EXILE ATSUSHI、勇退後初のソロ曲に溢れる“優しく寄り添う精神性”
コロナ禍によってアーティストとリスナー間でライブという対面のコミュニケーションが断絶されて以降、ポップアーティスト達から発信される作品には受け手の生活に寄り添うものや、日常を改めて見つめ直すようなものが増えた傾向にある。そして、この「KAZE」もまたその一つである、と言えばそうなのだが、そもそもEXILE ATSUSHIという人は元来“他者の不安や悲しみに寄り添いたい”という気持ちが人一倍強い人なのではないかと思う。以前より児童養護施設への支援など社会貢献に重きを置いた音楽活動を続けてきていることや、今回の『Musician Aid Japan Project』からもその想いが伺えるし、何よりこの「KAZE」に込められたメッセージに、その精神性が現れているように感じられるのだ。〈悲しみの波に/のみこまれないように/必死に今を耐えて/優しい気持ちでいられるように〉というストレートな祈りの表現と、その後の〈手を繋いで君と歩く〉というサビのフレーズは、一つの意思表明にも聴こえる象徴的な部分だ。
つまり、今後もこうした音楽作品や様々な活動を通して、人の心に寄り添おうという真摯な想いが、この歌には込められている。苦境に立たされた人々を支えるための活動のテーマ曲としても相応しいと言えるだろう。さらに、これはあくまで想像の域を出ないが、Aメロの歌い出し〈たとえば君が/そばにいてくれるだけで〉は、米米CLUBの代表曲「君がいるだけで」へのオマージュのようにも思える。ここには、ATSUSHIなりの石井へのリスペクトが込められているのかもしれない。
新型コロナウイルスの収束の見込みは未だ定まらず、まだまだ多くの人にとって厳しい状況が続くが、それでももうすぐ春の季節がやって来る。近年は特に温かみのある歌を歌うことが増えているATSUSHIだが、「KAZE」はその中でも特に、これからの時期に最適の楽曲だ。制限の多い日常の中でも、時には季節の移ろいを感じながら心を休めて、この優しい歌声に身を委ねてみるのもいいかもしれない。
■日高 愛
1989年生まれの会社員。