『愛のシュプリーム!』インタビュー
fhánaと『小林さんちのメイドラゴン』を結びつける関係とは? 主題歌「愛のシュプリーム!」に注がれた4人の感情
先が見えないからこそ「動くことをやめない」
ーーfhánaの楽曲は、盛り上がりのトップであるtowanaさんのファルセットがてっぺんにある構成が多いのですが、今回は曲を構成するそれぞれの部分がサビ級にキャッチーで、サビが逆に控えめなのが面白かったです。
佐藤:Aメロがラップでサビが歌という構成の曲は、トップスピードで走るのではなく、美メロでシンガロングできるものがベストだと思ったので。そういう意味では普段の曲の作り方とちょっと違うかもしれません。普段だったらピアノでメロディを考えていくわけですけど、そこから外れたのは新鮮でした。リファレンスでいえば、Dメロの〈さあ歌おう! 讃美歌を〜〉からEメロのところは、ゴスペル感があるコーラスのあとにラップがくる部分も含め、マイケル・ジャクソンの「Black or White」のDメロ〜Eメロに近いです。ゴスペル感に関しては、fhánaの楽曲や、僕が作家仕事で書いた提供曲のフィードバックも大きいですね。
ーー昨年だと「僕を見つけて」や「再生讃美曲」(『少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』主題歌)あたりですかね。ちなみに「愛のシュプリーム!」というタイトルはtowanaさんがつけたとか。
佐藤:林くんの付けた仮タイトルが「Love Supreme」だったんですよ。それで、頭に「A」を付けるべきか、付けないで行くか……と林くんと僕とで悩んでいたところ、スタジオでプリプロをしているときに、ロビーでtowanaさんが歌詞とその仮タイトルを見ながら「『愛のシュプリーム!』がいいと思います」と。
towana:とにかくキャッチーにしたかったんです。「愛のシュプリーム!」は「!」が入っていますが、文法的にはよくわからない感じも含めて面白いかなと思いました。あとは『小林さんちのメイドラゴンS』の「S」とシュプリームの「S」をかけていたり。私が提案したところでいうと、今回は衣装もポイントで。「青空のラプソディ」が青い衣装だったので、そことの対比や「愛」というテーマを踏まえて、暖色系で可愛らしい感じのペールトーンの色がいいなと思い、この衣装になりました。
ーー「A Love Supreme」は、ジョン・コルトレーンですか?
佐藤:そうですね。歌詞にも「A Love Supreme」の邦題である、「至上の愛」が出てきてますし。
ーー曲のリファレンスにコルトレーンがあったわけではない?
佐藤:ブラックミュージックに対するリスペクトと、愛がテーマなのでそこに行き着いた、ということだと思います。あとは「祈り」についてのことを林くんとやりとりしていて、その派生でもありますね。曲のテーマは最初から「愛」なんですが、それってすごく普遍的なものじゃないですか。だからこそ、僕個人としては照れくさいところもあって、あまり正面から提示することはなかったんですが、2019年に「僕を見つけて」を作って、その後の『where you are Tour』をやっている時くらいから、「愛」という言葉に恋愛だけではない、もっと大きなものを感じるようになってきて。大人になって色々な死や喪失に向き合ったからこそ、愛や祈りの力を実感できましたし、人対人ではなく、創作に対する愛のようなものに理解も深まってきた今だからこそ、描けるものはあるのかなと。
ーーそれこそ〈愛こそがすべて〉と言い切れるくらいになって。「愛」って恋愛感情に結びつけられがちですが、英語圏の感覚や宗教的な考え方に近い「愛」の感覚って「慈しむ」という意味合いが強いですよね。そしてそれは「祈る」こととの繋がりもある。
佐藤:祈って届くかどうかわからないけど、それでも祈ることは大事なんだなと。今は新型コロナウイルスの影響もあって、世界的にそういうムードが漂っているようにも感じますし。
ーー祈るしかない、といえば諦念の感情が強すぎるかもしれませんが。
佐藤:遡ってみれば、1stアルバム『Outside of Melancholy』の「white light」はクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』から影響を受けているんですが、あの映画も「愛」と「祈り」の作品だったんだなと思いますし。
ーーこの国に住んでいるとなかなか実感しづらいですが、他国の方たちの文化に触れて、祈ることの生活への浸透度の違いや、それがどれだけ重要な価値観なのかに驚いたことがあるのでよくわかります。
佐藤:話は少し逸れますが、スポーツのチームプレーにおいて、日本だとミスをしたら周りのメンバーに謝る人が多いんですが、海外の一神教圏の選手は、チームメイトに謝らずに自分の中で神と対話するんだそうです。その対比は面白いなと思いました。価値判断の基準が周りじゃなく自分の中の神にあるからこそ、自分が強くあれるのかもなと思ったり。
ーーこの話は終わりがなさそうなのでまたの機会にするとして(笑)、他の楽曲についても聞かせてください。「閃光のあとに」は、yuxukiさんがこれまで作ってきた曲の中でもかなりシンプルな部類。ギターの音の配置もyuxukiさん楽曲にしては珍しく奥のほうにいて、シンセベースや鍵盤が前にあるのにも驚きました。
yuxuki:佐藤さんと話し合うなかで、配信リリースした「Pathos」「Ethos」のムードを踏まえた曲、シンセが効いていてダンサブルな曲が欲しいというリクエストや、最近聴いているR&Bを土台とした洋楽に近いフィーリングで作った結果こうなりました。自分の曲だとフルでシンセベースを使うのは初めてなので、そこも新鮮に聴こえるのかもしれません。
ーー最近自宅のスタジオの環境をリニューアルされたようですが、そのあたりの影響もありますか?
