オリヴィア・ロドリゴ、『ハイスクール・ミュージカル』での名演が成功のカギに アーティスト活動との共通点&ギャップに迫る

オリヴィア・ロドリゴ『HSMTM』名演がカギに

 とはいえ、現時点で最も印象的な楽曲は、オリヴィア自身が作詞作曲を手掛けた新曲「The Rose Song」だろう。これはシーズン2のエピソード6において、かの有名な『美女と野獣』の上演に向け、作中に登場する「魔法のバラ」を擬人化した役柄を与えられたニニが、そのバラと野獣役を演じるリッキーとのデュエット曲として書き下ろそうとしたという背景を持つ楽曲である。劇中では、リッキーとの関係性の悪化によって楽曲制作に悩む姿が描かれており、結果としてニニはバラの視点のみを歌った楽曲へと仕上げ、作家としての苦悩を乗り越えた。

 そうした設定を踏まえて生まれたピアノバラードである「The Rose Song」は、ドラマの劇中歌として、また物語のピークを演出する楽曲として、やはり普遍性を兼ね備えたポップソングとなっている。オリヴィアは野獣によってガラス瓶に収められた魔法のバラに、ニニの現状の姿を重ねながら、“有害な関係性を終わらせ、自らを閉じ込める存在を打ち破ること”をテーマとした楽曲を作り上げたのだ。「あなたの愛が 歪んだものとも知らず あなたにとって 私はただの花?」と痛烈に相手を批判し、誤った愛情を向けてくる相手を徹底的に否定しながら、「内なる美しさを見せるわ」と自己のみを肯定する。自分自身を縛り付け、視線を向けられるだけの対象へと貶めてしまうガラス瓶を破壊するのだ。あくまで『美女と野獣』の物語の設定を守りながら、それでいてニニの感情を鋭く表現した上で物語の枠自体を超えたメッセージソングとして機能させるという、演者としても作家としても完璧な仕事を成し遂げているのである。

Olivia Rodrigo - The Rose Song (HSMTMTS | Disney+)

 オリヴィアは後のインタビューにおいて、本楽曲を「魔法のバラの視点からフェミニストの楽曲を書く」というインスピレーションを元に書き下ろしたことを明らかにしながら、今回の仕事について「キャラクターのために書くのは本当に楽しいし、クリエイティブな挑戦だと思う。私はいつも自分にとっての個人的な経験と、ショウを手掛ける作家としての意見を融合しようとしている」と語っており(※1)、一人のプロの作家としてソングライティングと向き合っていることが分かる。『HSMTM』におけるオリヴィアの取り組みは彼女のプロとしての側面が、単独での楽曲とはまた異なる形で凝縮された作品でもあると言えるだろう。

 また、『HSMTM』やその楽曲を踏まえた上で、『SOUR』に収録されたオリヴィアのアーティスト活動としての楽曲に触れると、改めてその表現の振り幅と完成度の高さに驚かされる。特に、元恋人への怒りをポップパンクのサウンドに乗せて勢い良く歌い上げ、MVでは相手の家にガソリンを撒いて火を放つという強烈なインパクトを誇る「good 4 u」での姿は、『HSMTM』での役柄や楽曲で演じる姿とは明確に異なるものだ。だが、実際はどちらの作品も同じタイミングでヒットを記録して多くの支持を集めており、今のオリヴィアは2つの姿が同時に受け入れられている状態にあると言える。このように、作品や形式に応じてひとつの感情を純粋かつ的確に抽出しながら演じ分ける才能があるからこそ、オリヴィアはポップアーティストとして異例の成功を収めたのではないだろうか。

※1:https://people.com/music/olivia-rodrigo-tries-to-integrate-personal-experiences-to-hsmtmts/

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
note:https://note.com/nmura
Twitter : @neu_mura

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■作品情報
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