梅田サイファー、最新作『ビッグジャンボジェット』リリースに至るまで “スキルへの貪欲さ”が結束に

梅田サイファー『ビッグジャンボジェット』レビュー

 その意味でも、満を持してのリリースとなる『ビッグジャンボジェット』。今月末に発売される雑誌『BUBKA』2021年6月号に、筆者が執筆した梅田サイファーのインタビューが掲載されるが、そこからの先出し的にKBDとテークエムの言葉を引用すると、今回のアルバムは「再集結」という認識があるようだ。確かに、『NEVER GET OLD』や『トラボルタカスタム』では、「マジでハイ」や「トラボルタカスタム」に参加したメンバーが作品の中心軸になっていたが、今回はテークエムにも引けを取らないキャッチーなフックを通して大活躍を見せたOSCAや、テークエム/OSCAとユニット・Japidiotを組むtellaやteppei、そして最年少のコーラなど、梅田の総力戦とも言えるメンツがしのぎを削っている。

 それはILL SWAG GAGAのもはやパンク的とも言えるフックが衝撃的な「ビッグジャンボジェット」にも表れている。☆Taku Takahashiが手掛けたドラムンベース/ガバ的な高速トラックに対して、パンク的と表現したように、ある意味では「ラップスキル」の埒外で暴れまくるようなGAGAのスタイルは、これまでの梅田作品の傾向から考えると非常にいびつで異物感を感じさせる。さらに言えば、この曲自体がOSCAのメロディアスなラップでリスナーを誘導路に引き込むと、Kenny Doesのタイトかつ切れの良いフロウによって急加速、そしてたぅりん&ふぁんくによる掛け合い、テークエムの伊達男なラップ、KOPERUの軽快さで急上昇と急降下を繰り返し、遂に楽曲は梅田の歩道橋から大気圏を突き抜け宇宙に到達。様々な要素を乱暴とも言える濃度で一曲に押し込み、リスナーの感情をとにかく振り回すような楽曲だ。しかし、そこに嫌味を感じさせないのは、梅田サイファーの持つ「ライミングし、ビートに言葉を合わせ、歌詞を構築する」という「根本的なラップ力」の高さがなせる技であろうし、そういった様々な要素を飲み込む度量は、今回のアルバムに通底している。

梅田サイファー - ビッグジャンボジェットfeat.OSCA,KennyDoes,KOPERU,ILL SWAG GAGA,タウリン,ふぁんく&テークエム(prod.☆Taku Takahashi)

 その意味でも、この楽曲が象徴しているように、このアルバムは『ビッグジャンボジェット』と言いつつ、大型旅客機による快適な空の旅ではなく、特に中盤までは乱気流の中を縦横無尽に飛び回るエアレース機のようなアルバムだ。80’sブギーリバイバルを感じさせる「SPACE INVADER」への展開や、トライバル感のあるTRAPビートを今風のラップスタイルで彩る「無敵ライクセブンティーン」、エレクトロビートな「Future is…」、現行ポップスとの接近を感じさせる「Now On Air」、BoomBapな「HEADSHOT pt.2」などのトラックの幅広さからも感じられるだろう。そしてそのトラックの幅の広さを構成しているのは、「梅田サイファーの内側」であることも付記しておきたい。先程「外側の視点」と書いたが、それは今作で言えば、☆Taku Takahashiと、「いつかまた」を手掛けたtofubeatsにあたる。一方で、他の13曲に関しては、トラックメイクとエンジニアを務めるCosaquを中心に、KennyDoes、peko、そしてKZのトラックメイカー名義であるONGRが手掛けている。様々なトラックメイカーを招聘してバラエティを出すのではなく、クルーから内発する形で時代感も含めてバラエティ豊かなトラックを提示していることも、このアルバムの、そして梅田サイファーの特徴と言えるだろう。

梅田サイファー - SPACE INVADER feat. tella, teppei, テークエム, OSCA (Official Video)
梅田サイファー - 無敵ライクセブンティーン (feat. KennyDoes, テークエム, ふぁんく, R-指定) (prod. by Cosaqu)
梅田サイファー - HEADSHOT pt.2 feat. テークエム, ふぁんく, R-指定, KBD, KennyDoes, KOPERU, KZ & peko(Official Video)

