マキタスポーツ×スージー鈴木が面白おかしく80年代歌謡曲を熱弁 『ザ・カセットテープ・ミュージック』が支持される理由

『ザ・カセットテープ・ミュージック』が支持される理由

 他にも、尾崎豊の「卒業」を取り上げ、80年代を代表する「ソ#」だとエモさの秘密を紐解いた。また、声には「湿度がある」として、ビートたけし&たけし軍団の「抱いた腰がチャッチャッチャッ」を湿度80%と紹介するなど、音楽雑誌等で見聞きすることのない言葉づかい、独自の視点からなる解説が実にユニークだ。

 また、マキタスポーツが小泉今日子の「なんてたってアイドル」を最優秀メタアイドル賞として取り上げた回では、歌唱力に加えて、小泉今日子のアイドルとしてのスタンスを時代背景と共に紹介し、どのようにして他の歌手とは違う方向に歩んだのか多面的に解説した。

 好みに左右される感覚的な捉え方や、概念的な知識でもなく、歴史的背景を踏まえながらアーティストが語らない楽曲の構造をフラットなスタンスで提示する。“理系”的な音楽分析が最大の魅力と言える。

 番組では一貫して、マキタスポーツとスージー鈴木によるJ-POPに対する愛が溢れている。音楽分析を中心とした回もあれば、「BANDやろうよ2」(#86)や「1981年の音楽」(#85)と、二人がまだ音楽好きな少年だった頃の、バンドに対する純粋な憧れが当時の熱を保ったまま楽曲解説と共に伝わってくる

 ちなみに、まだ放送前であるが6月6日には「ずっと80年代でいいのに」という放送回も予定されている。「あの頃が一番よかった!」と豪語するほど、80年代音楽を愛してやまないマキタスポーツとスージー鈴木。4月放送の「1981年の音楽」では、大滝詠一「君は天然色」やゴダイゴ「ビューティフル・ネーム」のイントロから歌い出しにかけての部分に注目し「歌い出し転調」と大興奮で解説。また、『3年B組金八先生』の名シーンとしても有名な中島みゆき「世情」に至っては、「日本人が大好きな枯れ葉進行」と解説しつつ、「貴様は俺の生徒だ~貴様は俺の生徒だ~」と音楽に合わせて延々と台詞を再現するという珍事があった。音楽分析はもちろんだが、40代以上の視聴者にとっては思い出の共感もこの番組の醍醐味。同放送回ではこの80年代という一つの時代を、二人がどのように懐古し熱弁するのか、気になるところだ。

 以前、同番組を書籍化した『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(KADOKAWA)刊行記念インタビューで、マキタスポーツは、「すごく分析的に語っている部分もあるけれど、熱い部分もある。そもそも興奮していなかったら、そういう分析とかしてなかったはずだからね」と語った。

 スージー鈴木も「とんかつ定食を、総論としておいしいよって言ってるんじゃなくて、とんかつ定食の横に積まれているキャベツの千切りの仕方を語る」と話したように、音一つにこだわり、構造や時代背景、アーティストの思想に及ぶまで、好きな音楽を深堀して理解を深める。アーティストがあまり語りたがらない手の内を紐解いていくのも番組の魅力だ。

 また、マキタスポーツとスージー鈴木に対して、素人的な立ち位置のうめ子(河村唯)やとんちゃん(外岡えりか)、さかっち(酒井瞳)らの存在が、若い世代にどう伝わるかのバロメーター、関所的な役割を果たしているように思う。ミニマルなメンバー構成であることも、熱い思いを届けるには必要不可欠な要素と言えそうだ。

 関ジャムやバズリズムが大手予備校だとしたら、『ザ・カセットテープ・ミュージック』は知る人ぞ知る名門塾、理系専門塾と位置づけられなくもない。音楽研究は「無尽蔵」だと言い切るスージー鈴木、知る人ぞ知る楽曲をピックアップしてギターをかき鳴らすマキタスポーツ。時には王道に、具体的例を挙げてかみ砕く解像度の高い解説と、軽妙なトークにすっと腹落ちする、J-POPの面白い魅力が詰まった番組だ。

■番組情報
『ザ・カセットテープ・ミュージック』
2021年5月9日(日)放送
第88回「マキタカラオケ教室2」
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、河村唯
2021年5月16日(日)放送
第73回「4年目突入!元気になれる曲」(再放送)
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年5月23日(日)放送
第74回「~スージー鈴木の精神世界2~」(再放送)
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年6月6日(日)放送
第89回「ずっと80年代でいいのに」
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳
2021年6月13日(日)
第90回「第一回!不幸歌合戦」
【出演】マキタスポーツ、スージー鈴木、酒井瞳

公式サイト
https://www.twellv.co.jp/program/music/cassettetapemusic/

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