yuxuki:たしかに。いままでなかったシンセも導入して使ってみたり、ギターも全部宅録で自分でエディットして組んだり、左右同じようなフレーズをわざわざ録り直して、配置も全部自分で切り貼りしたことが大きいのかもしれません。
佐藤:あと、ライブで僕が使っているNord Lead(=シンセサイザー)を弾く曲が「Relief」と「Code "Genius" ?」しかないから、(他にも)弾ける曲が欲しいというリクエストも出しました。
yuxuki:なぜか自分で作らずに俺に頼むという(笑)。
ーーあとは、シンプルなのでより歌が引き立つ構成になっているし、そこにtowanaさんの歌が乗ることの必然性もある曲だなとも思いました。
towana:いつも佐藤さんの曲を歌うことが多いわけですが、佐藤さんの曲は大変なので(笑)。その逆で、wagaさんの曲は歌いやすいからレコーディングもいつも早いし、うまく歌えたかなと思います。
yuxuki:ちょっと力抜いて歌ってくれてるのが、いい味になってますよね。
ーーそして3曲目は「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)」。これは『小林さんちのメイドラゴンS』のキャラソンをfhánaバージョンで今回歌ったということで。
佐藤:キャストを務める声優さんたちのユニット「スーパーちょろゴンず」が今回、fhánaの「青空のラプソディ」と「愛のシュプリーム!」をカバーしてくれていて。だったらこちらからもカバーしていいかなと思い、セルフカバーすることになりました。
ーー歌詞は今回towanaさんとkevinさんが担当。佐藤さんが以前に手がけた「イシュカン・コミュニケーション」と共通する価値観を含んだ曲のように感じましたが、そのあたりはどのようにディレクションを?
佐藤:キャラソンの方を林くんが書いていて、fhánaバージョンはtowanaとkevinの2人にお願いしたんです。前者は作品に共通するドラゴンと人間とのコミュニケーションの壁について書いてもらっていて、towanaとkevinには同じ人間同士でもなかなか分かり合えない壁にみたいなものついて書いてもらいました。
kevin:そういう前置きで、僕がラップ、towanaさんが歌部分の歌詞を書いています。
佐藤:「Unplugged」を作った時も同じスタイルなんですが、その時はkevinの書いたラップを踏まえてtowanaが歌メロを書いたんです。でも、今回は完全に同時進行で別々に書いてもらって最後に合体させました。
towana:とはいえ、kevinくんから途中経過のようなものはもらっていたりしたんですが、すごく内容に沿ったものなので、私はもう少し自由に書いてみてもいいのかなと思って歌詞に取り掛かりました。
佐藤:towanaについては基本的には上がってきたものをすべて受け入れるつもりで頼んでいるので。towanaっぽい儚げで切ない言葉がサビに乗ってくれば、細かいことは言わないでおこうと決めていました。kevinのラップに関しては、「先生どうですか?」と進捗確認して、上がってきたらそれに対してフィードバックしてという、漫画編集者のような気持ちでやっていました。林くんとの作業もそういう感じですが、kevinとはより細かく。終盤は夜中までやり取りをしていて、歌詞が上がってきて、それをチェックしてフィードバックするまでにkevinが寝ちゃうといけないから、LINEで通話を繋ぎっぱなしにして会話しながら書いて、戻してを繰り返していました。『アオイホノオ』みたいだなと(笑)。
ーー普通ならこのあとライブや今後の話をするのですが、先行きが見えない世の中は続きますね(※1)。
佐藤:2019年から予定通りにいかないことばかりですね。本来なら『小林さんちのメイドラゴンS』ももっと早く放送されて、この曲も世にすでに出ていたし、アルバムも1枚くらいリリースされていたんだろうなと思います。先が見えないからこそ、その時々の状況に合わせてフレキシブルに動けるのがいいのかなと。その中で1番大事だなと思うのは「動くことをやめないこと」です。活動をやめてしまうと、そこからもう1回再開するのってめちゃめちゃ大変じゃないですか。動き出す時って1番エネルギーが要るので。飛行機が飛んでいるとして、低空飛行になっても飛び続けてればちょっとの力で前に進めますし、良い風がどこかのタイミングで吹けばそれに乗って上がることもできるけど。地上に着陸して動きを止めてしまったら、そこからもう1回飛び立つのはかなりキツい。だから、低空飛行気味になっても飛び続けようと決めています。
※1:同インタビュー後、ワンマンライブツアー『"fhána Love Supreme! Tour 2021 TOKYO - OSAKA”(Presented by ORB)』の開催が発表
■リリース情報
fhána
ニューシングル『愛のシュプリーム!』
7月14日(水)CDリリース
TVアニメ『小林さんちのメイドラゴンS』OP 主題歌
【アーティスト盤】
LACM-24134 / 1,320円(税込)
1. 愛のシュプリーム!
作詞:林 英樹 作曲・編曲:佐藤純一
2. 閃光のあとに
作詞:林 英樹 作曲・編曲:yuxuki waga
3. 愛のシュプリーム!-instrumental-
4. 閃光のあとに -instrumental-
【アニメ盤】
LACM-24135 / 1,320円(税込)
1. 愛のシュプリーム!
作詞:林 英樹 作曲・編曲:佐藤純一
2. GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)
作詞:towana, kevin mitsunaga 作曲・編曲:佐藤純一
3. 愛のシュプリーム!-instrumental-
4. GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.) -instrumental-
■ツアー情報
fhána Love Supreme! Tour 2021 TOKYO – OSAKA
Presented by ORB
主催:株式会社ORB
9月12日(日) Billboard Live TOKYO
9月17日(金) Billboard Live OSAKA
詳細は各種公式サイトをご覧ください。
fhána オフィシャルサイト
fhána_info(@fhana_info)
fhána Official Channel