 また楽曲のテーマに関しても、タイトル通り締切と戦う「急かされるのはゴメンだぜ」、R-指定、KOPERU、Kenny doesによるユニット・コッペパンがプロレスラーのオカダ・カズチカよろしく金の雨を降らす「レインメーカー」、ラップスキルを武器として戦う梅田らしい「リズム天下一武道会」、センチメンタルな情景を参加メンバーが思い思いに歌う「Highway Lights」など、その方向性は楽曲によって大きく異なっていく。

梅田サイファー - Highway Lights(feat. ふぁんく, peko, KennyDoes, テークエム, KZ & コーラ(Official Video)

 そういった錐揉みや急上昇、旋回飛行でリスナーを振り回した『ビッグジャンボジェット』も後半、特に12曲目の、過去の恋愛の情景と追憶を塗り込める「もぬけ」からは軟着陸に向かう。軽やかなビートの上に、コロナ禍を思わせる状況とその先の希望を描く「いつかまた」、ダウンテンポだがロッキッシュなビートの上に、「梅田サイファーへの思い」を刻み、それを通して自身のアイデンティティを表現する「NO.1 PLAYER」の流れは、リスナーのエモーションを十二分に刺激するだろう。また特に後半のトラック群は、J-POPとヒップホップを親和させた00年代のポップス的な感触があり、世代的な部分で梅田のメンバーの根本を感じるようでもある。

 そしてアルバムは、梅田サイファーのオリジナルメンバーとも言える、ふぁんくとKZがタッグを組んだ「始まりも終わりも」で幕を閉じる。梅田サイファーの始まりから現在までを凝縮した内容は、それぞれのヴァースは決して長くはないが、その言葉一つ一つ、ライムの一つ一つ、ラップの置き方一つをとっても、彼らがこれまでに積み上げてきたものを凝縮したようなタフな一曲であり、エモーショナルという言葉では言い表しきれない「思い」が、心の奥深くに刺さるようだ。

 この曲でKZが〈thank you see you 疑わぬ先へ〉と歌うように、このアルバムが梅田サイファーの新たな一歩になることは間違いない。そして梅田サイファーという大型航空船団はどこまでその航路を伸ばすことが出来るのか、それは上記の梅田サイファーのMC陣が総登場し、そのパフォーマンスをDJ SPI-Kが捌く、5月4日に大阪は服部緑地野外音楽堂で行われる、梅田サイファーにとっても現時点で最大規模となるワンマンライブで確認することが出来るだろう。刮目して待ちたい。

■高木”JET”晋一郎
狼の墓場プロ、レキシネーム門仲町一郎、モノホンHIPHOP物書(トージン認定)、サ上と中江マイメンNo.1、サイプレス上野「ジャポニカヒップホップ練習帳」構成、R-指定(Creepy Nuts)「Rの異常な愛情」制作、Chelmico「キスがピーク」構成、木村昴「HIPHOP HOORAY」構成、オワコンないと。
Twitter:https://twitter.com/TKG_JET_SHIN

梅田サイファー『ビッグジャンボジェット』
梅田サイファー『ビッグジャンボジェット』

■リリース情報
梅田サイファー『ビッグジャンボジェット』
2021年4月21日(水)Release
XSCL-49 ¥3000(税込)
<収録曲>
M1 ビッグジャンボジェット(pro.☆Taku Takahashi)
M2 SPACE INVADER(pro.Cosaqu)
M3 無敵ライクセブンティーン(pro.Cosaqu)
M4 急かされるのはゴメンだぜ(pro.ONGR)
M5 リズム天下一武道会(pro.KennyDoes)
M6 レインメイカー(pro.Cosaqu)
M7 Dream finish  恥ずかしいは気持ちいいの卵だよ(pro.バクシーシ山下清)
M8 Future is…(pro.Cosaqu)
M9 HEADSHOT pt.2(pro.Cosaqu)
M10 Highway Lights(pro.ONGR)
M11 Now On Air(pro.KennyDoes)
M12 もぬけ(pro.peko)
M13 いつかまた(pro.tofubeats)
M14 NO.1 PLAYER(pro.peko)
M15 始まりも終わりも(pro.ONGR)

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