月ノ美兎、YuNi、宝鐘マリン、星街すいせい……人気VTuberの音楽活動を充実させるクリエイターたちの刺激的な表現

 月ノ美兎の1stアルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』が8月11日にリリースされた。多くの人気VTuberが所属するにじさんじを追いかけるファンにとって待望の本作は、音楽的に非常にバラエティ豊かな1作になった。

 本作ほどの大がかりな作曲・作詞家の起用はまだまだ珍しいが、トップVTuberの音楽活動にネットフレンドリーな作家陣が多数参加するといった刺激的なアクションが続々と起こっている。

 今回は、月ノ美兎、YuNi、宝鐘マリン、星街すいせいによる作品群を追いかけながら、トップをひた走るVTuberたちと音楽作家陣の繋がり、その一端を紹介できればと思う。

月ノ美兎『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』(通常盤)
月ノ美兎『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』(通常盤)

 2018年からにじさんじで活動を始め、VTuber/バーチャルタレントとして名を馳せる月ノ美兎の魅力は、一筋縄では説明できない。だが約40分弱の音楽旅行『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』には、カオス&ポップな彼女の魅力がこれでもかとパッケージングされている。

 2曲目「それゆけ!学級委員長」は、メジャーデビューシングルに相応しいまさに彼女の自己紹介的な1曲だ。VTuber界の清楚な委員長、その実、突飛なアイデアと配信内容で視聴者の注目をかっさらい、尽きることのないトーク力でその場を笑わせてくれる彼女は、〈ただし見た目と中味の乖離現象はままある〉し、〈わたくしなあに? いったいだあれ? 思春期だもの アイデンティティはめちゃくちゃ〉な存在と言っていいだろう。

 同曲の作詞作曲を手掛けたのは、月ノ美兎が敬愛するササキトモコ。『アイドルマスターシンデレラガールズ』や『ひなビタ♪』関連楽曲などでも知られるクリエイターだ。ブラス隊を基調にしたゴージャスなイントロから、キュートに仕上げた絶妙なポップソングは、少しだけチープな打ち込みサウンド、突飛なコード進行やメロディラインも含ませつつ、斜め上の発想力でVTuberシーンを盛り上げ続けてきたトリックスターとしての月ノ美兎の表情を見事に象っている。

月ノ美兎「それゆけ!学級委員長」MV

 作曲:広川恵一(MONACA)と作詞:只野菜摘による「ウラノミト」は、シティポップ~ディスコライクなサウンドのなかに、ウィスパー気味に発声されたボーカルと絶妙にミックスされたコーラスワークが混ざり合う仕上がりに。月と兎になぞらえた物語で男女のロマンスが描かれている。

月ノ美兎「ウラノミト」MV(1stアルバム「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」収録曲)

 気鋭の音楽家である長谷川白紙が作詞・作曲・編曲を務めた「光る地図」は、長谷川独自のブレイクコア~ジャズを経由したカオスなサウンドを軸として、ワルツのリズムにスウィートなメロディラインを入れ込み、月ノ美兎がもつマッドな感性とアイドルライクな側面を巧みに接続してみせた。

 『東方Project』のアレンジ楽曲で一躍有名となったIOSYSからは、まるでGrandmaster Flashのような80’sデトロイトテクノ~オールディーズ・ヒップホップと2010’sのエレクトロポップ~EDMをミックスしたかのような「みとらじギャラクティカ」が届けられ、ノリノリで韻を踏みながらのフロウとラジオめいたトークパートを行き来していく。

 このほかにも、堀込泰行、TAKUYA(ex.JUDY AND MARY)、いとうせいこう、大槻ケンヂ、NARASAKIなどのクリエイターを揃えた本作は、楽曲ごとにサウンドも違えば、歌い方もそれぞれに異なる。月ノ美兎というバーチャルタレントきってのコミカルな存在を音楽というフォーマットで表現しようとすれば、これだけの多様かつエッジなサウンドスケープが生みだされ、ピッタリとハマってしまうというマジック。カオス&ポップな月ノ美兎を、本作は巧みに表現・演出した充実の1枚だといえよう。

月ノ美兎 1stアルバム「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」クロスフェード

 次に紹介したいのが、バーチャルシンガーのパイオニアとして2018年6月より活動を開始し、2020年にトイズファクトリーからデビューしたYuNiだ。

 6月に発表されたアルバム『eternal journey』には、初音ミク関連のクリエイターやインターネット上で話題を呼んだトラックメイカーらが作家陣として起用されている。

YuNi Major Debut Album 『eternal journey』トレーラー /全曲試聴動画【2021.06.16リリース】

 初音ミクPとして頭角を表し、Reolとの共同活動やAdoの「踊」をTeddyloidとともに作編曲をつとめているGigaをはじめ、八王子P、ゆよゆっぺ、emon(Tes.)、かいりきベア、R Sound Designと世代は違えど初音ミク楽曲でも多数のヒット曲を生み出してきた作曲陣に加え、Future Bassとポップスを接続した独自のサウンドを展開するNorとYUC’eと、ネットミュージックシーンにおいて話題を振りまく作曲家陣がズラっと並ぶ。

YuNi MV 「DAYZ」
YuNi MV 「キライ」

 EDM~Future Bass~ハウスを横断したエレクトロなサウンドには統一性が感じられ、「バーチャル世界の歌姫としてのYuNi」をうまく描いているといえよう。



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