K-POP人気で表層化するアジアンヘイトや“アイドル”への偏見

 2月23日、BTSがアメリカMTVの『MTV Unplugged』に出演し、最新アルバム『BE』の収録曲「Telepathy」「Blue & Grey」とColdplayの「Fix You」のカバーを披露した。その2日後、ドイツのラジオ局Bayern 3のラジオ局ホストが「Fix You」カバーについて中国と北朝鮮を絡めた表現で不快感を表明し、「自分は韓国車に乗っているのでゼノフォビア(外国人嫌悪・恐怖症)ではない」という言い訳までつけた。当然ながらこの発言は炎上しハッシュタグ運動にまで発展したが、後日ラジオ局や本人から出た謝罪は発言に含まれていたアジア系への偏見やステレオタイプへの謝罪というより、「ファンの気持ちを傷つけて申し訳なかった」という点に終始するものだった。

 K-POPが欧米圏でカルチャーの一種として人気になり、チャートやSNSでのバズを超えて各種のアワードの中に名を連ねるようになってからしばらく経つが、K-POPが人気コンテンツになり注目を集めることが逆に一種のアジア系のステレオタイプベースになってしまったり、ヘイトの的にされることを多く目にするようになってきている。例えば、以前のアメリカツアー中には、野球好きのBTSメンバー・SUGAがLAドジャースの試合を観戦した様子を伝えるスポーツメディア・ESPNのツイートに対して中国人と混同したり、ネガティブなリプライがついたことが問題視された。BTSはメンバー全員が韓国人だが、多国籍グループであるNCT 127がアメリカで活動した際も、シカゴ出身のジャニーや韓国系カナダ人のマークといった英語ネイティブであるメンバーに対して「英語が上手い」とコメントするMCと困惑するメンバーの姿がファンによって差別的だと指摘されたことがある。前者のケースは多様なアジア系人種の国籍を混同してひとくくりにするゼノフォビア的な行為であり、後者は「見かけがアジア系なのだから英語が上手くないはず」というアジア系に対する偏見に基づく行為と言えるだろう。

 欧米圏、特にアメリカでのアジア系の存在感はマイノリティの中でも独特な部分もある。20世紀以降には移民2世・3世の中から経済的な成功により階層の移動に成功するケースが珍しくなくなったが、このような社会的地位の獲得によってアジア系が社会的主流になることはなかった。問題が起こってもコミュニティ内で解決しようとする傾向が強く、むしろ他の有色人種に比べて体制に順応的な場合も多く見られたことで「見えないマイノリティ(Invisible minority)」と呼ばれる存在になった。 例えば、140万人のアジア系が居住しているニューヨーク市ではマイノリティの1/4をアジア系が占めているが、ビル・デブラシオ市長が示す「マイノリティ」は主に「Blacks and Browns」で、アジア系はマイノリティ支援からは「見えない」ゆえに外されることが多いという指摘もあった(※1)。アジア人に対する偏見は存在するが、人種問題を論じる時にも十分に取り上げられないことが多いという典型例である。しかし特に2020年のCOVID-19(新型コロナウイルス)の流行以降、アメリカ・ヨーロッパでのアジア系に対するヘイトクライムは目に見えて増加しているという(※2)。

 ニューヨーク市警の報告によれば、アジア系へのヘイトクライムの増加率は9倍以上。ロンドンやパリといったヨーロッパ大都市でも同様の現象がニュースになっている(※3)。3月16日にはジョージア州アトランタで白人男性がアジア系のマッサージパーラーを相次いで銃撃し計8人が亡くなる事件が起こり、韓国系カナダ人であるEPIK HIGHのTabloや元2NE1のCLがSNSで「#stopasianhate」を呼びかけた。

 昨年からのCOVID-19の世界的な流行により、不確定で先の見えにくい不安をぶつけるためのスケープゴートとしてアジア系全般が直接的な標的にされており、映画『クレイジー・リッチ!』で主演をつとめたヘンリー・ゴールディングやデザイナーのフィリップ・リムなどアジア系セレブ達も「#stopasianhate」のハッシュタグと共に行動を起こし始めているが、BLM(Black Lives Matter)運動と比較すれば現状ではその注目度が大きいとは言えないだろう。BTSを含むK-POPアーティストのほとんどはアメリカやヨーロッパの「社会の一員」ではなく、あくまで「外タレ」ではありながらその壁をインターネットの力で壊した存在とみなされているはずだが、BTSの件においてもダイレクトなリアクションを起こしたセレブリティ達はスティーブ・アオキやMAX、ホールジーやザラ・ラーソンなど、過去にBTSと一緒に仕事をした経験のあるアーティストに現状では留まっている。

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