女王蜂のライブはあらゆる境界線を越えていくーーノンストップのエンターテインメント『夜天下無双』を観て

女王蜂『夜天下無双』を観て

 女王蜂のメンバーは、年齢・性別・国籍を公表していない。そんな4人による音楽は、曲と曲の境、ト音記号とヘ音記号の境、ライブと演劇の境……あらゆる境界線を軽やかかつ華麗に越えていく。だから女王蜂のライブは女王蜂のライブ以外の何物でもなく、“〇〇なライブだった”というふうに形容しがたいのだ。私が私であるということは、私以外は私ではないということであり、それはつまり孤独だということ。私は私を死ぬまでやめられないという現実、その孤独を引き受ける覚悟が、女王蜂という芸術を美しいものにさせているのではないだろうか。頭の天辺から足の爪先まで、私であることを全うしようとする人の気高さに、私たちは魅せられているのではないだろうか。

 上空で一番星が輝くなか、〈かなしいこの夢をずっとずっとずっと抱き締めるの〉〈やさしいその腕をきっといつの日にか振りほどいても〉と歌うのは「CRY」。そして本編を締め括ったのは、ツアータイトルにもなっている「夜天」だった。イントロが鳴るとフロアから自然と手拍子が起こる。ここまでの18曲の中でもとりわけポップな曲だけに、満を持して演奏された瞬間の幸福感は凄まじい。「夜天」(の別バージョン)で始まり「夜天」で終わるセットリストは、この瞬間に向かうためのものだったのかと噛み締めた。

〈ひたむきな美しさは切なさや儚さを越えて/呆れるほどに高く深く さあ、どこへだってゆける〉
〈思い詰めてしまった夜の果てわたしたちは出逢い/持ち寄る孤独は灯火のように、胸に宿る〉

 今このフロアにいる人々は、それぞれに違う人生を歩み、それぞれに違う1日を過ごした先で、たまたま同じ時間・同じ場所に集まった人々だ。見た目はバラバラ、年齢もバラバラ、職業も年収も何もかもバラバラ。それでもここに来れば、同じものを観て、別々に泣いたり笑ったりする。一体感とは違う、個が、個として存在できる。「生きている!」という心地がする。虹色の照明に目を細めながら思った。そうだ、私の好きなライブハウスってこういう空間だったと。ラララと歌うアヴちゃんのファルセットは、鐘の音のように美しかった。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

■配信情報
全国ツアー2021『夜天下無双』配信視聴チケット詳細
日時:7月2日(金) 18:00開場/19:00開演
料金:3500円(税込)
チケット販売期間:6月19日(土)19:30~7月5日(月)18:00
見逃し配信:公演終了後見逃し配信公開から 7月5日(月)23:59まで
◆チケット購入先
https://stagecrowd.live/4041929973/
(映像配信サービス「Stagecrowd(ステージクラウド)」)
https://eplus.jp/ziyoouvachi-sc/
(イープラス)

女王蜂公式サイト

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