『あの夏のルカ』とsuis from ヨルシカ「少年時代」が呼び起こす“いつかの夏の思い出” 物語と楽曲が伝えるノスタルジア

『あの夏のルカ』とsuisが伝えるノスタルジア

 「郷愁」という言葉をつい簡単に使ってしまうけれど、私たちは一体何をもって「懐かしさ」というものを嗅ぎ取っているのだろう。だが、言葉ではうまく説明できないその香りが、この曲を聴いた時、確かに香ってきたのだった。

 ディズニー&ピクサーの最新作にして、6月18日よりディズニープラスで配信がスタートした『あの夏のルカ』。『トイ・ストーリー』で“おもちゃの世界”、『リメンバー・ミー』で“死者の世界”、『ソウルフル・ワールド』で“生まれる前の世界”を描いてきたディズニー&ピクサーが今回作り上げたのは、“シー・モンスターの世界”だ。

 作品の舞台は、互いに恐れ合ってきた“海の世界”と“人間の世界”。海の世界に生きる“シー・モンスター”であるルカは、好奇心を抑えきれず、行ってはいけないと言われている人間の世界に、親友のアルベルトとともに飛び込む。そこで繰り広げられるひと夏の冒険が、北イタリアの美しい港町の情景と共に描かれたファンタジーアドベンチャーだ。

 そんな今作の日本語版エンドソングとなっているのが、井上陽水の夏の名曲をヨルシカのボーカル suisがカバーした「少年時代(あの夏のルカVer.)」。

 「少年時代」を選んだ理由について、監督のエンリコ・カサローザは「この曲は、あの夏の日へのノスタルジアを呼び起こしてくれるので、とても気に入っている曲なんです。この曲には時代を超えた、本質的なものがあると感じています」と語る。そして、カサローザ監督がその歌声を「とても美しく、透明感のある声で感情を伝えてくれる」と絶賛したsuisは、今回がヨルシカとしてではない、初の単独名義での楽曲となる。

「あの夏のルカ」日本版エンドソング「少年時代(あの夏のルカVer.)」 performed by suis from ヨルシカ|MV60秒|Disney+ (ディズニープラス)

 インタビューの中で、「少年時代」を歌うにあたり意識したことは何かという質問に対し、suisは「いつか少年だった大人ではなく、少年時代そのものが歌っているような歌にできたらいいなと思いました」と答えている。カサローザ監督の言うように、suisの歌声には繊細な透明感がありつつも、決してか細さはない。性別や年齢問わず多くの人が感情移入できるその声を聴いていると、まるで過去そのものが語りかけてきているような感覚になる。

 このなんとも言えない郷愁を生み出しているのは、トクマルシューゴのアレンジの効果もあるだろう。楽器のみならず玩具までも用いて音を奏でるトクマルシューゴは、カサローザ監督の熱烈なオファーを受け、今作にミュージックプロデューサーとして参加。同曲でも、あらゆる音を用いてアレンジを施している。その優しくも多彩な音色を聴いていると、古いおもちゃ箱を開けた時のような懐かしさとワクワクが同時に湧き上がる。このアレンジについて、カサローザ監督は「美しく、何事にも束縛されないような自由な雰囲気のアレンジ」と絶賛し、suisも「潮の香りと星の瞬き、重たいオールを漕いで行った先に何か初めての景色を見るような、思い出だけれど夢の中...というような。不思議な情景を感じました」と語っている。そんなトクマルのアレンジとsuisのボーカル、2つが合わさったことで、「少年時代」は懐かしくも新しい手触りのある曲として生まれ変わったのだ。

 『あの夏のルカ』は「“かつて子供だったすべての人”に贈る感動のサマー・ファンタジー・アドベンチャー」と銘打たれている。鱗のある魚のような身体を持ち、身体が乾くと人間の姿になるという特徴を持つシー・モンスターのルカは、本当の姿を隠し、禁じられた人間の世界へと飛び込む。そして、目に映るすべてが真新しい世界で、人間の少女とかけがえのない出会いを果たす。その無鉄砲な行動力と好奇心は、怖いものを知らない子どもだからこそ持ちうるパワーだ。

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