門脇更紗が叶えた一つの夢はさらなる夢への通過点に 配信ワンマンライブ『マイルストーン』レポート

門脇更紗『マイルストーン』レポ

 シンガーソングライターの門脇更紗が2月7日に無観客の配信ワンマンライブ『マイルストーン』を開催し、3月3日に配信シングル「トリハダ」でメジャーデビューすることを発表した。

 当初は前日の2月6日に神戸VARIT.での有観客ワンマンライブが予定されていたが、新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて、やむなく中止が決定。本来であれば、彼女が19歳の時に初めてワンマンを開催したライブハウスで、路上ライブ時代から応援してくれてきた地元のファンの前でメジャーデビュー決定の報告をしたかっただろう。その願いは叶わなかったが、その代替公演として、無観客配信ライブが決まり、1月24日には、自身のYouTubeチャンネルに動画をアップし、「私が今まで音楽活動をやってきた中で、一番になるんじゃないかっていうくらい大事な大事なご報告をさせていただくので、ぜひその瞬間をリアルタイムで見ていただけたら嬉しいです」とアピール。ファンはそれが何の報告かは想像できていたと思うが、それでも、誰かの夢が実現する瞬間を目撃するというのは、やはり特別な感慨をもたらせてくれるものだった。

 10歳でアコースティックギターを弾き始め、14歳で作詞作曲を開始した彼女。高校時代になると路上ライブやカバー動画の制作を始め、18歳で初のミニアルバム『You and I』とアコースティック音源『18』をリリースし、19歳で1stアルバム『雨の跡』を発表。二十歳を機に拠点を東京に移し、2020年は6曲の新曲を配信リリースしてきた。大きな節目、経過点、中間目標地点を意味するタイトルが付けられた本公演は、彼女がこれまで歩んできた道をともに振り返るようなセットリストとなっていた。

 冒頭は、1stアルバム『雨の跡』に収録されている、自身のライブで育ててきた「Diamond」、「白」。忘れたいけど忘れたくない、忘れたくないけど忘れてしまいたいような複雑な心の揺れをアコースティックギターの弾き語りで丁寧に紡いでいく。イメージ的にはアコギが横軸で歌声が縦軸。激しいストロークでグルーヴをあげていく一方で、ボーカルは低音、中音、高音にファルセットを自在に駆使しながら、出し引きのボリュームも調整されており、アコギと歌だけながらも、立体的な音像が作られていった。

 次の「いいやん」からは昨年の自粛期間中に制作された楽曲を続けた。昨年、正月休みに引き続き、年明けすぐに旅行を入れてしまったことで、スタッフから休みすぎだと怒られた時、「すみませんと謝りながらも心の中で“いいやん”って思ってしまってる自分がいた」ことが発想の出発点となり、「ダメな自分も人間らしくていいやんって、自分を肯定する気持ちになってもらえたらいいなと思って完成させた」という配信シングル「いいやん」。ライブでは以前から歌っていたが、おうち時間で作った自作のMVを公開した配信シングル「えのぐ」。そして、「大切な人に会いたい時に会えないもどかしさ」をテーマにした曲で、昨年4月にYouTubeにアップした、アルペジオによる静謐なバラード「よく、分かったの」。独り言のような語り口で、どこにも行けず、独りで部屋にいる日々が蘇ってくるような演奏だった。

 2020年から2016年へ。「ライブではあまり歌ってこなかった」という「snow」は歌詞にもあるとおり、〈17歳の冬〉に作ったと言う楽曲でクラスメイトと過ごした校舎の情景も描かれていた。上京前の心境を描いた「知らないままでいい」や亡くなった方からまだ生きている大切な存在へ語りかけるような「Starlight」、家族への感謝を込めた「Let Me Say」を経て、いよいよ彼女の出発点へと遡る。10歳の時に親に勧められ、シンガーソングライターを志すきっかけとなったYUI「Good bye day」のカバーは情感豊かで、アコギをかき鳴らす手も歌声も熱を帯びていた。続く、「to look up」は彼女が14歳の時に、「オーディションに落ちた時の悔しい気持ちを曲にしようと」と思い立ち、初めて作詞作曲に挑戦した、初のオリジナル楽曲。悔しさよりも、まだ未来を諦めないという意志の強さと自分らしく生きて行くんだという決意が込められており、タイトル通り、顔を上げ、前を向いて進んできたからこそ今があるんだと、再確認させられる思いがした。

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