月ノ美兎、YuNi、宝鐘マリン、星街すいせい……人気VTuberの音楽活動を充実させるクリエイターたちの刺激的な表現
突飛な音楽性を持ち込むことにより、VTuber本人のエッジの効いたキャラクター性をより引き出すという手法といえば、8月12日に公開されたホロライブの宝鐘マリンによるオリジナル曲「Unison」を忘れてはいけないだろう。
宝鐘マリンの活動2周年を祝うようにリリースされた同楽曲は、YUC'eとともに「未来茶レコード」を立ち上げ、KOTONOHOUSE、PSYQUI、Neko Hackerらに注目が集まるきっかけを生みだしたYunomiが作詞・作曲を務めている。
硬質なキックビートから始まり、様々なクラップが細やかに鳴り、宝鐘マリンのボーカルが入り込む。32分や16分の刻みが所々入りこんだトラックメイクの上を、マリンはメロディを滑らかに歌ったり、歌詞の韻の踏み方や符割が細かくなっていることで拍やリズムがズレて聴こえるなど、リズム・メロティ・歌詞のかみ合わせ方がとにかく面白い。
そこからサビに入ると、メインメロディとコーラスワークが束のようになって響かせてくる。ポップソングのように言葉を歌いかけるのではなく、歌声の良さを全面的に押し出して鳴らしているかのようであり、声楽的なテクニックも感じられる。ダンスミュージックの顔をしながら、音響的な鳴り方を意識的にこなしているアクロバティックな1曲に仕上がっており、中庸なポップスでは生みだせない質感ではないだろうか。
同じホロライブのメンバーからは「電子ドラック」「べろべろに酔っぱらったときの脳内」などという感想もあがったようで、『ホロライブ・オルタナティブ』のオリジナルPVや『ラブライブ!スーパースター!!』『Fate/Grand Order』などにも参加した6名のアニメーターらによるMVをみれば、そのエキセントリック&ストレンジなインパクトをよりダイレクトに感じられるだろう。
同じホロライブからは、星街すいせいにも注目すべきだろう。TAKU INOUEのアーティストデビュー曲「3時12分」のシンガーに起用され、6月からデジタルシングルを3カ月連続リリース中。直近では「駆けろ」と2ndシングル「天球、彗星は夜を跨いで」が、カップリングEP『駆けろ/天球、彗星は夜を跨いで』としてデジタルリリースされている。
「いーあるふぁんくらぶ」「ロキ」「少女レイ」といったボカロPとしてのヒット曲を制作し、現在では音楽作家としてAdo「会いたくて」や可不「YONAKI」の制作に携わっているみきとPによる「駆けろ」と、こんにちは谷田さん名義でボカロPとして活動開始し、バンドsajou no hanaやヨルシカをはじめとした様々なアーティストにおいてベーシストとして活動中のシンガーソングライターのキタニタツヤによる「天球、彗星は夜を跨いで」は、焦燥感やダウナーなムードをそれぞれに感じさせるロックサウンドを打ち出した2曲だ。
星街すいせいは1stアルバム『Still Still Stellar』を9月にリリースする予定で、アルバムの表題曲はTAKU INOUEが提供するとのこと。現状では収録曲については未定だが、長きにわたってソロ活動を続けてきた彼女が、自身の魅力をどのように音楽として表現するのか。そのキーとなるのは、やはり作詞作曲編曲に携わるクリエイターにかかっているといえる。
VTuberという新しいフィールドを前にして、今後どのようなクリエイターが加わってくるのか、今後の動向にも注目だ。