BLACKPINK、日本盤リリースを機に紐解く『THE ALBUM』第2回:どの言語でも巧みに表現される歌詞の独自性

「BLACKPINKが歌う歌詞の魅力」を紐解く

 BLACKPINKが、韓国ガールズグループ歴代1位となるセールスを記録した自身初のフルアルバム『THE ALBUM』の日本バージョン『THE ALBUM -JP Ver.- 』をリリースした。

 本企画では、『THE ALBUM -JP Ver.- 』のリリースに寄せて、収録曲それぞれが持つ特徴やエピソードを改めて解説。日本盤によって新たに発信される魅力を3つのテーマから紐解いていきたい。

 第2回となる本稿では、「BLACKPINKが歌う歌詞の魅力」に注目。英語、韓国語、日本語といった多言語を歌詞に巧みに取り込んだBLACKPINK作品ならではの表現を、新たに書き下ろされた日本語詞にも焦点を当てながら、ライターのDJ泡沫氏、まつもとたくお氏がそれぞれの視点で分析する。(編集部)

合わせて読みたい

第1回:USミュージックの色濃い影響、世界に向けて表明する音楽

英語を中心に制作されているオリジナル歌詞

 8月3日にBLACKPINK初の日本フルアルバム『THE ALBUM -JP Ver.- 』がリリースされた。所属事務所であるYGエンタテインメントのアーティストの日本活動は、そのほとんどがシングルリリースはせず、韓国盤のEPもしくはフルアルバムに収録されている楽曲を日本語バージョンにしてそのまま、あるいは再構築してリリースするという形式が定石だ。BLACKPINKの今作の場合、オリジナルアルバムの収録曲の半分が英語曲だったが、英語詞の曲はそのままに、韓国語詞の部分を日本語詞にした4曲が新録されている。

 韓国語詞の楽曲を日本語詞にする時、最も難しい部分のひとつはラップパートと言えるだろう。ラップ発祥の地アメリカの英語と同様に子音で終わるワードが多く存在する韓国語でのラップを、ほとんどが母音で終わる開音節言語である日本語に移し替えると、どうしてもフロウに齟齬が出やすい。特にラップやヒップホップのイメージが強いYGエンタテインメントでは、元々BLACKPINKの曲の歌詞には同世代のグループと比較しても単語に留まらない英語のフレーズの割合が多いこともあり、以前より韓国語と英語の混ざっているラップパートを日本語バージョンでは英語リリックに置き換えることでスムーズに聴こえるように試みている。

 先行リリースされた「How You Like That -JP Ver.- 」では

백 개 중에 백 내 몫을 원해(100中100個の分け前を求めてる)/Karma come and get some/딱하지만 어쩔 수 없잖아(可哀想だけどどうしようもない)/What’s up? I’m right back/방아쇠를(引き金を)cock back

のパートが

You can get it back when I don't want it/Karma come and get some/I got too much, too much is just enough/What's up? I'm right back/You need no right back

と内容も含めてうまく置き換えられている。YGエンタテインメントの楽曲、特にBLACKPINKの楽曲に多く参加しているアメリカのシンガーソングライターのベク・ボーンによると、「BLACKPINKの曲は通常英語詞で完成した後に韓国語の訳詞をつけているので、例えばセレーナ・ゴメスのようなアメリカのアーティストをフィーチャーし、よりアメリカ市場を意識した作品に仕上げようとする時でも、韓国語から英語への翻訳作業を特別に必要としない」(※1)とのことで、つまり日本語バージョンでは“元々のオリジナルのリリック”が聴けるということかもしれない。BLACKPINKのプロデュースを行なっているTEDDY自身が韓国系アメリカ人で英語のネイティブであり、メンバーのほとんどが英語話者であるBLACKPINKだからこそ、英語中心の曲も韓国語詞の楽曲と同様にYG社内の作曲家がかなりの深度で制作できるのは大きな強みだと言えるだろう。

BLACKPINK - 「How you like that -JP Ver.-」 MV

 今作品で最も印象的だと思うのは、やはりアルバムリリース時のタイトル曲だった「Lovesick Girls -JP Ver.- 」だろう。デビュー時からヒップホップ×EDMが音楽的な柱という印象が強かったが、今作ではロック的なフィーリングも感じ今までとは違う音楽的側面を見せようという意識が窺える。YGエンタテインメントといえばヒップホップのイメージがあるが、韓国では特有のロック的なフィーリングがあるとも言われる。確かに先輩グループの楽曲を見てもG-DRAGON「CROOKED(ピタカゲ)」、iKON「APOLOGY」、WINNER「AH YEAH」等、その時のトレンドや欧米ポップスの文脈とはあまり関連のないロックポップス的なヒットを生み出してきた歴史があり、「Lovesick Girls」もその系譜を感じさせる部分がある。

 また、歌詞の世界観でもBLACKPINKは“強気で自信に満ちた女性像=BLACKな部分”と“愛を求めて傷つくナイーブな女性像=PINKな部分”を併せ持ち、その配分を楽曲やアルバムによって微妙に変えていくという、いわゆる定型の“ガールクラッシュ”と少し異なるイメージを見せてきた。この両面性は女性ファンを惹きつける強烈なカリスマ性を生み出すと同時に、シスジェンダー的な価値観を好む層も振り落とさないという絶妙な部分ではあるが、一方でそこに表現できる女性像の限界もあるという意見も見られたように思う。今までは歌詞の中に「恋愛の相手像」のようなものがうっすらと透けていたが、「Lovesick Girls」の歌詞で描かれるのは愛に傷つくことがわかっていても“この痛みだけが幸せ(この痛みがなければ自分には意味がない)”“あなたの思う通りに私の恋を終わらせられない”という、恋愛依存症的なキャラクターが描写されているようだ。元々“LOVE&HATE”の表現はYGエンタテインメントの楽曲では頻出するテーマではあるが、ここまで苛烈な描写は、音楽シーンのトレンド的には異色だろう。

BLACKPINK - 「Lovesick Girls - JP Ver.-」 MV

 また、同楽曲にはメンバーのJENNIEが作詞作曲、JISOOが作詞に参加したのも新しい試みだ。JENNIEが自ら書いたというラップパート

Didn't wanna be a princess, I'm priceless A prince not even on my list Love is a drug that I quit No doctor could help when I'm lovesick

というパンチラインや、

恋愛は私がやめたドラッグ/恋の病を患っている時どんな医者も助けにならない

とラップする姿には、過去の楽曲では見られなかった種類の“リアル”を感じる。

 活動5年目にしてリリースされたグループ初のアルバムとして、1曲1曲の密度は申し分ない。「Ice Cream(Feat. Selena Gomez)」のように制作陣も含めかなり欧米ポップスに近いつくりの楽曲を入れるなど、海外市場を意識しているような面もあるが、アルバムの看板とも言えるタイトル曲は今の欧米ポップスのトレンドに沿ったジャンルというだけではなく、「洋楽っぽい」と言われる印象とは裏腹に、昨今の欧米のヒットチャートでよく聴かれるようなポップソングと構成や展開はかなり異なっている。英語で歌っても“欧米のポップス”にそのままは迎合しないという、矜持のようなものを感じるアルバムだ。(DJ泡沫)

※1:Bekuh BOOMによる歌詞の解説
https://genius.com/Blackpink-and-selena-gomez-ice-cream-lyrics

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる