ESME MORI、作家活動での出会いとクリエイティブ「常にいろんなものに触れていれば、次の作品が自分でも楽しみになる」

ESME MORI、作家活動での出会い

自分の作品とプロデュース業の両輪でやっていきたい

ーーたくさんのアーティストプロデュースを手掛ける一方で、ESME MORI名義では初めてのアルバム『隔たりの青』が3月にリリースされました。2019年にシングル「雲の芽 feat. basho」がリリースされていましたが、制作はいつ頃から行われていたのでしょうか?

ESME:アルバムを作りたいと思ったのは4~5年前で、CBSとやった曲(「Telepathy 2 feat. CBS」)は2017年くらいにできてたんですけど、そのときはプロデュースアルバムにしようと思ってたんです。旅人さんに「プロデュースアルバム作りなよ」って言われて、そうしようと思ってたんですけど、途中で気が変わったというか、いろんなジャンルのアーティストのプロデュースをした上で、もう一度自分の歌に取り掛かったらどうなるんだろうと思って、それで「雲の芽 feat. basho」ができたんです。

ESME MORI - 雲の芽 feat. basho

ーー『The Butterscotch Sessions』を今聴き返すと、まだ「ビートメーカーによる歌もの」という印象もありますが、今回はESMEさんの歌がしっかり立った上で、トラックとの相乗効果でより印象的な響きが生まれているように思います。

ESME:自分の歌声に合ったアレンジの引き出しを持ってなくて、最初はなかなか形にならなかったんですけど、トラップが出てきて、こういう感じのテンポ感とか曲調、BPMを半分で取ることによる浮遊感みたいな、そういうサウンドなら自分に合うというか、日本語に合うと思ったんです。トラップは音を詰めなくて済むというか、スピード感はあるんだけど、スネアが3拍目に来ることで空間ができて、僕みたいなスタイルには合ってるなって。もともとフィッシュマンズも大好きで、8ビートというよりは、ゆったりめに取るリズムの方が好きだったんですよね。あとは自粛期間に日記を書き始めて、思ったことをバーッて書いたら、一貫した作品が作れるかもと思って、一気に曲ができました。

ーーそうやって考え方が整理されて、最初にできたのはどの曲でしたか?

ESME:「Tambourine Sky」だと思います。『隔たりの青』というタイトルは、レベッカ・ソルニットっていうアメリカの著述家が書いた『迷うことについて』という本から来ていて、青色は遠くにあればあるほど濃く見える色で、そこに到達することを目指すのではなく、その隔たりごと愛せないか? ということが書かれていて、それが僕の中ですごくしっくり来たんです。あとは「灯台」もキーワードで、Netflixの映画『アナイアレイション』に灯台が出てくるんですけど、「目指す場所ではあるけど、辿り着く場所ではない」っていうのが「隔たりの青」とも似てるなと思って、今の自分にハマったんですよね。

ESME MORI - Tambourine Sky

ーー「Tambourine Sky」には〈隔たりは僕らを照らし出す〉〈どっちに行くか迷ってたけど そのままで静かに揺れる〉というラインがあって、これまでの道のりを肯定する姿勢が感じられます。アルバムに参加しているゲストを見ても、ESMEさんのこれまでが詰まっているというか、客演には旅人さんをはじめ、ピスタチオスタジオやLOW HIGH WHO?のメンバーが参加しているし、ミックスエンジニアの顔触れも非常に多彩ですよね。

ESME:普通に自分の作品だけ出してても出会えなかった人たちというか、日本で一番豪華なエンジニア陣じゃないかと思ってるんですけど(笑)。

ーー柏井日向さん、小森雅仁さん、Illicit tsuboiさん、寺田康彦さん、奥田泰次さんですからね。ESMEさんの音に対するこだわりの表れとも言えるなと。

ESME:でもホントに、この10年を総括するアルバムになったと思います。僕は大学を卒業した年に震災が起きて、卒業式ができなかったんですけど、それからちょうど10年後の3月にこのアルバムが出たっていうのは、すごいことだなって。ホントは2020年のうちに出すつもりだったんですけど、結果的にこのタイミングになって、自分の2010年代を総括していた。1曲目の「遠岸」はまさにそういうことを歌ってます。

ーー今日のお話を聞いた後だと、〈たとえ遠く打ち上げられても 相も変わらずやっていくつもりだよ〉というラインがよりグッと来ます。

ESME:自分の心象風景をまとめることによって気付くことがあって、アルバムを出すというのは尊い行為だなと思いました。なので、自分のクリエイティビティを高めるためにも、自分の作品を作ることと、プロデュース業と、その両輪でやっていきたい。今回の作品はその出発点であり、これからも自分の作品を作り続けたいと思います。

ーー「自分の作品とプロデュース業の両輪」というお話がありましたが、改めて、今後の展望について話していただけますか?

ESME:ずっと自分の作品だけをやっていたら、同じテイストのものになっちゃうと思うんですけど、常にいろんなものに触れていれば、自分の次の作品が自分でも楽しみになると思うんですよね。「こういうモードでやりたい」と思ったときに、ちゃんと自分の技術がついて行けるようにしておきたくて、プロデュースワークでいろんなことをやっているうちに、知らない間にその力がついていることもあると思うし。

ーー以前はバンドのプロデュースをやるとは思ってなかったけど、それをやったことによって身に着いたものが確実にあるでしょうしね。

ESME:ここ数年はずっとそういうことの連続です。最近は歌を作る仕事もやっていて、自分でトップラインを書いて、編曲までやらせてもらって、今はそれがまた新しい自分の軸になるかもしれないと思っていて。ESME時代は自分が作る歌なんて本当に個人的なものでしかなかったけど、アーティストの人に書き下ろしのオファーをもらえるようになって、それがどう届くのか、今すごく楽しみです。

ーー他に今やりたいことはどんなことですか?

ESME:劇伴はやりたいです。もともと映像に音楽をつけるのもすごく好きで、歌ありきと映像ありきは曲作りの方程式がそもそも違うんですけど、その両方をやることでいいマインドリセットにもなるので。あとはアルバム一枚のトータルプロデュースもしてみたいし、自分名義でのプロデュースアルバムも作りたい。忙しいからこそ、どんどん攻めたいというか、常に自分ができることを増やしていかないとなって、そこには焦りもありますしね。

ーーFlying Lotusは今度またNetflixのアニメ音楽をやってたり、常に攻めてますもんね。

ESME:常にクリエイティブで、「忙しいからできない」みたいな次元じゃないんだろうなって。「忙しいからできない」だとクリエイティブのサイクルも下降しちゃいそうだから、「やりたい」が先行してた方がよくて、常に何をしたいか貯めておいて……だから、休んでる暇はないなって(笑)。

■リリース情報
『隔たりの青』
2021年3月12日 Digital Release
配信はこちら

ESME MORI オフィシャルサイト

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