ロス「自主」、変幻自在なボーカルでバイラルチャート首位に 歌い手の在り方を覆す“新たな楽曲の広がり方”

 さて、今回メロディと感情の断片からひとつの楽曲へ孵化した「自主」は、〈はい!私がやりました〉という鮮烈なワンセンテンスで幕を開ける。少しディレイ気味のヘヴィなリズムと独白のようなAメロ。リズムに対してジャストで合わせてから咆哮するようなサビの歌唱。ショパン「ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調」を彷彿させる抒情的なピアノの旋律。いじめに対する報復を綴った歌詞の内容や、ダークな曲調に耳がいきがちだが、実はメロディが非常にキャッチーだ。シンプルな譜割りもあり、一度聴いただけで覚えてしまう大衆性を持っている。そして、変幻自在なボーカルが素晴らしい。ジャンルレスで声音も豊富な上に、ピッチや声量を操るスキルもある。特筆すべきは、ボーカルに対する自由奔放さ。「この音階・このメロディからの流れでそういう声を出すの?」といった驚きの連続だ。トリッキーな手法と言えるかもしれないが、あざとさや計算がまったく感じられないあたり(計算していたら、おそらくあんな歌い方は避ける)に、歌い手としての感性と才能を感じる。吐く息をコントロールするような独特の歌い方、音域の広さ、声量のメリハリ、その歌い方ゆえに出る揺らぎが、真っすぐこちらに向かい、ひたひたと化け物のように迫ってくる。

自主~はい 私がやりました~

 そしてロスは、「歌ってみた」を含む自曲のカバー禁止を公言している。禁止にはロスなりの意味があるはずだ。TikTokなどからヒット曲が出る際、「#歌ってみた」でバズが起こり、そこがヒットの要因に繋がることが多いが、ロスはそこを封印した。それでもSNSを中心に「自主」は拡散し続け、バイラルチャートでは8月2日付デイリーチャートでの初登場18位を皮切りに、ぐんぐんと上昇。8月5日付のチャートでは、デイリー&ウィークリーともに1位となった。これまでなかった拡散のされ方でバイラルチャート1位となったロス。アーティストにとっても、リスナーにとっても、明らかに新しい価値観が出てきたのである。いま音楽シーンで何が起こっているのか、実にそそられる。だからバイラルチャートは面白い。

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