清塚信也に聞く、ピアノの音色に含まれる“癒し”の正体 ハラミちゃんら新世代ピアニストからの学びも

清塚信也のピアノに含まれる“癒し”の正体

クラシックの作曲家は友人であり、ライバル

ーーアルバムの選曲はどのように行われましたか?

清塚:本作には、大きく3つのカテゴリーがあります。一つは、「眠り」をテーマにリアレンジしたシューマンやパッヘルベルの楽曲。クラシックの響きって、独特の「クラシックっぽさ」があるんですよ。今のポップスやジャズはもうちょっとオシャレというか、洗練されて凝った和声を使うので、クラシックの和声は古くて堅苦しく感じてしまう。今回はテーマに沿って、聞き馴染みが良く心地よい響きを心がけ、ちょっとポップスよりの和声でリハモナイズしてみました。

ーーそれって、ある意味ではシューマンやパッヘルベルとセッションをしているような感覚に近いですか?

清塚:それはありますね。ぼくはクラシックの作曲家のことを、あまり崇めているつもりがなくて。どっちかといえばライバルに近い存在というか。こんなことを言ったらおこがましいのですが、同業者でもあるわけなので、友人でありライバルであり、みたいな気持ちはあるんですよね。「ほら、俺の方が色々和音も知ってるんだぞ」みたいな(笑)。何百年もの時を経たマウントと言えるかもしれないです。

ーー(笑)。

清塚:まあ、原曲があるからこそできる「大喜利」ですけどね。2つ目のカテゴリーは、自分がこれまで作曲してきたオリジナル曲。こちらは真っ白なキャンバスに向かって自由に絵を描いているような感覚で作りました。ただ、金曜ドラマ『コウノドリ』のメインテーマに起用してもらった「Baby, God Bless You 」に関しては、今作のコンセプトに合わせて大幅にリアレンジさせてもらいました。そして三つ目のカテゴリーでは、「J-POPをピアノ曲にアレンジする」というテーマのもと、三浦大知くんの「ふれあうだけで」という曲を取り上げていますね。

ーー今作の中には、清塚さんがここ最近聴いている音楽、もしくはずっと聴き続けている音楽などの影響も色濃く出ていますか?

清塚:出ていると思います。じつは、シューマンの「トロイメライ」をアレンジした冒頭曲「Into a DREAM~夢の中へ~」の途中、ぼく自身が高校生くらいの頃からずっとリスペクトしているビル・エヴァンスの、「Here's That Rainy Day」という曲(1969年のアルバム『Alone』収録)の中の和声をそのまま引用しているんです。おそらくビル・エヴァンス好きはハッとするのではないかな。

ーークラシックはもちろん、ジャズやポップス、時にはJ-POPなど様々な音楽から影響を受けて、それを独自のバランス感覚で散りばめたのが清塚さんのオリジナリティということですね。

清塚:音楽って便宜上ジャンルでカテゴライズされていますが、ジャズもクラシックに影響されているところがあったり、その逆もあったりするわけじゃないですか。ビル・エヴァンスもそうですが、どちらにも共通する魅力があると思うんです。全く共通しない魅力というのもあって面白いのですが、共通する方の魅力を取り出して、それを自分の音楽に入れていくのが僕自身は本当に楽しくて。このアルバムにもそういう要素はたくさん入っていますね。

ーーちなみにコロナ禍で聴く音楽が変わったりしましたか?

清塚:特に大きな変化はないですし、相変わらずテクノやエレクトロミュージックが大好きでよく聴いているのですが、それに加えて最近ハマっているのが「ローファイ」と呼ばれる音楽です。今回のレコーディング中、エンジニアの岡田勉さんと話していたのは「音がクリアであることが、美しさではない」ということでした。例えばアコースティックピアノを演奏すれば、打鍵の音や、フットペダルを踏んだときの音など、いわゆる「ノイズ」も込みで私たちは聴いているわけですよね。レコーディングにしても、最高級のマイクを使ってASMRのような超クリアなサウンドを録ることだけが「美しさ」ではない。ローファイならではの美しさに気づいたことは、今作のレコーディングにも大きな影響を及ぼしましたね。

