「Heart to Heart」インタビュー
EXILE ATSUSHI、40代になって見つめ直した“歌を届ける意味” 勇退からソロへの転換期となった1年を振り返る
EXILE ATSUSHIは、40代を迎えた自身の活動について「終活の始まりかもしれないですね」と笑う。2020年11月にEXILEのグループとしての活動を勇退したATSUSHIは、2021年7月にデジタルシングル「Heart to Heart」をリリースし、全国ツアー『EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2021 "Heart to Heart"』をスタートさせる。今回はそうしたソロでの音楽活動に加えて、ATSUSHIのライフワークとも言える児童養護施設の訪問についても伺い、なぜATSUSHIはあえて自分を知らない人々の前に出ていこうとするのかを聞いた。そこには音楽活動にも社会貢献活動にも共通する、「まなざし」を求めるATSUSHIの姿勢があった。(宗像明将)
TAKAHIROとのデュエット「嬉しかった」
ーー昨年末にEXILE HIROさんにインタビューさせていただいたとき、「やっとATSUSHIが肩の荷を下ろせるタイミングが来た」と語られていましたし、ATSUSHIさんの著書『サイン』にも「我慢」という言葉が綴られていましたね。ソロになって7カ月経った今、どんな心境でしょうか?
EXILE ATSUSHI(以下、ATSUSHI):もちろん肩の荷は下りたのかもしれないですけど、新型コロナウイルスの影響でLDHも興行ができない大変な状況も含め、手放しで開放的になった感じではないかもしれないです。でも、やっぱりEXILEとソロのバランスを勝手に自分で取ってしまっていたんだな、というのは今になるとすごく感じますね。EXILEの楽曲にもかなり携わって書いていたので、「これはEXILEっぽいからやめておこう」とか、EXILEとのバランスを考えながら曲を選んだりしていて。自分の表現したいこと・感じたことをそのまま形にして、世に届けることを実は今までしていなかったんだなと思います。そういう意味では20年経って、表現者としてやっとスタートラインに立てたかな、と。ーー振り返ると、2020年12月のEXILE『SUNSHINE』収録曲でATSUSHIさんが書き下ろした「約束 ~promises~」は、EXILE TAKAHIROさんの希望でデュエットしたバラードでした。TAKAHIROさんからの申し出に、どう感じられましたか?
ATSUSHI:彼は一般人からいきなりEXILEになってすごく苦しんだと思うし、僕の後輩として与えられたことを一生懸命やるスタンスを貫いてくれていました。あまりお願い事をされたこともなかったので、そういうふうに思ってくれてたんだなって。2010年のスタジアムツアー(『EXILE LIVE TOUR 2010 "FANTASY"』)で「もっと強く」を一緒に歌っていた頃とか、そうなる前の7人でまだバラードが多かった時期のこととか、彼の中ですごく強く残ってくれているんだなと思って、嬉しかったというのもありますね。
ーー今年になってからソロでの新曲配信が続いていますね。2月にリリースされた「KAZE」は石井竜也さんが作曲、ATSUSHIさんが作詞されていて、ファンの人と共に歩もうというメッセージを感じました。
ATSUSHI:でも、正直ソロの一発目だと想定せずに制作していたんですよ。去年の夏に石井さんとお話しながら制作していました。だから逆に「一発目はこれだ」って構えすぎるよりも良かったかもしれません。石井さんも「頑張っている皆さんの背中を押すほどじゃなくて、背中に手を添えてあげるぐらいのニュアンスでいいよね」と言ってくださって。J-POPだけどちゃんとお洒落な絶妙な曲で、僕が歌うと第1章のEXILEっぽさも感じるテンポだったりするので、歌ってみて心地良かったですね。
ーー4月には映画『いのちの停車場』オフィシャルイメージソング「Amazing Grace」がリリースされました。讃美歌を歌うにあたり、どんな点を意識されましたか?
