ここから新しいOAUが始まるーー音楽を愉しむ幸せ噛み締めた日比谷野音で過ごした時間

 前日の雨をすっかり忘れさせる爽やかな青空のもと、OAU(旧:OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)が10年ぶりに日比谷野外音楽堂のステージに立った。昨年12月にリリースした初のベスト盤のリリースを受けて1月から2月にかけて全国8カ所を回った『OAU TOUR 2021 -Re:New Acoustic Life-』のツアーファイナルだが、ここから新しいOAUが始まる、と思いたくなる夜になった。

 TOSHI-LOW(Vo/Ag)、KOHKI(Ag)、MAKOTO(Ba)、RONZI(Dr)のBRAHMANの4人と、MARTIN (Vo/Vn/Ag)、KAKUEI(Per)の6人が姿を見せたのはまだ日が傾く前の午後5時過ぎ。オープニング曲「A Strait Gate」をMARTINとTOSHI-LOWが歌い出すと、客席にいる人たちの体が揺れ出した。アコースティック楽器だけで、いやアコースティック楽器だけだからこその、広がりのあるサウンドが木々に囲まれた野音に響き渡る。

 「こころの花」「Follow The Dream」と続け「晴れたね。二人がいるとこんなに晴れる。BRAHMANだと台風くるんですよ」とTOSHI-LOWが空気をほぐせば、MARTINは「ここでやりたかった! みんな来てくれてありがとう。今日はツアーファイナルだけど、ただ面白くやりたいだけ。みんなと一緒にこの場所でいい思い出作って」と呼びかける。この二人のボーカリストがリードを取りコーラスで力強い声を重ねるのがこのバンドの大きな魅力だがライブではそれが一段と迫力を増す。「all the way」ではその力を惜しみなく見せつけた。

 もうひとつOAUにはバイオリンと打楽器を加えた編成を生かす多彩な曲という強みがある。そしてMAKOTOのアップライトベースとRONZIのドラムが固めるボトムがアコースティック楽器を受け止め腰の据わった音となる。マーチング風に聞かせる「Black and Blue Morning」に、軽快な横揺れのリズムがハンドクラップを呼ぶ「Thank you」で観客の動きもどんどんほぐれていく。MARTINが歌詞を膨らませて観客に感謝を伝えた「Thank you」では、RONZIがお約束の特大スティックを取り出して観客を沸かせた。

 「近年いろんなことがありますけど、楽しめる時は思い切り楽しんだ方がいい。しっかり楽しむと楽しんでる預金みたいなのがあって、大変だなって時は自分が助けに行ける。苦しみも分けてもらって楽しさを分けてあげたらいい。俺らはそう思ってる。今日は楽しんで帰ってください」。TOSHI-LOWのいい話の後はティンホイッスルが哀愁を呼ぶ「朝焼けの歌」。続く「Dissonant Melody」はMARTINがドラマティックに歌い上げ、ボトルネックギターを穏やかに聴かせた「夢の跡」ではTOSHI-LOWの歌が余韻を残した。

 力強いビートとジャンベの低い響きが生きる「Americana」に続けて「実話かフィクションかよくわからない映画の主題歌をやりました、霞が関のど真ん中で歌うのが一番効果的だろうな。俺たちだけじゃ伝わらない。誰か一緒に歌ってくれない?」とTOSHI-LOWが呼びかけると細美武士が登場、「Where have you gone」(映画『新聞記者』主題歌)で見事なコーラスを聴かせた。ラストのMARTINと細美の競うようなロングトーンは圧巻で、歴史的な瞬間に立ち会った気がしたほど。「こんな雲ひとつ見えてない野音なんて初めて来た。よかったね、みんな」と言ってステージを降りた細美に、MARTINが「パワフルな声だね」と感心していた。

 「この曲で帰らないで」と笑わせた「帰り道」の後で、TOSHI-LOWは言った。「コロナで会社は大赤字。でも今が一番幸せ。負け惜しみではなくて、ここに立つこともここにくる人たちも、決意と覚悟を持ってきてるという重さを1回1回噛み締めている」そんな思いを込めたという新曲は「世界は変わる」。そして「Bamboo leaf boat」に続いたインストゥルメンタルの新曲は、ダンサブルでパワフルな曲。まだタイトルもないがライブで人気曲になるのは間違いないだろう。

 「Again」から「Midnight Sun」と続けた終盤、ダンサーが登場して曲に合わせてフリースタイルの見事なダンスを披露。本編ラストの「Making Time」ではダンサーに合わせてTOSHI-LOWも踊り出しそうだった。「ATSUSHI、ありがとう」とTOSHI-LOWが声をかけたのは、元Dragon AshのATSUSHIだ。

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