ーー人はなぜ、そういうローファイでノイジーなサウンドに惹かれるのでしょうか。

清塚:なぜでしょうね。例えばレコードに針を落としたときのノイズとか、なぜか落ち着く。しかもレコードに対してノスタルジックな気持ちなど全くないはずの、若い人たちがその音を聴いても同じような気持ちになるのが不思議です。ディストーションサウンドなども、なぜ人の心を癒すのかはよく分からない。もしかしたら、ローファイでノイジーなサウンドを聴くと、まだ母親のお腹の中にいた頃の胎内音のことを思い出すのかなあ、なんて思ったりもしましたね。

ーー考えてみれば、スタジオの中の「完全な無音空間」など自然界には存在しないですもんね。

清塚:そうなんですよ。クリアな画像とか、雑音が全くない世界とかの方が、人間にとってはストレスになるのかもしれないですよね。

ハラミちゃん、よみぃら若手ピアニストとの交流

ーーとても興味深い話です。ところで清塚さんは、ハラミちゃんやよみぃなど若手ピアニストとも番組で共演していますが、そもそもはどんなきっかけだったのですか?

清塚:コロナ禍でYouTubeのコンテンツがすごく注目されるようになり、その中にはストリートピアノがかなり流行って、それを弾くピアニストも注目されるようになりました。思うに、ピアノコンクールを勝ち抜いて一流のピアニストになれる人なんてごく僅かで、そういう人しかピアニストとして認められない世界は、野球でいえば「全員が大谷翔平になれ」と言われているようなものなんですよ(笑)。圧倒的な才能と不断の努力があった上に、運が良くなければそこにはいけない。でも、優れたピアニスト、魅力的なピアニストって、そこで勝負している人たちだけでは決してないと思うんですよね。

ーーなるほど、たしかにそうですね。

清塚:「音楽で感動する」と一言で言ってもいろんなパターンがあります。全くの素人が弾いたピアノに泣かされることだってある。そういうところにもスポットが当たらない世界なんて、つまらないなとずっと思っていたんです。YouTubeから出てきたピアニストたちは、みんながみんなコンクールで優勝になれるとは限らないけど、「だからなんだ?」とぼくは思うし、そういう流れがここ最近はできてきている。それって音楽シーン全体にとってもすごくプラスになるはずなんですよ。何より、若い子たちが野心を持って頑張っている姿を見ると、自然と応援したくなる(笑)。ぼく自身も今後、より素晴らしいピアノを聴きたいからこそ彼らにチャンスをあげたいんです。

ーー彼らのためでもあり、清塚さん自身のためでもあるのですね。

清塚:そうです。ぼくはもうすぐ40歳になりますが、正直言って今は下の世代から教えてもらうことの方が多い。知識や技術に関しては先人の知恵を拝借してきたのですが、それは時間と労力で賄えることでもあるんです。でも、「トレンドを感じる」というのは本当に難しい。「感じる」だけではダメで、ちゃんと咀嚼して「自分だったらどうアウトプットするのか?」まで考えなければならないわけですから。もちろん、新しいこと全てが正しいわけでもないし「いや、それは僕らの世代では『よし』とされてなかったことなんだけどなあ」と思うこともあります。けど、その感覚の違いがすごく面白かったりして。そういう意味でも、若い世代から学ぶというか、伝えてもらうことはすごく多いです。

ーー清塚さんは、それこそ松本人志さんのような大先輩から、自分よりもうんと年下の後輩まで常に愛されているように感じるのですが、それはどこに秘訣があるのでしょうか。

清塚:えー、なんだろう(笑)。やっぱり、赤ちゃんからお年寄りまで全てに対して敬意を持つことが大事なのではないでしょうか。僕自身、どんなに歳が下であろうが初対面では必ず敬語を使うようにしているし、その人が経験してきたこと、習得してきた技術を無条件で尊敬することが大事だと思っています。まずはその人のことを尊敬し、好きになってみるところから始める。マイナスから入ると、相手のいいところを見逃してしまいますから。

ーー貴重なアドバイスありがとうございます。では最後に、9月3日の福岡サンパレス ホテル&ホールを皮切りに行われるコンサートツアー2021『Beautiful Time』への意気込みをお聞かせください。

