2021.04.17 18:00

WANIMA『Cheddar Flavor』『Chilly Chili Sauce』に表れた変化　3部作から浮かび上がる新たなバンド像を読み解く

文＝石井恵梨子

　長くなったが、最新作『Chilly Chili Sauce』である。ドカンと爆音で幕を開けて全力で走り出す1曲目「Chilly Chili Sauce」はいかにもWANIMA印だが、よく聴けばそう速い曲ではない。というか、ツービートが随所で4ビートに切り替わるので、そのたびに立ち止まり「大丈夫？　ちゃんと付いてきてる？」と顔を覗き込んでくるようなニュアンスが感じられる。続く「最後になるなら」はさらにその傾向が強く、実際のテンポに対してKENTAの歌メロが妙にゆったり流れているのが印象的。滑舌の良さを活かし一気に駆けるよりも、一語一句をちゃんと手渡していくこと。さらに言うなら、実際のメロディよりもバックに流る〈La～La～La～〉のコーラスのほうが重要かもしれない。みんな全員で歌えるように。誰か一人を見落としたり置いてきぼりにすることのないように。

　『Cheddar～』から始まる三部作を「自宅で聴ける疑似コンサート」と考えれば、今回の『Chilly～』は10曲目以降、いわゆる中盤に当たる。幕開けは景気よく、終盤は派手な大団円を用意するとして、中盤とは、とにかくじっくり聴かせる時間帯である。バンドによっては渋いセッションを披露したり、珍しいカバーを用意したり。いつもの鉄板から離れることで知らない表情や仕草に気づいてもらうチャンスだとも言える。スタジアムをドカンと騒がせるタイアップ曲なら、近いうち配信で「旅立ちの前に」が登場する。そういうサニーサイドを今も貪欲に押さえつつ、ここで彼らは最高の「じっくり」に挑戦している。

　ラストナンバーの「ネガウコト」。これはバラードと分類してもいいミドルテンポで、彼らにしては珍しく針がポジティブに振り切れない、揺れる感情をそのまま歌にした一曲だ。〈退屈を飼い慣らしてる〉〈よどんだ空気　響くギター　溢れては消えて〉はコロナ禍のリアルな心情だろうし、〈黙ってわかってる　まだ絡まってる〉と答えは出ないままだ。最後は〈途中だった話の続きはいつか　忘れず楽しみに待ってる〉と結ばれるが、この歌唱が不思議なほど強くない。必ず誓う、全力で叫ぶよ、みたいなニュアンスはまるでなく、KENTAは自室でつぶやくように歌い終え、そのまま音はスッと消える。

　極端な闇と無敵の明るさ。両輪をぶん回して走ってきた今までのイメージはなく、曖昧なコロナ禍のテンションがそのまま手渡されたような気分である。言葉の裏や真意を探りたくなる歌詞も多いので単純なメッセージソングとも言い切れない。こんなWANIMAもあるのか。その意味では実に新鮮。パカーンと晴れた太陽がいつものWANIMAなら、この「ネガウコト」は薄曇りの空のようで、そのこと自体に妙なリアリティを感じてしまう。

　ライブ『Boil Down 2020』の印象と『Chilly Chili Sauce』単体なら、なんかWANIMA真面目になった？　などと見ていたかもしれない。ただ、繰り返すがこれは三部作の中盤である。今はただ生きろと背中を押してくれた『Chedder～』のラストが「Milk」だったように、今回はこの「ネガウコト」で終わることに意味があるのだ。物語は終わらない。4月28日から始まる久々のツアーがいきなり狂乱のお祭り騒ぎになるとは思えない。感染対策や人数制限に細心の注意を払いながら、まずは、切実な感情の交換が行われるのだろう。

　そして、この三部作は、コロナ禍でも常に届けることを模索してきたバンドの変容の記録でもある。自身に起こった変化を、彼らは最終的にどんな結論にしていくのか。三部作の全貌が見たときに、また新しいWANIMAと出会えそうだ。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク／ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA！」などに寄稿。

■リリース情報
WANIMA
6th single『Chilly Chili Sauce』
4月14日（水）発売
購入：https://wanima.lnk.to/ccs

初回盤（CD+DVD）¥2,860（税込）
通常盤（CD）¥1,540（税込）
初回生産仕様：3方背BOX（※初回盤・通常盤共通）
チェーン別特典：「Chilly Chili Sauce」オリジナルステッカー

＜CD収録曲＞
M1「Chilly Chili Sauce」
M2「最後になるなら」
M3「月の傍で」 (※読み：ツキノソバデ)
M4「ネガウコト」

＜DVD収録曲＞）※「COMINATCHA!! TOUR FINAL」から7曲収録）
M1「JOY」
M2「つづくもの」
M3「Japanese Pride」
M4「Mom」
M5「ともに」
M6「りんどう」
M7「GET DOWN」

■ライブ情報
『Cheddar Flavor Tour 2021』
4月28日（水）Zepp Tokyo
5月11日（火）BLUE LIVE 広島
5月12日（水）BLUE LIVE 広島
5月17日（月）熊本城ホールシビックホール
5月18日（火）熊本城ホールシビックホール
5月25日（火）Zepp Fukuoka
5月26日（水）Zepp Fukuoka
6月1日（火）松山市総合コミュニティセンター・キャメリアホール
6月2日（水）松山市総合コミュニティセンター・キャメリアホール
6月10日（木）仙台PIT
6月11日（金）仙台PIT
6月16日（水）Zepp Nagoya
6月17日（木）Zepp Nagoya
6月23日（水）Zepp Sapporo
6月24日（木）Zepp Sapporo
6月30日（水）Zepp Osaka Bayside
7月1日（木）Zepp Osaka Bayside
7月6日（火）豊洲PIT
7月7日（水）豊洲PIT
7月13日（火）USEN STUDIO COAST
7月14日（水）USEN STUDIO COAST