あらきが『UNKNOWN PARADOX』で示した“ポストボカロ時代”への回答 歌い手としての傑出した力量とセンス

あらき『UNKNOWN PARADOX』レビュー

 Adoやyamaらのブレイク、動画配信サイトを中心に活動するエンタメユニット・すとぷりの躍進などにより、ネットカルチャーから登場した「歌い手」の活躍の場がさらに広がっている昨今。その流れに乗るかのように、現在もSNSやサブスクリプション音楽配信サービスを経由して新たな才能が続々と登場しており、日本のポップスシーンに新時代が到来している感がある。そんななか、キャリアを積み、高い人気を獲得しつつある歌い手のあらきが、ニューアルバム『UNKNOWN PARADOX』を6月16日にリリース。ボカロシーンの人気クリエイターを中心に豪華作家陣を迎え、全曲オリジナル楽曲で構成した本作は、“ポストボカロ時代”と形容すべき現在の潮流に対する彼なりの回答を示した、2021年にふさわしいロックアルバムに仕上がっている。

 2013年より動画配信サイトでの「歌ってみた」動画の投稿を開始し、今やYouTubeでの総動画再生数は1億4,300万回を超えるほどの支持を得ているあらき。ミックスボイスを駆使したパワフルかつ安定感のある中高音域、そして突き抜けるようなハイトーンボイスを持ち味としており、歌手としては例えば稲葉浩志(B’z)やパトリック・スタンプ(Fall Out Boy)のようなロックシンガーに近い資質を感じさせる。あらき自身、歌い手としてネット音楽シーンに関わる以前からバンド活動を行っていた経緯があり(あらきのバンド・AXIZは、2020年にメンバーの脱退を受けて、彼がボーカルを務めるプロジェクトに移行した)、90’sパンクや洋楽好きを公言していることからも、いわゆるボカロ音楽だけに留まらない音楽的な懐の深さを、彼の楽曲からは感じ取ることができるはずだ。

 あらきは2014年、海外在住のボカロP・Crusher-Pによる全英語詞のナンバー「ECHO」の歌唱動画をきっかけに歌い手としてブレイクし、2016年に自身初のアルバム『THE SKY’S THE LIMIT』を発表。2019年には、同じ歌い手出身の先輩アーティスト・Geroとのコラボレーションによる「Gero×ARAKI」名義で、TVアニメ『かつて神だった獣たちへ』のエンディングテーマ「HHOOWWLL」を歌唱したほか、「ARAKI/AXIZ」名義でアルバム『DRAMA & TRAUMA』をリリースし、Zepp DiverCity公演を含む全国ツアーを成功させるなど、ネット文化圏だけに留まらない活動を展開してきた。そんな彼だからこそ、それらを経て制作された今回のアルバムは、幅広いリスナー層の心に突き刺さる一枚になったのだろう。

 アルバムの表題曲でもある「UNKNOWN PARADOX」は、あらきの過去作にも楽曲を提供してきたDECO*27の書き下ろしによるナンバー。近年のDECO*27作品には欠かせない存在となっている元SILHOUETTE FROM THE SKYLITのRockwellがアレンジを手がけており、あらきもカバーしたDECO*27「ヒバナ」のようなアッパーなボカロックの流れも汲みつつ、さらにエモ/ラウドロックの要素を色濃くした起爆力のあるサウンドが耳を打つ。人の夢や目標を否定する意見に対して真っ向から立ち向かう歌詞も、聴き手を昂揚させる攻撃的な内容で、刺激に満ちた本アルバムのタイトル曲に相応しい1曲と言える。

【MV】UNKNOWN PARADOX / あらき

 「テレキャスタービーボーイ」などのヒットで知られるすりぃが提供した荒々しいディストーションロックンロール「拡声ノイジー」、2020年に活動を開始した注目株・柊マグネタイトによるハードスタイルもトラップも飲み込んだ異形のエレクトロニックチューン「夢現境界層」、和風のメロディと疾走感溢れるサウンドが融合したユリイ・カノン制作の「闇は白く」など、本作には新世代による扇情的な楽曲を収録している一方で、ナナホシ管弦楽団、niki、*Lunaといった活動歴の長いボカロPも多数参加。かいりきベア提供のトリッキーな高速メロディが炸裂した「トーロン」も強烈な存在感を放っているし、堀江晶太(作曲)×eba(編曲)コンビが「Spare Me」(2019年)に続いて提供した怒涛のハードロック「イスカノサイ」では、あらき自身が作詞も担当。あらきは堀江がkemu名義で発表したボカロ曲「敗北の少年」などを活動初期からカバーしてきたが、分厚くいななくギターとチョッパーベースが牽引する本楽曲において、ときにシャウトを交えながら昂然と我が道を突き進む彼の姿には、もはや青い感傷を抱えた敗者ではなく、“誰もが憧れるヒーロー=覇者”としての貫禄が漂っている。

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