『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』特集インタビュー
劇場版『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』前代未聞の5.1chサウンド実現に至る道 都田和志×飯田里樹、音響スタッフ対談
次世代ガールズバンドプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』が、劇場版『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』を全国の劇場で公開した。
Poppin'Partyを筆頭に、Roselia、RAISE A SUILEN、Morfonicaというアニメ/ゲームから誕生したガールズバンドが、ライブハウスやアリーナ、ドームなどで様々なステージを実現してきた同プロジェクト。本作は、これまで行われてきたライブ音源を5.1chでミックス、ライブ会場さながらの熱量と共に『バンドリ!』ヒストリーを体感できる作品に仕上がった。
リアルサウンドでは、劇場版『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』のサウンドプロダクトを担ったライブサウンドプロデューサー・サラウンドミックスエンジニアの都田和志氏と音響監督の飯田里樹氏にインタビュー。1年以上にのぼるミックス作業の末に出来上がった大迫力の5.1chライブ音源制作秘話をはじめ、日々のライブ公演における音響面へのこだわり、同プロジェクトの根幹を担う両者に『バンドリ!』の魅力を存分に語ってもらった。(編集部)
劇場版『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』特集
専門スタッフの試行錯誤で生まれた大迫力の5.1chサウンド
ーーまずは『BanG Dream!』プロジェクト(以下、『バンドリ!』)においておふたりが普段どのような制作に携わっているのか、また今回『BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage』の制作で担当した役割について、読者の方々に向けて詳しく教えてください。
飯田里樹(以下、飯田):私はアニメーション作品としての音響監督を担当しています。映像に合わせて役者さんに「こういう演技をお願いします」とディレクションしたり、このシーンにはこういうBGMや効果音をつけようと判断したり、ドラマに沿って音響の設計をする仕事です。今回は全編ライブシーンなのでBGMはほんの少ししか使用していません。バンド演奏曲については脚本の段階でセットリストが決まっていて、すでに音楽に合わせて映像が作られているので、指定された音源をそのシーンに合わせて、ライブ会場っぽい音質に整えたりしています。また、観客の歓声をどのタイミングで入れるかなど、アニメーションのストーリーに合わせて必要な音響のプランを練るという感じですね。
都田和志(以下、都田):僕は『バンドリ!』プロジェクトのライブにおいて、ライブサウンドプロデューサーという形で関わっています。『バンドリ!』のライブはライブ会場に加えてライブビューイングなどの中継があるんですが、それが映画館用だったり配信だったりとその時々によって違うんですね。そうすると少しずつ設定も変えていかなくちゃいけなくて、その辺りの音響チームだけで毎回30人以上いるので、PA卓の横で全部の音を、イヤモニを付けたり外したりして聴きながら一つずつ指示を出していて、ライブの音の演出を全部受け持っている形ですね。
今回の劇場版「BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage」に関しては新しい試みに挑戦していて、それは『バンドリ!』音楽統括プロデューサーの吉村(秀至)くんの「実際のライブ音源をミックスしたら、余計リアルですよね」という一言から始まっているんです。本来ならCDなどの2ミックスをアニメの監督に渡して、それに歓声だとか効果音を絡めて擬似サラウンド化するところを、今回はライブ音源を楽器ごとに全部バラして切ったり貼ったりして、本当にライブ会場で演者たちがプレイしているように聞こえるのに、観ているものはアニメーションという、そこを一番こだわりました。
飯田:それがこのプロジェクトならではの魅力ですしね。
都田:僕、本業はスタジオのレコーディングエンジニアだったりするので、ライブとスタジオの両方をわかっているからできたのかなと。でも、その発想はなかったので……。
