米津玄師、『news zero』テーマソング「ゆめうつつ」に見る最新モード 楽曲で描く“夢と現実”
2021年1月4日より『news zero』(日本テレビ系)のテーマソングに起用された米津玄師の「ゆめうつつ」。昨年、破格のヒット作となったアルバム『STRAY SHEEP』以来の新曲となったこの楽曲は今、少しずつ番組内で公開されつつある。フルサイズは未公開だが、楽曲の断片からメッセージについて紐解いていきたいと思う。
まず印象的なビート。鋭く突き刺すようなドラムが刻み続けるリズムはクールだが心地よい聴感をもたらす。また、部分的にリズムがズレる箇所も用意されており、思わず耳を奪われてしまう。ベースラインもかなり激しくダンサンブルな仕上がりだが、柔らかなギターフレーズやウインドチャイムのような音色はまどろみを演出していく。タイトル通り、夢と現実の世界が同居しているような不思議なサウンドメイクだ。
「残酷なまでの「現実」と、そこから対極にある「安らかな夢の中」、その夢と現実の間を反復しながら生きていくというのが、自分にとってはものすごく大事なんじゃないかという風に思っていて」
米津は2020年12月24日の『news zero』のインタビューでこの楽曲のテーマについて上のように答えていた。思えば、代表曲「Lemon」は〈夢ならばどれほど良かったでしょう 未だにあなたのことを夢に見る〉という歌い出しで始まる。この曲における“夢”は大切なあなたに唯一会える場所だ。安らかさの象徴として彼の中に夢のモチーフが在り続けたことは明らかであり、そのイメージがくっきりと形になったのが今回の「ゆめうつつ」と呼べそうだ。
「ゆめうつつ」の歌詞の中には〈羊〉が登場する。現時点では〈間抜けな惑星に住み着いた羊の群れ〉と〈零れ落ちた羊はまだ夢を見る〉の二カ所が明らかにされている。羊は睡眠および夢のモチーフとして扱われてきたことに加え、やはり米津の文脈では『STRAY SHEEP』=迷える羊のイメージが浮かぶ。格差や分断が蔓延る世界を思わせる歌詞が、少し不安定なメロディに乗って綴られるパートはまるで一匹の羊が彷徨っているように響く。
その不安げな気分を落ち着かせるようにサビでは穏やかなメロディが紡がれる。〈ならば今夜くらいは声が出せるような喜びが君に宿り続けますように〉という一節は、この世界で彷徨う我々という羊たちへと米津から届けられた祈りだ。そこに続く〈革命家の野次も届きはしない夜の淵で踊りましょう〉という呼びかけはまさに、最も守られた自由な場所としての夢の中を示している。