K-POP人気で表層化するアジアンヘイトや“アイドル”への偏見

 3月15日に発表されたグラミー賞でBTSは最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門の受賞を逃したが、過去のグラミー賞でも数多くの「ボーイバンド」がノミネートされてはきたものの、受賞は逃している。Jonas Brothersは2回ノミネートされたが受賞なし、One Directionはノミネート自体されたことがない。Backstreet Boysに至ってはBIG4と呼ばれる最優秀アルバム賞(アルバムオブザイヤー)や最優秀レコード賞(レコードオブザイヤー)、最優秀新人賞(ベストニューアーティスト)を含む9回ノミネートされているが、一度も受賞していない。「ボーイバンド」のアーティストが「評価」されるには、最優秀ポップソロパフォーマンス賞を受賞したハリー・スタイルズや過去10冠を獲得しているジャスティン・ティンバーレイクのように、ソロパフォーマーとしての存在感を示す必要があるようだ。ポップデュオ/グループパフォーマンス部門自体が2012年から始まった歴史の浅い部門だが、過去の受賞者の半分以上がソロアクト同士のコラボで元々のデュオやグループが単独受賞したのは2組しかおらず、ソロアーティストと比較した時、グループで活動するアーティストに対する評価自体が高いとは言えないようだ。

 「アジア系の男性はセクシーな存在ではないという偏見を変えつつある」というのも欧米圏での「K-POP擁護」に出てきがちな言い回しであるが、これもまた「アイドル」のファンは対象をセクシーに見ているという偏見に基づくものと言える。日本や韓国でも誤解の多い部分だが、確かにアイドルに対してそのような目線で好感を持つファンは少なくないにしても、特にK-POPでは一般的な「グループアイドル」に関してはその限りではないだろう。

 また、インターネットやSNSと結びついてファンと密なコミュニケーション(と感じさせるよう広報)を長年行ってきたK-POPは、現代におけるYouTuberやTikTokerのようなパラソーシャル関係=「メディアに登場する人物との間に相互関係があるという聴衆側の錯覚」という擬似的な社会関係にあるファンダムを築きやすい。パラソーシャル関係においては、実際には相手のことをよく知らないにも関わらずその関係性が親密であると思い込んでしまう場合もあり、これは特別に親密な気持ちを特にファンの側に抱かせやすいが、実際に見えているのは相手が見せようと思った面だけであり、この関係性はリアルの人間関係のような相互的なのものではない。ゆえに強い親近感と同時に強い排除感も与えやすく、結果的にアンチ的な感情をも生みやすいと言える。早期にネットが発達した韓国のアイドル文化においては「アンチ」の存在が大きく、2013年には「ファンダムは、自分の歌手を愛し他人の歌手を嫌う経験があることによって政治を知っている。 世論をどうやって説得しなければならないか、また、何をどのように排斥しなければならないのかを知っている。 混乱を予測して作る方法を知っている。 それゆえに『ファン活動は即ち政治活動』だという批判もある」(※5)という分析があった。実際、K-POPが海外で広がっていった背景には先述の「SNSを通じて自発的に広報して熱狂するファンダムの形」という韓国のアイドルファンダムのやり方を欧米圏に持ち込んだK-POP特有の「ファン活」スタイルと、パラソーシャル関係が重視されがちなユースカルチャー内での世界的な雰囲気も絡まり合い、数ある「ファンダム」の中でも特に国を問わず「アンチ」が発生しやすい状況でもあると言える。

 このように、欧米圏でのBTSを含む「K-POPアイドル」の受け入れられ方には、幾重にも重なった偏見がついてきている。かつて日本のアニメやゲームなどの「オタク」が「weaboo」という名前で呼ばれたように、主にK-POPのファンに対する「koreaboo」という呼称も生まれた(この言葉に含まれる蔑称のニュアンスを逆手に取り、あえて名乗っている「Koreaboo」というメディアも存在する)。

 しかし、これらはK-POPが注目を集めたことで今まで目に見えづらかった部分が様々な「偏見」として現れてきたとも言えるだろう。「存在しない」とされている段階ではそれを排除することはできないため、可視化されるようになったことは変化への第一歩かもしれない。日本ではある程度ジャンルとして定着はしているが、やはり人気や注目度と比例して人種差別的な言説や偏見助長のための材料とされることも増えてきている。これらの「表層化」をきっかけに、ポジティブな変化を促すアクションが増えていくことを期待したい。

※1:https://www.fox5ny.com/news/the-invisible-minority-asians-in-new-york-city
※2:https://www.afpbb.com/articles/-/3266066
※3:https://edition.cnn.com/2021/02/27/us/new-york-initiative-anti-asian-attacks/index.html
※4:https://www.teenvogue.com/story/bts-criticism-xenophobia-in-disguise
※5:イ・ミンヒ『팬덤이거나 빠순이거나』

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ「サンダーエイジ」https://nenuphar.hatenablog.com/
Twitter(@djutakata)

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