GARNiDELiA MARiA、ソロアルバム『うたものがたり』で浮かび上がるボーカリストの輪郭 多様な楽曲でも揺るがぬ芯

MARiA『うたものがたり』レビュー

 また、今作は何と言っても終盤の展開がすばらしい。7曲目「あー今日もまた」は大瀧詠一を彷彿とさせるノスタルジックな音作りの一曲。歌詞は〈勝手に生き〉た過去を顧みて〈焼け野原〉な現状を嘆くという暗めのテーマだが、それを爽やかなサウンドで軽めに歌い上げているため、重苦しい印象がない。開き直った雰囲気が彼女のイメージにも合っている。本間昭光や清水信之といった名うてのプロデューサー/アレンジャーの手腕が光った一作だと言えるだろう。

 一方で、次の「Brand new me」はレトロフューチャーなエレクトロポップ。描いた未来のために自分を信じようというメッセージを明るくポップに表現する。続いて宇宙まおが作詞を担当した「光」は、90年代のJ-POP黄金期のシティ感の漂うサウンドに、一人で生きていく寂しさや孤独を歌う。そして最後はじんが提供した「ハルガレ」。アルバムを通して様々な曲調を転々としつつ、最後には王道のアニソンへ戻って”ものがたり”に幕を閉じる構成だ。

 このように、タイプもキャリアも異なる多種多様な作家による楽曲群を一枚に綴じたことで、MARiAというボーカリストがアニソンという枠を飛び越え、より広いポップミュージックシーンへと羽ばたいた印象を抱いた。特筆すべきは、どんな歌にも彼女は姿勢を変えないということだ。普通、ここまで毛色の違う作品を前にすると、曲調に合わせて少し声色を変化させてみたり、キャラクターを変えてみたり、曲の主人公に成りきって役を演じてみたりするものである。

 しかし、MARiAは常にMARiAなのである。芯が1ミリも揺るがない。プロデューサーの本間も「多様性を持った全ての曲を『メイリア色』にしてしまう一本筋の通ったヴォーカルをお楽しみ頂ければ嬉しいです」とコメントしているように、これまでの活動で培ったMARiA像を崩さず、すべての楽曲を一つの“ものがたり”にまとめ上げている。むしろ楽曲が多様だからこそ、MARiAという歌手の輪郭がくっきりと際立っている。今作で貫かれたこの姿勢を武器に、どんなサウンドにも、どんなフィールドにも挑戦していく歌手・MARiAをこれからも見続けていたい。

■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi/https://twitter.com/az_ogi)

■ライブ情報
『MARiA Live 2021「うたものがたり」』
【開催日】2021年6月5日(土)
【会場】チームスマイル豊洲PIT
【時間/料金】OPEN:16:00/START:17:00/全席指定席:¥7,800-(税込)※1Drink別

■リリース情報
2021年5月26日(水)Release
『うたものがたり』【初回限定盤】
¥4,400(税込)
PCCA-06037 CD+Blu-ray
※Blu-rayにはMVほか収録予定
<収録曲>
1.コンコース
作詞:橋口洋平 作曲:橋口洋平 編曲:本間昭光
2.憐哀感情
作詞:山下穂尊 作曲:山下穂尊 編曲:中村タイチ
3.ガラスの鐘
作詞:早川博隆 作曲:早川博隆 / 村山シベリウス達彦 編曲:村山シベリウス達彦
4.おろかものがたり
作詞:草野華余子 作曲:草野華余子 編曲:本間昭光 / 草野華余子
5.マチルダ
作詞:岡本定義 作曲:山崎将義 編曲:清水信之
6.キスをしてみようか
作詞:TAKUYA 作曲:TAKUYA 編曲:nishi-ken
7.あー今日もまた
作詞:jam 作曲:本間昭光 編曲:本間昭光 / 清水信之
8.Brand new me
作詞:木村友威 作曲:nishi-ken 編曲:nishi-ken
9.光
作詞:宇宙まお 作曲:本間昭光 編曲:清水信之
10.ハルガレ
作詞:じん 作曲:じん 編曲:本間昭光
全10曲収録

『うたものがたり』【通常盤】
¥3,300(税込)
PCCA-06036 CD ONLY
収録曲共通

「コンコース」楽曲配信
https://lnk.to/Concourse

『うたものがたり』特設サイト:https://www.garnidelia.com/special/maria/

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