飯田:セットリストも莫大な曲数ですし、かなり気の遠くなるような大変な作業なんです。思い付いてもやりたくないぐらいな(笑)。でも、今回は都田さんがいらっしゃるので、実現できるんじゃなかろうかと、わりと皆さんが悪ノリしてやることになりまして。
都田:しかも、あとになってから「そういえば、リアルバンドじゃないバンドの、(ライブで)やってない曲もいくつか入ってくるので」と聞かされて(苦笑)。ハロハピ(ハロー、ハッピーワールド!)だったりAfterglowだったり、バックバンドとしてRAS(RAISE A SUILEN)が演奏している曲はライブで聴いていたんですけど、気づいたらみんなで演奏する曲(※今作のアンコール用に制作された合同楽曲)まで増えていて、ハードルがどんどん上がっていく、そんな1年間でしたね(笑)。
ーー我々の想像を絶する作業を経て完成したんですね。
都田:そうなんですよ。実際、本気で取り掛かるには時間もお金もかかるので、最初にテスト用として3曲ほどミックスしたものを木谷(高明)さん(バンドリ!プロジェクト製作総指揮)や関係者に試写してもらって。「これ、お金もかかるし日程もかかるんですけど、どうですか?」と提示したら、「これはやるべきですよね!」という声が返ってきて、そこから動き出したんです。
飯田:この作品用に新規に音源を作るんだったらまだしも、ライブで演奏した音源をパートごと、部分ごとにバラして5.1サラウンド化する、しかもリアルバンドが存在しないバンドもいるので、どうやったら実現するんだろうと思ったんですけど、監督が「とてもいいですね。やりましょう!」とすごく乗り気で。もともと前作のフィルムライブ作品(2019年公開の『劇場版 BanG Dream! FILM LIVE』)が、最初2.1chで納品してくださいと言われたんですね。それは、『バンドリ!』は歴史が長い作品なので、最初期の頃の曲が2ミックス音源かボリューム調整していない楽器ごとのパラデータしかないみたいな感じで、5.1ch化できなかったんです。そのため前作は関係者試写会の後に「音の迫力が足りない」というご意見をいただいて、擬似的でもいいから5.1chにしようということになって、2ミックスの楽曲から生成したリバーブをリアスピーカーから出して擬似5.1ch化しました。そのときの反省があったので、今回は「やっぱりライブの映画だし、5.1chで作りたいよね」ということで、ライブ音源を使うという話が出たときは「難しいチャレンジだけど、これはもうやるしかないな」と。
都田:一番はやっぱり、木谷さんが「ほかでやっていないこと」や「『バンドリ!』のためになること」にすごくこだわっているのが大きくて。木谷さんは音のプロではないんですけど、聴感上もそうだけど体感上も「やっぱり聴いて全然違うよね?」というところがはっきり見えたから、「これはもうやるべきですよ!」と。
飯田:やるべきなのは確かですが、実現させるには手間暇かかりますし。
都田:収録しているライブの音はほぼすべて(ほかの楽器の音が)被っているので、ゲートをかけていらない音をカットするという処理じゃなくて、完全に被っているところをクリップで切っていく作業からまず始めました。例えば、キックだったら「ドン」という1音にいろんな音が被っているじゃないですか。ほかの音が被らないように「ド」で切ってしまうと、打ち込みと変わらなくなっちゃうし、ちょっと音の余韻を入れないと空気感がなくなってしまう。当たり前のことだけど、それが本当に難しくて。結局、ほかの音が被る前に切ってフェードをかけていくという、気の遠くなるような作業が増えるわけです。
ーー壮絶な作業ですね……。
都田:少しだけ種明かしになっちゃうんですけど、例えばライブ会場では低音って高音みたいに聴感上遠くまで飛ばない、どちらかというと体感上の音じゃないですか。だから、クオリティを上げるためにウーハーを何発も前っつらに並べて、ローの迫力を作っていく。ドラムのキックだけでも3チャンネル使ってダイナミックレンジを整理して、「ドン」という1つの音を聴かせていく、そのへんの距離感の再現に今回はめちゃくちゃ時間がかかっていて。あと、音響にもドラマがあって、ライブの序盤と終盤を比べると音量レベルに高低差があるんですね。最初のほうの曲はレベルが低くて、後半にドン!と鳴らす。このフィルムライブでもそこを忠実に再現しているつもりで、実は音作りもライブの進行に沿って取り掛かりました。だから、最後のほうになると、こちらはすごく疲れ果てているわけですよ。そこでライブの終盤、実際のライブではできないような演出を目の当たりにすると……リアルなライブでもああいう演出はしたいけど実際には不可能、それがアニメを通して実現されていて、そこにリアルなライブに近づけた音が重なって、初めて自分で感動するんです(笑)。