清塚:このライブはマイクを通さない、アコースティックピアノの生の音を聴く絶好の機会ですし、配信ライブやオンラインでのコミュニケーションが中心となっている今聴くと、ハッとすることが多いのではないかと思います。「やっぱり、生の音って良いな」と思ってもらえたら嬉しいです。アフターコロナ/withコロナなどといわれていますが、実際にコロナとどう付き合っていくべきなのか。今は大規模なエンターテインメントからダメージを受けているわけで、私のようにスタンディングもなければ声かけもない、スタッフも最小限で動けるチームがコンサートホールでの有観客をやってみて、そこで得たノウハウをシェアすることができたらいいなと思っています。

『眠るためのピアノアルバム~beautiful sleep~』(限定盤)

■リリース情報 
清塚信也『眠るためのピアノアルバム~beautiful sleep~』 
2021年9月1日(水)リリース 
限定盤:CD+DVD UCCY-9039 ¥3,850(税込) 
通常盤:CD UCCY-1112 ¥2,750(税込) 
https://lnk.to/SKiyozuka_sleepPR 

収録曲: 
【CD】※通常盤、限定盤共に収録 
Into a DREAM〜夢の中へ〜(R. シューマン / 清塚信也)
Beautiful Sleep(清塚信也)
パッヘルベルのカノン〜beautiful sleep ver.〜(J. パッヘルベル / 清塚信也編)
たゆたう燈(清塚信也)*TBSラジオ「清塚信也Xタイムラジオ」テーマ曲
つながる心(清塚信也)*NHK 土曜ドラマ「路~台湾エクスプレス~」主題歌
Baby, God Bless You〜beautiful sleep ver.〜(清塚信也)*TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」メインテーマ) 
ふれあうだけで ~Always with you~(飛内将大)
mondayby smile(清塚信也)*毎日放送「+music」テーマ曲 
清塚信也(ピアノ、作曲、編曲)
録音:2021年7月5日 サウンド・シティ世田谷 

【DVD】※限定盤のみ収録 
2020年12月27日にオーチャードホールにて行われた『47都道府県ツアー2020「名曲宅配便」~ピアノが奏でる特別な時間~』昼公演の映像を収録。 

■購入者特典情報 
封入特典:直筆サイン入りポスター(B2サイズ)プレゼント応募券(限定盤・通常盤初回プレスにのみ封入)
Amazonオリジナル特典:メガジャケ(限定盤・通常盤別デザイン)
タワーレコードオリジナル特典:クリアファイル(A5サイズ)
一般店オリジナル特典:ポストカード(A)
UNIVERSAL MUSIC STOREオリジナル特典:ポストカード(A)(直筆サイン入り)
公演会場限定購入者特典:ポストカード(B)
※各特典は数量に限りがございます。また、特典の付与がないお店もございます。 
※公演会場によっては物販がない場合もございます。 

■清塚信也 コンサートツアー2021「Beautiful Time」ツアースケジュール 

9月3日(金)福岡サンパレス ホテル&ホール (開場17:30、開演18:30) 
9月5日(日)函館市民会館 大ホール (開場12:30、開演13:30) 
9月11日(土)広島国際会議場 フェニックスホール (開場12:30、開演13:30) 
9月20日(月)サントリーホール (開場12:30、開演13:30) 
9月23日(祝)石川 本多の森ホール (開場12:30、開演13:30) 
9月24日(金)新潟市民芸術文化会館・コンサートホール (開場17:30、開演18:30) 
10月1日(金)東京エレクトロンホール宮城 (開場17:30、開演18:30) 
10月3日(日)愛知県芸術劇場 コンサートホール (開場12:30、開演13:30) 
10月9日(土)ザ・シンフォニーホール (開場12:30、開演13:30) 
10月15日(金)長野市芸術館 メインホール (開場17:30、開演18:30) 
10月17日(日)サンポートホール高松 大ホール (開場12:30、開演13:30) 
10月23日(土)旭川市民文化会館 大ホール (開場12:30、開演13:30) 

■清塚信也 リンク情報 
公式HP: https://tristone.co.jp/kiyozuka/ 
ユニバーサルミュージック:https://www.universal-music.co.jp/kiyozuka-shinya/ 
Twitter: https://twitter.com/shinyakiyozuka 
Instagram: https://www.instagram.com/shinya_kiyozuka/ 
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC9XtjurSt-vW3MFhxNEzYsA/featured

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