スピッツ、『NEWS23』エンディングテーマ「紫の夜を越えて」が届けるひと時の安心感 大きな優しさを放つ本質的なタフさ

「猫ちぐら」
「猫ちぐら」

 逞しく打ち鳴らされるドラムの上を骨太なベースラインとしなやかなギターが走り、透明度の高いファルセットを響かせる草野マサムネ(Vo/Gt)の歌声はどこまでも凛々しい。現時点で番組内のエンディングテーマとして流れる数十秒しか明らかにされていないが、その箇所を聴く限り新曲「紫の夜を越えて」は力強い曲だ。

 昨年リモートで制作され、今回のコンサートのタイトルの元となった2020年唯一のシングル「猫ちぐら」は流麗なアルペジオが印象的なメロウな楽曲。君と僕の穏やかな暮らし、そこに訪れた思いがけない出来事とそれでも今見える景色を守り抜くことを誓う約束の言葉が並ぶ。コロナ禍のような未曾有に遭遇すると、小さな世界から大きな優しさを放つスピッツの本質的なタフさに気づかされた。

スピッツ / 猫ちぐら (映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ”』より)

 そして「紫の夜を越えて」は、「猫ちぐら」での約束をさらに固く結ぶような頼もしさを感じた。テレビで公開されている歌詞だけで判断するのは時期尚早かもしれないが、一歩踏み出すような言葉が並び、いつも以上に不安な心に寄り添ってくれる楽曲だと思う。報道番組に接すると、不穏な報せや怒りに震える瞬間もきっとあるがこの曲が鳴る時間だけはひと時の安心をもたらしてくれるはず。フルサイズの公開が楽しみでならない。

 草野はこの起用に「新型コロナの影響で従来の価値観が揺らいで、社会全体が不安の霧で覆われそうな昨今です。そんな日々の締めくくりに『NEWS23』を見て一喜一憂した後に、この曲を耳にされた方々が今後少しずつでも霧が晴れて、明るい方へ向かっていけるイメージを持ってもらえたらという思いで作りました」というコメントを寄せた。緊急事態宣言が再び発令され、様々な混沌が先行き不透明なままで辿り着いた2021年。この「紫の夜を越えて」と『猫ちぐらの夕べコンサート』は誰しもに開かれたものであるが、確実に聴き手一人ひとりに届く強度を持つ。スピッツのいる夜ならばきっと大丈夫と思わせてくれるのだ。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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