ATSUSHI:映画タイアップのお話をいただいて、こんなに光栄なことはないので歌わせていただこうと思ったんですけど、正直、最初レコーディングがすごく憂鬱でした(笑)。クラシックに近い、見事なお手本が世の中にありすぎて、正解のように歌わなきゃいけないような気がして「できるのかな?」と思ったんです。でも、1番を歌い終えたところで「ATSUSHIなりの『Amazing Grace』でもいいのかもな」とちょっと思えてきて。言葉も文語的な英語で、意味を調べながら歌ったんですけど、正統派としてカバーされている方々がブレスしないところでブレスしてみたり、結構トライを重ねてみました。僕の解釈でいいと思えたときに、ゾーンに入ってスムーズにレコーディングできたのかなと。
ーーそして7月2日には、爽やかなポップソング「Heart to Heart」がリリースされました。
ATSUSHI:コロナ禍で対面のライブがなかなか実現しない中で、スタジオ作業をすることが今の自分にできることかなと思ったので、今年の5月までに5、6曲くらい録っていたんです。僕もソロになりたてで、すごくモチベーションも高いですし、「Heart to Heart」に関しては海外留学中にもう出会っていた曲なんですよ。絶対いつか歌いたくて、大事にとっておいた曲だったんです。それからツアーが決まったことで、歌詞はSAKURAさんに書いてもらうほうがリアリティのある英語が入っていいかなと。いつも予想を超えるような歌詞を書いてくださるので、そこからツアーのテーマも「Heart to Heart」でいいんじゃないかと思ったぐらいでしたね。
「人生の後半戦が始まったという感覚」
ーー「KAZE」について「背中に手を添えてあげる」というお話がありましたけど、ATSUSHIさんはYouTubeやInstagram、オンラインコミュニティもやっていて、ファンの方の声に触れることがさらに増えたと思うんですけど、そこに対してはどんな感覚なんでしょうか。
ATSUSHI:本当に喜んでもらいたいと思いますし、自分も楽しんでできるものを選んでいます。『サイン』にも書きましたけど、この業界で仕事することを終えてもいいかなと思っていたときもあって。例えば自分がこの業界から去るときや死を迎えるときに、「もうちょっと楽しくやれば良かったな」「ファンの方と仲良くすれば良かったな」と思ったら、やりきれないと思うんですよ。もう自分の中から溢れるものは惜しみなくやっていったほうが、後悔しないと思っています。極論を考えてやっているかもしれないですね。
ーー今はやりたいことをどんどんやっていくモードに入ってらっしゃると。
ATSUSHI:そうですね。40歳になったときは、自分で「オヤジだから」とか言ったりしてましたけど、41歳になるとリアルに人生の後半戦が始まったんだなという感覚になって。平均寿命が80歳、健康寿命が70歳くらいだと言われてますけど、だとすれば「人生あと何曲歌えるんだろう?」と結構考えるんです。今の40代が、50代〜60代を生きるための最後の10年だなと思うと、もう「終活を始めている」というか。加山雄三さんのように奇跡の80歳になれたら、それはもう神様からのプレゼントだと思いますけど、70歳以降は今のように声が出る保証はないですし。50歳になってからできないことは、もう40代のうちに終わらせておかないといけないと計算して、覚悟してやっている感じがありますね。
ーー2年前に取材させていただいたときも、残りの人生でできるツアーの数を意識されていましたし、ライブに駆ける想いは強いですよね。
ATSUSHI:そうですね。いつもライブの最終日になると「このステージを覚えておこう」と今でも思います。終わってしまうとセットも片付けますし、ツアーで20公演、30公演全国を回ったとしても、幻のように消えてしまうんですよね。僕にとっても夢のような時間というか、それこそがEXILE ATSUSHIでいられる瞬間じゃないですか。普段から著名人的意識で生きている人はちょっと違うかもしれないですけど、僕はステージを降りると限りなく普通の感覚に戻ってしまうので。
ーーそうした音楽活動の一方で、2月にはPCR検査を受けた上で北海道の児童養護施設に行かれたと公表されていましたね。杉良太郎さんから声をかけられて始めた法務省の矯正支援官をはじめ、以前から子供たちを支援されています。北海道の子供達に会って、一番強く感じたことは何でしたか?
ATSUSHI:訪問したのは12月の緊急事態宣言が解除されているときで、「感染症対策をしっかりして伺うことはできますか?」と言ったらOKしていただけたんです。社会貢献に関しては杉さんの影響が大きいですし、何より自分が子供達に会うと生きている意味を感じるんです。大げさに社会貢献と言っていますけど、何かしてあげたいと純粋に思えて、相手もそれを受け取ってくれるから成り立つものなので。「1回会ったらもう友達」というか、近所の兄ちゃんみたいな感じでね。みんな普通の家庭よりは少しばかりハンデを負った状態で生活しなければいけないので、その分「ATSUSHIが気にかけてくれてるんだな」と思ってほしいんです。心の中に、ある意味での“闇”を抱えているはずなので、普通より少しだけ大きな光で照らしてあげたいという感覚だけですね。
ーーATSUSHIさんは子供達に対する視線はずっと失わずにいますよね。
ATSUSHI:スタッフに話しながら思うのは、この仕事だからできるということですね。メディアの前に立つ仕事だからできることだなと。
ーー素朴な疑問なんですけど、子供たちは「EXILE ATSUSHIが目の前に突然現れる」という状況で、どういう反応をするんですか?
ATSUSHI:「ワー!」となるか、絶句するか、どっちかですね(笑)。先生方も大ごとにならないようにあえて言わないときもあるので。子供たちには、まだまだ無限の可能性があるうちに光を当ててあげたいです。
ーー「自分が生きている意味を感じる」とおっしゃっていましたが、そういう感覚は、音楽と子供達で共通のものでしょうか?
ATSUSHI:忖度せずに歌ったりすることが、表現の世界じゃないですか。多少予算を気にすることはありますけど(笑)、歌詞を書くときも歌うときも、やっぱり純粋な気持ちでやっているので、それを聴いてくれた時の子どもたちのまなざしが好きなのかもしれないですね。純粋に僕をまっすぐに見つめてくれることで、何かできることがある気がすると感じるのかもしれない。
ーースターの道に安住せず、あえて自分をまっすぐに見てくれるアウェイに飛び込んでいくのがすごいですよね。
ATSUSHI:でも、杉さんから法務省の矯正支援官のお誘いがなければ、児童養護施設まで行く勇気が出なかったかもしれないです。社会貢献のような看板の壁を超えるのは責任もありますし、勇気のいることだったんですけど、そんなものを有無も言わせずに飛び越えさせてくださったのが杉さんでしたね。刑務所にいる大人たちも、もともとは子供だし、その人たちだって多くは家庭環境や周りの環境が悪いことに始まりがある。だから僕の中で児童養護施設にたどり着いた。親と一緒に住めない子たちが健全に育ってくれたら嬉しいし、そのきっかけの「1」でも作れたらいいなというのは、その刑務所の慰問から始まっていますね。