『眠るためのピアノアルバム~beautiful sleep~』 インタビュー

清塚信也に聞く、ピアノの音色に含まれる“癒し”の正体 ハラミちゃんら新世代ピアニストからの学びも

 今年4月にディズニー公式ピアノアルバム『BE BRAVE』をリリースし大きな話題を集めたピアニストの清塚信也。ここ最近はハラミちゃんやよみぃなど若手ピアニストとも積極的にコラボレーションを行っている彼が、早くも新作『眠るためのピアノアルバム~beautiful sleep~』をリリースした。

 「眠り」と「癒し」をテーマにした本作には、クラシック作曲家シューマンの「トロイメライ」をモチーフとした曲やパッヘルベルの名曲、初録音を含む自身のオリジナル曲、そして三浦大知の代表曲の一つ「ふれあうだけで」を収録。聴く人を安らかな眠りに誘うためのアレンジを施した、癒しのアルバムとなっている。

 昨年より続く新型コロナウイルスの感染拡大により、平坦な日常の中で「眠り」を上手く取ることが出来ず、日々「癒し」を求めている人が急増している中、「眠り」の大切さ、クリエイティブに与える影響の大きさなど、清塚本人はどのように感じているのだろうか。(黒田隆憲)

ピアノの音に含まれる「人の気配」に“癒し”がある

ーー清塚さん、普段はちゃんと睡眠を取れていますか?

清塚信也:じつを言うと、寝るのがすごく下手なんですよ(笑)。寝つきも良くないし、そもそも「寝よう」という気持ちにならなくて。子供の頃に、「寝るのってどうやるんだっけ……?」と考えていたら寝れなくなったとかよくあったじゃないですか。あれが未だに続いているというか。「昨日までどうやって寝ていたんだろうなあ」って考えてしまう。しかも、ストレスや疲れが溜まっていると、さらに寝られなくなるタイプ。寝ても大抵は3、4時間で起きてしまう。こんなアルバムを出しておきながら、「眠り」とは無縁の人生を送ってきましたね。ピアノを弾くよりよっぽど難しいです(笑)。寝るのが得意な人や、好きな人はピンと来ないかもしれないですね。

ーー「眠り」って奥が深いですよね。ぼくは長年ショートスリーパーで、あまり長く寝過ぎてしまうと逆に頭が痛くなったり、調子が悪くなったりしがちなんです。

清塚:一緒だ、わかります(笑)。睡眠時間が長ければいいわけではなくて、質の良い眠りをどれだけしっかり取れるかが大事なんですよね。今回こういうアルバムを出したのは、少しでも「眠り」のサポートになるような音楽を、ぼくと同じように苦しんでいる方に差し上げられたらいいなという気持ちがあったからなんです。

ーーなるほど。ちなみにクリエイティブな面で、「眠り」が及ぼす影響についてはどんなふうにお考えですか?

清塚:それこそ心身ともに健やかな状態じゃないと、いい作品は生まれないと思います。行き詰まってしまうときは、大抵視野が狭くなっているんですよね。それを一度リセットする意味でも「質の良い眠り」は大事です。寝る時にルーティンを大事にする人もいらっしゃいますが、それも度を越してしまうと「あれがないと眠れない」「これがないと眠れない」みたいな強迫観念になってしまうじゃないですか。

ーーたしかに……(笑)。

清塚:日中、動き回っている時には振り払えていた邪念が、布団に入った途端に頭を持ち上げることもある。何より、大事な本番の前日に眠れなかったりすると、勝負する前から「今日はダメだ」みたいな気分になってしまいますよね。

ーーコロナ禍が「眠り」に与えた影響も大きいですか?

清塚:大きいと思います。私自身、これまでは人と会ったり話したりすることが気分転換になっていたので、それが出来なくなってしまい、ストレスがどんどん心の中に溜まっていく感覚がありましたね。そもそも僕は、寝ることを「もったいない」と考えてしまうタチなんですよ。寝ていると、「怠けている」みたいな気持ちになるのは自分でも嫌なんですけど、やりかけの仕事とかあると「寝てる場合じゃないだろ」みたいな気持ちになってしまって……。そういう気持ち、コロナ禍で加速していますね。「眠り」がかなり疎かになっていますし、それによって変に体力が余ってしまうことも多くなった。普段から変化や刺激を欲している方にとって、この1年半は拷問のような日々だったと思います。

ーー本作のテーマは「眠り」と「癒し」だとお聞きしたのですが、清塚さんにとって「癒し」とはなんでしょうか。

清塚:一つは「つながり」ですね。ぼく自身、人とのつながりを求めて去年ごろからYouTube配信やインスタライブなどをスタートしたのですが、それで助けられた部分がものすごく大きくて。聴いてくださったファンの方々が、リアルタイムでコメントをくださったりしていることが本当に嬉しいんですよ。

 それと、ピアノの音色そのものも「癒し」の効果があると思っています。ピアノの音には「人の気配」も含まれているんですよ。楽器というのは、人が演奏しなければ音を発することができないわけですから。「人の気配」を含んだ楽器演奏を聴くことで、「つながり」を感じてもらいたい。「自分は一人ではないのだ」という気持ちになっていただきたいと思っています。

ーーそんな思いが込められていたのですね。

清塚:香りや音など、「目に見えないもの」ってとても大切だと思うんですよ。特に寝る時は目を瞑るわけですからね。そうやって考えると、じつは僕のやっていることってすごいことなのかもしれない。コロナ禍でいろいろなことを考えているうちに、改めてそう思うようになったんです。音を使って何かを伝えたり、感じさせたりするのは、とてもインテリジェンスな行為だと思いませんか?(笑)サウンドが人に与える影響の大きさを思うと、音楽って本当にヤバい!

ーー(笑)。特にインストゥルメンタルミュージックは、言葉では表しきれない感情を想起させるという意味でもインテリジェンスな音楽だと思います。

清塚:一説によると、人は「言葉」よりも先に「歌」によってコミュニケーションをしていたといわれています。僕はそれを信じていて、自分の感情を相手に伝える第一の手段は「音」で、言葉はその後にあるというか、いろんな音が出せるようになったからこそ言葉が生まれたのではないかと思っているんですよね。だとすれば、音を使って何かを表現することは、人間にとってもっとも原始的で本能的なことであり、音に「癒しの効果」があるのは当然ではないかと。逆にいえば「音」を使って相手に警告したり、相手を緊張させたりすることも出来てしまう。そういうネガティブな要素はなるべく聴き手に渡さないようにしないといけないなとも感じています。

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