーマ「嘘月」、『NEWS23』エンディングテーマ「風を食む」など、「春」がテーマの全5曲が収録されたこのEPは、「CDが入っているもの」と「CDが入っていないもの」という、驚くような2種類の形態で販売される。これまでも新しい楽曲、アルバムをリリースするたびに仕掛けを用意してきたヨルシカだが、今度はこの『創作』に何を仕込んできたのだろうか。

  「ヨルシカ=夏」と言い切ってもいいくらい、これまでのヨルシカはずっと楽曲の舞台に夏を選んできた。夏の匂いを感じながら、いなくなってしまった「君」を思う。それが、これまでのヨルシカの多くの曲が描いてきた情景だ。n-bunaも、アルバム『盗作』のインタビューで「最後に夏の匂いがして終わる作品にしたかったというのはあります。単純に、夏は、懐かしい匂いがするから好きなんです。他の季節にない、独特な匂いがある」と語っている(引用:アルバム『盗作』特設サイト)。

 そんなふうに数々の「夏」を描いてきたヨルシカが、『創作』では「春」をテーマとしている。確かに「春泥棒」や「風を食む」は、春めいた柔らかな色彩を感じさせる曲調だし、「嘘月」にも歌詞の中で〈花〉〈春〉という言葉が使われていたりと、春を感じさせる曲が揃っている。

 なかでも、満開の桜の景色の映像を使った「春泥棒」のMVなどは特に春らしさが際立っているが、実はこのMVには、前作『盗作』の主人公らしき男と、彼を見つめる女性が登場するのだ。そして『盗作』の初回限定盤に付属していた小説の中で、男は妻を亡くしている。

ヨルシカ - 春泥棒(OFFICIAL VIDEO)

 「春泥棒」のMVが公開された際、n-bunaはこんなツイートをしている。

「春の日に昭和記念公園の原に一本立つ欅を眺めながら、あの欅が桜だったらいいのにと考えていた。あれを桜に見立てて曲を書こう。どうせならその桜も何かに見立てた方がいい。月並みだが命にしよう。花が寿命なら風は時間だろう。
それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である」
(引用:ヨルシカ Official Twitter

 桜を命に喩えるーーこの視点を持った時、『創作』に収録された「春」たちは違った顔を見せ始める。

ヨルシカ - 風を食む(OFFICIAL VIDEO)

 「風を食む」には〈春が先 花ぐわし/桜の散りぬるを眺む〉という詞があり、「嘘月」の歌い出しは〈雨が降った 花が散った〉。「春泥棒」は〈花散らせ今吹くこの嵐は/まさに春泥棒〉と歌う。

 そして、軽い気持ちで強盗行為に走る人物を描いた新曲「強盗と花束」にはもっと直接的に〈ある昼、僕は思ったんですが/死にゆく貴方に花を上げたい〉と歌われる。『創作』の中の花たちはどれも散り、失われていくさまが描かれる。この「花」が「命」であるならば、「春」とはつまり「貴方」がまだいる季節であり、その次に来る「夏」は「貴方」が失われた後の季節なのだ。

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