WANIMA『Cheddar Flavor』『Chilly Chili Sauce』に表れた変化 3部作から浮かび上がる新たなバンド像を読み解く

WANIMA、3部作から浮き上がる新たなバンド像

 WANIMAから6thシングルとなる最新作『Chilly Chili Sauce』が到着した。先日発表されたように、これはバンド初の三部作。昨年9月、ZOZOマリンスタジアムでの無観客ライブ直後にサプライズで登場したミニアルバム『Cheddar Flavor』が第一弾で、今回の『Chilly Chili Sauce』がその続編、締めとして8月頃?(特設サイトに「0818」という予告タブとカウントダウンが公開されている)に次作が控えているという。

WANIMA 6th single「Chilly Chili Sauce」Teaser

 どれもこれも旨そうなタイトルだ。みんなの大好物=ライブがおあずけになって随分と経つから、ちょっとずつ旨いものにありつけるのは非常にありがたい。そして、ちょっとずつと言っても、『Cheddar~』が9曲入り、『Chilly~』が4曲入り、最後のシングルも2曲以上は用意しているだろうから、この1年で彼らは15曲以上を制作、録音していたことになる。ほとんどフルアルバムの集中力だ。それを小分けにしたのは配慮の心だろう。ライブで会えない今はこまめな生存確認を。いつか必ず会える約束ができるように。

 生存確認と書いた。比喩ではない。満面の笑顔とピースサインでテレビに出ていったWANIMAは、いざ聴けば、常にギリギリの痛みを抱え、不甲斐なさや悔しさに苛まれて生きる人たちの歌を歌い続けてきた。単なる応援歌と書けば軽すぎる。シチュエーションとしては絶望に近いのだ。もうダメと心が折れる寸前。それでも生きていたいと言える自分でいられますように。文字にすると相当シリアスな告白を、激しいツービートと起伏の多いメロディ、それを彩る鉄壁のハーモニーによって「元気!」のサニーサイドにひっくり返す。そういう歌を彼らはずっと必要としてきた。たとえば私は、KENTAの笑顔がブレなければブレないほど、笑っていないと生きていられなかった闇の深さを思ってしまう。極端な闇と無敵の明るさが、もう分かち難いほどくっついて見えたのだ。今までは。

 変わったと思ったのは昨年末のライブ『Boil Down 2020』からだ。レポートにも書いたが、3人はやんちゃな振る舞いや三枚目キャラを封印し、無駄な遊びは不要と言わんばかりにストイックなライブを見せてくれた。引き立っていたのは本来の誠実さと責任感。あとは無闇に走らず一語一句をしっかり聴かせるテンポ感なのだった。

 相対的に、初期のイケイケなはっちゃけムードは後退したと言える。それはそれで魅力だったし、パーティー好きの若者が大勢寄ってくる求心力でもあったから、切り捨てたのはひとつの英断だと思う。チャラくて楽しいみんなのWANIMA、ピースサインでお茶の間に出ていく笑顔のトリオから、〈言葉や想いが全部 間違わずに届きますように〉(「夏のどこかへ」)とメッセージを吟味するロックバンドへ。爆発的に躍進した初期を超え、さらにはコロナ禍で自由に動けない抑制の日々になり、この変化は起こるべくして起こったように見える。ことに今は、紅白!アリーナ!スタジアム! と馬鹿でかい祭りを仕掛けていく時期ではない。ならば、確実に届けたいあなたひとりに届くものを。

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